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昭和レトロのプロジェクトから振り返った「無意識的無能と意識的無能」-知ることを知ることの大切さ-


無意識的無能と意識的無能を経験していた

以前、リユース企業がプロデュースするコンセプトストアに出品する昭和レトロの家電や生活雑貨のコンセプトデザインのアップデートをおこなった時の経験についてお話しします。このプロジェクトはSDGsの目標12「つくる責任つかう責任」と、使わなくなったモノに新たな価値と魅力を与えることを目的に、具体的には、1950年代から1980年代の家電製品、調理器具、生活雑貨などが対象でした。

前回の記事を書いている時、私は「無意識的無能」と「意識的無能」を経験していたことを思い出しました。家電や生活雑貨など、身近なモノでも普段意識していないと、情報は耳に入ってこないし、知識として頭に残ることもなく、取り扱う技術やノウハウも身につきません。まして、昔の家電や雑貨などは、子供の頃の遠い記憶に残っているものの、実際に扱った記憶がないため、正しい使い方ができるかわかりませんでした。

そこで、「無意識的無能」と「意識的無能」を振り返ってみると、以下のような気づきがありました。

  1. 全く意識していなかった :何気なく使っているものについて、その背景や機能を全く意識していない

  2. 知っているつもりだった :メーカーや製品の名前は知っていても、具体的な使い方や機能までは理解していない

  3. 知っているけど十分な理解まで至っていなかった:一見わかっているようでも、実際には深い理解が欠けていた

一般的に興味のあるものとないものとでは、インプットされる情報や知識の質も量も全く変わってしまいます。身近なモノであっても普段意識していないと情報は耳に入ってこないし、知識として頭に残ることもありません。そのため、取り扱う技術やノウハウも身につかないのです。

リサーチを通じて知る事実:無意識的無能

黒電話は外見こそ大きな変化がないものの、技術の進化や電話の権利取得に多額の費用がかかったこと、民営化の規制緩和で多機能製品が登場したことなど、知らないことがたくさんありました。ラジオに関しても、現在の公共放送料金の徴収のように、放送を聴くためには契約して料金を支払う必要があったことなど、全く想像がつきませんでした。これらの発見は、実際に知る機会にならなければ知る由もなく、まさに「無意識的無能」の状態といえます。

わかっていたつもり:意識的無能

出品される家電や生活雑貨の用途は何となく理解していても、実際の機能や使い方まではよく分かっていませんでした。例えば、「パナソニックではなくナショナル!」や「シャープがこんな商品を作っていたのか!」とメーカー名や製品の用途は知っていても、「このボタンは押したらどうなるのか?」「この機能はいつ使うのか?」といった具体的な使用方法については分かっていませんでした。これがまさに「意識的無能」の状態です。

製品の歴史や背景に関する知識が欠けていると、デザインの意図や目的を正しく理解することが難しくなります。昔の家電には現代では見られない独特な機能が備わっていることが多く、それらの意味や用途を理解するには、当時の生活様式や技術についても学ぶ必要がありました。自分では「知っている(わかっている)ようで知らない(わかっていない)」状態は、客観的に見れば「意識的無能」を象徴していると思われます。

おもいをカタチにしていた時代

昭和家電のコンセプトデザインに取り組む中で、知っているつもりだったことが実は表面的な理解に過ぎなかったことに気付きました。知識を深め、過去を振り返り、学びの過程を経て、新たな発見がいくつもありました。

この時代の家電製品は、現在の基準で比較することは適切ではありません。手にとって見た時、「このボタンやレバーは本当に必要なの?」という疑問が生じるかもしれませんが、それは現代の価値観での見方に過ぎません。当時は、こうしたデザインや機能が真剣に検討され、必要とされていたのです。製品自体は、色合い鮮やかでシンプルなデザインが多くて、Apple製品にありそうな印象も持ちました。

工業デザインは、単なる形状や機能の提案にとどまらず、その時代の社会的なニーズとストーリーを反映しています。例えば、戦後の日本では、復興と共に生活の質を向上させるための具体的な取り組みがおこなわれました。これらの取り組みは、その後のデザインに多大な影響を与え、私たちの日常生活に深く根ざした製品を生み出す基盤となりました。さらに、現代のデザインは、単なる機能性だけでなく、感情や意匠に訴えかける要素を取り入れることで、製品は単なるツール以上の存在となり、ユーザーとの共感を生むことができるのです。UI、UX、BXなどの概念が、戦後の復興と成長の中で養われてきたことも理解できます。

この時代の工業デザインは、日本人のさまざまな思いや要望が凝縮され、生活を豊かにしたいというおもいをカタチにしています。コンセプトと学習の4段階で考えると、早期に実現したいビジョンを明確に持つことで、初期段階から意識的無能を自覚し、意識的有能に至る過程に積極的に取り組むことができたことが、経済成長の一つの推進力となったのです。

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山名秀典|OFFICE P
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