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姿勢 座り姿勢

前回の立ち姿勢に続いて、今回は座り姿勢について書きたいと思います。

座ることは、ヒトにとって、とても不自然な行為です。
なぜならヒトは、数百万年かけて、「二本足で直立して歩く」ためにカラダを進化させてきたからです。
ヒトのカラダの重心は骨盤の中心部にあるため、お尻を地面につけて体重を乗せ、重心を安定させてしまっていると、危険が迫った時即座に反応して動き出すことができません。
また疲れたカラダを休めたい時には、寝転がった姿勢の方が圧倒的に楽で効率的に回復できます。
動くためにも休むためにも中途半端な座り姿勢は、進化の過程ではあまり考慮されてこなかったのです。

座る姿勢では立ち姿勢以上に、背骨の椎骨と椎骨の間にある椎間板に負担がかかります。
座ることで重心の位置が後ろに下がり、背骨の自然なS字カーブを崩してしまいやすいからです。
この傾向は特に、平らな床に直接座った時や、背もたれのある椅子に座った時、顕著に現れます。

また長時間座り続けていると、脚の筋肉が使われず、ふくらはぎを中心とした体液循環システム(第二の心臓機能)が働かず、血流やリンパの流れが滞ってしまいます。
脚部の滞りは全身の循環機能の不良を招き、冷えやむくみ、コリの原因となる上、免疫系や脳の働きにも影響します。
エコノミークラス症候群と呼ばれるような深部静脈血栓症を招いて、突然死をもたらす場合もあります。
そして長く座っている習慣を持っている人は、染色体の末端部にあるテロメア(加齢度を反映する)が短くなるという報告もあります。

これだけのデメリットがありながら、ヒトはなぜ座るのでしょう?

今から1万年ほど前、座ることは社会的な意味を持つようになりました。
移動採集生活をする集団が、火を囲み車座になって、採ってきた食物や獲物を分け合って食べるようになったのです。
メンバー全員が腰を下ろして座ることで、攻撃の意思がないことを示し合い、互いに目線を合わせることで、寛げる空間を共有しました。

車座で座ることはメンバー各々の間の平等性を表していますが、集団が大きくなっていくのに従い、着座の際の目線の高さの違いによって、集団内の立ち位置を意味づけするようになりました。
その空間で一番高い場所にある岩や切り株の上にはリーダーが座り、2番手3番手と順位が下がるにつれて目線がだんだんと低くなるような組織構造ができ上がっていきます。
多くの人々が定住して農耕を始め、村や町、都市ができ、世界各地で古代文明が起こると、トップである王様以下、集団内の上下関係は強固になり、固定されるようになります。
そして古代文明の一つエジプトで椅子が発明されると、玉座は権威や神性のシンボルと考えられるようになり、椅子の文化は王の権威とともに世界中に広まって行きました。

また一方で、町や村に暮らす多くの庶民たちは、衣服や道具類、保存食など生活に必要な様々なモノものを創作することを日課としていました。
こうしたクラフトワーク作業にあたっては、落ち着いた環境で手や頭を自由に働かせることができる座位は最適な体勢です。
脚の大きな筋肉を休めて、その分のエネルギーを手や頭で使うために座姿勢を選ぶ事は、ホモファーベル(作るヒト=工作人)としては必然なのかもしれません。

このように、座ることは自然の中での暮らしから離れた、社会的文化的な行為として始まり続けられてきた習慣であるため、不自然であるのは当然のことです。
しかしヒトは太古より長年の間座り続けることで、自然と社会の妥協点としての「座る文化」を生み出してきました。
次回はそのことについて書こうと思います。

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