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地域経済の希望③~長野県大町市往訪録(前編)~


信濃大町という駅名の響き

突然ですが、私は幼少期のころ鉄分多めの鉄っちゃんでした。今はそれほど熱を上げることはありませんが、幼いころは時刻表をずっと読んでいた少年で、東海道本線も東京から静岡までは諳んじて言えるほど。

そんな私が大好きだったのが「JR特急」という小学館から出ていた図鑑で、同図鑑に載っていた各特急の運行区間は大体覚えていました。
例えば、今も運行している中央本線の特急あずさは「新宿~南小谷」が運行区間で、幼いながらに「南小谷(みなみおたり)ってどんなところなのだろうか」と胸を躍らせていました。

そしてあずさに関連して言えば、停車駅の一つである「信濃大町」の駅名が妙にかっこよく感じていて(完全なフィーリング)、ずっと訪れてみたいと思っていました。ただ、社会人になって長野県内の人に話を聞くと「大町は黒部ダムの入口だけど、他にはあまり見どころが無い」とのつれない返事。そんなこともあって自然と私も足が遠のいていました。

そんな中、訳あって今回は半日ほど大町市内を訪問する機会があり、駅前とその商店街周辺だけですが、子供を連れてお散歩をしてきました。街のほんの一部分しか見れていないレベルの話ですので予めご承知おきを。

信濃大町駅の駅舎

大町市とは

大町市は長野県の北西部に位置する人口3万人に満たない小規模都市。松本市から長野オリンピックの開催地として著名な白馬村の中間点にあり、安曇野のお隣といった方が分かり易いかもしれません。そして、特色として立山黒部アルペンルートの長野県側の入口にあたるほか、サントリー天然水の北アルプス信濃の森工場があるなど、水資源が豊かな地域。

古くは、上杉謙信の「敵に塩を送る」の故事成語でおなじみの塩の道・千国街道の宿場町として栄えた歴史を持ちます。

塩の道ちょうじや

製造業関連では、電車に乗って信濃大町駅に近づくと旧昭和電工(現レゾナックHD)の大町事業所が見えてきますが、大町市は民間企業である同社が水力発電所の建設などを通じて一帯の水利開発を進めてきた珍しい歴史もあります。

確かに商店街は活気があるとは言えない

駅を起点に散歩をスタートして、塩の道ちょうじやを目指してお散歩してみました。

信濃大町の駅は風情のある駅舎で、北アルプス、立山黒部アルペンルートの玄関口にふさわしい佇まい。ただ、残念なことに駅前にもかかわらず人影はまばらで、松本や白馬に比べるとその差は歴然。でも、駅前のマップを見る限り、駅から徒歩圏内でも見どころはかなりありそう。

中心商店街には立派なアーケードがありますが、シャッター店舗や空き地も目立ち、いわゆる歯抜け現象が徐々に進んでいる様子。これは人口減少およびショッピングの郊外化が進む中では仕方ないことなのかもしれません。

駅前広場にある作詞家「吉丸一昌」の像

地域に根差すコンテクストを活かせるか

街中を歩いていると湧水が流れ出るスポットがあり、逍遥する人々の喉を潤します。どうやら周辺に9箇所の水飲み場があるそう。視覚的にも見ていて涼しく、”北アルプスの天然水の町”というブランディングはもっと生かせそう。

例えば、この地域の水で作ったものは、首都圏の人からすればすべてミネラルウォーターで作られたものと同義なわけで、この水で炊いたお米やコーヒーなんかは考えただけでもおいしそう。極論、顔洗うだけでもその日一日の顔つきが変わりそうなものです。つまり、町の人にとっての当たり前が、ヨソモノからすればものすごい魅力を持っている代表例といえるでしょう。

商店街の水飲み場

また、さらに魅力的なことに、この街には女清水と男清水という水にまつわるストーリーがあります。要約すると以下の通り。

町の中央を貫く通りの東西で飲む水の水源が異なっており、東側は居谷里の湧水、西側は北アルプス白沢の湧水を利用していた。不思議なことに東の集落では女の子ばかりが、西の集落では男の子ばかりが生まれるため、いつしか人々は居谷里の水を女清水、白沢の水を男清水と呼ぶようになったとのこと(出典は大町市HP「大町のうまい水「男清水女清水」の物語」)。

一見しただけでもこのストーリーはかなり興味深く、水にまつわるストーリー・コンテクストがあるのは歴史のある街道宿場町の持つ強みだなと実感しました。ただ単に”水が豊富”というだけでなく、北アルプスという強いブランディングと水の歴史が持つストーリー性を活かせればもっと街の魅力を高められるのではないか、と外様ながらに考えたところです(地元の方はすでに取り組まれていると思います)。

そして、商店街を奥に進むと、町の新たな息吹きや魅力的なエリアをみつけたのでした。

つづく


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