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魅惑の線

西新宿でワタシは〈魅惑の線〉に出逢った。


初台のオペラシティでは和田誠さんの展示会が開かれており、老若男女さまざまな見物客でごった返していた。カラフルでユーモラスな和田さんの作品の数々。ゆるい動物から古今東西の著名人のモチーフ、有名な広告デザインにいたるまで、実に幅広く。世間に著名な文化人の作品展は盛況を博していた。


そんな賑わいをみせるフロアの片隅。上階へあがるための階段がかけられていた。看板をみるところ、どうやら別の作品展のよう。


階段を上り展示室に入ると、圧倒的な静寂があった。

聴こえるのはまばらな見物人の靴音や空調音だけ。
階下の雑踏と対照をなす張り詰めた空間だった。


そんな空間に展示されていたのは〈線〉

色もなく、大半が「無題」と記された線の集合体

とにかく緻密に、且つ大胆というか奔放に、縦横無尽に描かれた〈線〉

その〈線〉が集合して何やらモチーフのようになっている部分

ひたすらに同方向に引かれた無数の〈線〉

それがA4程の白紙の上に、多彩に描かれていた。


ひとつひとつの作品を、その〈線〉の動向を、食い入るように見た。

なにがそんなに魅力的なのかと訊かれたなら、ワタシは答えることはできない。本当に惹かれるものには、それこそ筆舌しがたい、無意識下に湧きあがる感情がある。それは感動とはまた違う、なにか別のことばで表したくなる感情。

唯々、感情が作品に食いついたまま離れず、

ある程度進んでは戻り、また進んでは見返しに行き。

この、先走る感情の原因というかをまったく表現できない。


その無数の〈線〉が集合した色のない作品の数々は、作者のなにか抑え難く、整理整頓の効かない、迸る心の揺れ、衝動をありのままに投げかけているように見えた。


先の細いペンで、情景を思うままに視覚化する。そんな行動の結果を目の当たりにし、興奮した。


その作者は、難波田史男という早逝の表現者だった。

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