山花郁夫

法学を学んだことのない人にも憲法の論点、考え方について理解してもらう一助となればとこの…

山花郁夫

法学を学んだことのない人にも憲法の論点、考え方について理解してもらう一助となればとこの試みをはじめることにしました。

最近の記事

  • 固定された記事

【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

国会議員と地方議員の任期の違い衆議院憲法審査会で、国会議員の任期延長が議論されています。しかし、議論されている内容について、論理が逆立ちしているのではないか、そんな気がしてなりません。 議員の任期については、衆議院議員が4年(ただし、任期満了前に解散の可能性あり)、参議院議員が6年(3年ごとの半数改選)ということや、知事、市町村長、地方議会議員の任期が4年ということは、多くの方がご存じのことと思います。しかしこの任期は、憲法上のものか法律上のものかという違いがあります。

    • 【第75回】学問の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

      1. 保障の趣旨学問研究の成果が発表されると、時間、空間が絶対的なものではなく、相対的なものであるというように、時として人々の常識的感覚と異なることがあるだけでなく、時の為政者にとって都合が悪くなることがあります。反政府の言論のように、政府に都合の悪い学問研究については抑圧された、というのが歴史の教訓です。 中世のキリスト教会が天動説を唱えたガリレオに対し、教会の権威を害するものとして天動説を取り消させたことが、「それでも地球はまわる」という言葉とともに有名です。 進化

      • 【第74回】エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

        1. 政教分離と信教の自由政教分離原則は、個人の信教の自由を徹底しようとするための制度だと説明してきました。しかし一見すると、両者が対立するようにも思われるような事件がありました。エホバの証人剣道拒否事件です。 2. 下級審では判断が分かれた神戸市立工業高等専門学校のある学生は、エホバの証人の信者で、聖書に従うならば格技である剣道実技に参加できないという信念を持ち、必修科目である保健体育の剣道の授業ではレポート提出等の代替措置を認めてほしい旨申し入れたのですが、校長は代替

        • 婚姻「平等」法案のメッセージ    ーすべての人に婚姻の自由をー

          1. 憲法24条は何を規定しているのか木村草太教授から、「憲法の人権規定は貼紙のようなものである」ということをうかがったことがあります。 つまり、「貼紙禁止」という貼紙があれば、「これはだれかが勝手にこの壁に貼紙をしたのだな」ということがわかるし、「立小便禁止」という貼紙があれば、「ここで以前しでかした人がいるのだな」ということがわかるのと同じように、「検閲はこれをしてはならない」(憲法21条2項)という規定があれば、かつて検閲によって表現の自由が抑圧されたのだな、という

        • 固定された記事

        【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

        • 【第75回】学問の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

        • 【第74回】エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

        • 婚姻「平等」法案のメッセージ    ーすべての人に婚姻の自由をー

          【第73回】政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. どのような行為が禁じられるのか憲法20条1項後段は、宗教団体に対する「特権」の付与、「政治的権力」行使を禁止しています。 時として、「宗教法人が非課税である」ということを問題視する人がいますが、これは、「宗教法人だから」ということで非課税になっているのではなく、宗教法人が「公益法人等」に位置づけられ、法人税が原則として非課税とされているということです。 また、政治的権力の行使の禁止については、宗教団体が政治的活動を行うことが禁止されるのではなく、ドイツのように、課

          【第73回】政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          いわゆる「裏金」問題をめぐって

          メディアなどでは、さまざまな改革や法改正が必要ではないかとの論調もありますが、そもそも法改正の問題なのかな、という疑問があります。 今回のキックバックの問題は、政治資金規正法に基づいて記載すべきものを記載しなかったという違法行為です。「抜け道」つまり脱法行為があったということであれば、抜け道を防ぐための法改正などの「改革」が必要でしょうが、すでに法律は存在しています。「人を殺してはならない」「他人の物を盗んではならない」という法律がすでに存在しているにもかかわらず、殺人や窃

          いわゆる「裏金」問題をめぐって

          【第72回】信教の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 信教の自由の保障と限界信教の自由は、内心にとどまる限り、他者の人権などを侵害することはあり得ませんから、信仰の自由としてその保障は絶対的なものと考えられます。 これに対して、布教活動をはじめとして、外部的行為については、他者の人権との調整が必要になります。思想・良心の自由と表現の自由の関係と同様です。 2. 加持祈祷事件事件は、病人の求めに応じその平癒のため加持祈禱することを業としていた僧侶が、息子(A)が異常な言動をするようになったので平癒のため加持祈禱をしてほし

          【第72回】信教の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第71回】信教の自由と政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 明治憲法下の信教の自由明治政府は江戸時代以来のキリスト教の禁止を解きました。明治憲法で、 と規定されました。 しかし、次第に特別の待遇を受けることになる宗教が現れます。神社神道です。 明治政府は、神話にもとづく天照大神の言葉、「神勅」を政治体制の基礎に置きました。そして、天皇は天照大神の子孫にして神であるというのです。★ 神社は一般の宗教から区別して、公的な性格が与えられました。具体的には、神社は公の法人とされ、神官・神職は官吏とされました。政府内でも、一般の宗

          【第71回】信教の自由と政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          今年の振り返り2023

          間もなく、2023年が終わろうとしています。 経済的には円安に伴う物価の上昇、政治的には旧統一教会問題から、パーティー券に関する裏金問題など、安倍政権時代の負の遺産が噴出した一年でした。 定年延長が問題とされた黒川弘務検事長が退場したことも、東京地検特捜部が動きやすくなった一因ではないかと考えられます。 パーティー券の還流問題について、メディアでは法改正の必要性を指摘する論調も見られますが、若干の違和感があります。法律に不備があった、法律に抜け穴があった、ということであ

          今年の振り返り2023

          【第70回】大陸法の反論権~放送 原則はどちらか #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 反論権制度の広がりところで、反論権について、サンケイ新聞事件最高裁判決はきわめて否定的なのですが、フランスやドイツ、イタリアやベルギーなど、ヨーロッパの諸国では、普通に行使されている権利です。 ヨーロッパの反論権の制度は、19世紀から存在していますから、「送り手」と「受け手」の乖離という現代的な現象を受けて制度化されたものではありません。20世紀になってからも、1985年にスイスが反論権を制定したり、21世紀に入っても2004年、ヨーロッパ評議会において、インターネッ

          【第70回】大陸法の反論権~放送 原則はどちらか #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第69回】アクセス権⑤ #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 中間的な領域の存在についてこれまで検討してきたのは、不法行為が成立しない場合で、政党に対する意見広告のケースと、個人に対して名誉毀損を理由とする不法行為が成立しているケースですから、いわば対極にあるというか、両極端なケースです。純然たる民間人についてしかも不法行為も成立しないという、中間的な領域というのが存在します。 2. 刑事責任・民事責任ところで、自動車を運転していて、人にぶつけてしまった場合、状況にもよりますが、業務上過失致傷罪(刑法211条)が成立することにな

          【第69回】アクセス権⑤ #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第68回】アクセス権④ 名誉毀損・不法行為を要件とする反論・訂正 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 当該メディアが第三者の場合名誉毀損が成立している場合、訂正文なり反論文掲載請求権の問題を考えるに当たっては、メディアが第三者の場合と当事者の場合が考えられます。 謝罪広告事件では、政見放送などで名誉毀損が行われ、これに対する謝罪広告を新聞に掲載するというものでしたから、この場合、新聞社は名誉毀損事件に関しては第三者です。裁判で負けた被告から料金をもらって広告スペースを提供すればいいだけの話ですから、そもそもが「送り手」の側の表現の自由の問題というのはほとんどありません

          【第68回】アクセス権④ 名誉毀損・不法行為を要件とする反論・訂正 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第67回】私人間効力~アクセス権③ #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          不法行為が成立している場合名誉毀損に基づく不法行為が成立している場合に、民法723条の適当な処分として、謝罪広告の掲載を裁判所が命じるということがかなり古くから行われてきました。これはアクセス権の問題としてではなく、思想・良心の自由の侵害ではないかという形で争われました。昭和31年の最高裁判決(最大判昭31.7.4)ですから、まだアクセス権という考え方もなかったのかもしれません。 どんな事件かこれは、衆議院議員選挙に際して、対立候補があっせん収賄を行ったと政見放送や新聞で公

          【第67回】私人間効力~アクセス権③ #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第66回】私人間効力~アクセス権② #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          不法行為を要件としない場合まず、名誉毀損などの不法行為を要件としない、広い意味でのアクセス権、反論権について、どのような人権の調整の問題なのか、ということについて整理をしてみます。 アクセス権の主張はもともと、「送り手」と「受け手」の乖離という現象を踏まえ、「受け手」の側が、一方的な情報提供を行う「送り手」の側にアクセスして、反論や、異なった見解などを紹介させよというもので、「知る権利」の私人に対する請求権、ということになります。 この事件の相手方は新聞社でしたが、雑誌

          【第66回】私人間効力~アクセス権② #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          GID特例法違憲判決について

          最高裁判所大法廷は2023年10月25日GID特例法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)のいわゆる手術要件について、違憲であるとの判断を示しました。★ 自分が作った法律が違憲と判断されるのは、複雑な心境でもあります。 もともとこの法律は、与党側は南野知恵子参議院議員(後に法務大臣)が、野党側は私が折衝して、議員立法で2003年に成立したものです。 当時も、この内容の法律では、救済されるのは当事者の一部になってしまうなどから、野党側は、ハードルの低い要件で性

          GID特例法違憲判決について

          【第65回】私人間効力~アクセス権① #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          アクセス権とは「知る権利」がメディアに対して向けられて、アクセス権という主張がされたということから、私人間効力の問題に派生しましたが、再びアクセス権の問題に戻りたいと思います。 アクセス権は、狭い意味においては、①名誉毀損を理由とする不法行為に対する救済方法としての反論権の意味で用いられることもありますし、さらには、②不法行為の要件を満たさない、つまり名誉毀損などを要件としない反論権という広い意味で用いられることがあります。★ アクセス権の主張が登場してきた背景として、

          【第65回】私人間効力~アクセス権① #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話