山花郁夫

法学を学んだことのない人にも憲法の論点、考え方について理解してもらう一助となればと… もっとみる

山花郁夫

法学を学んだことのない人にも憲法の論点、考え方について理解してもらう一助となればとこの試みをはじめることにしました。

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【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

国会議員と地方議員の任期の違い衆議院憲法審査会で、国会議員の任期延長が議論されています。しかし、議論されている内容について、論理が逆立ちしているのではないか、そんな気がしてなりません。 議員の任期については、衆議院議員が4年(ただし、任期満了前に解散の可能性あり)、参議院議員が6年(3年ごとの半数改選)ということや、知事、市町村長、地方議会議員の任期が4年ということは、多くの方がご存じのことと思います。しかしこの任期は、憲法上のものか法律上のものかという違いがあります。

    • 【第64回】私人間効力 ―裁判例から― #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

      私人間効力の問題に戻りますかつてはあまり議論の盛んでなかった私人間効力について、最近では整理し切れないような議論がされている、ということからわき道にそれてしまいました。 最先端の議論について、さまざまな見解について紹介すると相当な時間がかかりますので、私人間効力に関しても、ドイツの理論を導入できないかという見解が有力だということだけ紹介しておきたいと思います。 ここでは、有名な判例の事案と、むしろ、判例分析とは違った視点を提示してこの問題のまとめとしたいと思います。 三

      • 8月15日に想う

         以前、元自衛官のIさんに誘われて、御殿場で行われる自衛隊の富士総合火力演習に行ったことがあります。    Iさんは自衛隊に所属していたことを誇りに思っている方でした。「自衛隊友の会」の名刺を持って、街中に自衛官募集のポスターを貼ることにも汗をかいていた人です。   しかし、安倍内閣の下で強行された安保法制については憤っていました。    「俺たちは日本の国民のためなら『事に及んでは危険を顧みず』って、宣誓していたんだ。もちろん、そんなことがあっちゃあいけねえけど、俺だってい

        • 学童保育をめぐって

          「待機児童」というと、今でも保育園を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、保育については定員割れも起きています。 地元では、学童保育について待機児童が発生しています。先日学童保育の現場で汗を流している職員の皆さんと意見交換する機会がありました。 保育については待機児童問題が社会問題としてクローズアップされ、(充分かどうかは別として)職員の待遇改善が進みましたが、学童の職員(放課後児童支援員)については家賃補助(住宅手当)をはじめとして、待遇改善が追い付いていないとの

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        【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          マイナ保険証をめぐって

          オンライン資格確認においては機器の不具合や登録の不備などにより、窓口において保険資格が確認できず、患者が窓口で10割負担を求められるケースが発生しています。そもそも最新の資格が反映されるまでにタイムラグがあることも原因です。 厚労省は本人確認をしたうえで3割負担となるよう指導することとしましたが、本当に資格がなかった場合、医療機関に未収金が発生するおそれがあります。本人確認と資格確認は別の事柄だからです。紙の保険証を使っていれば起こらなかった、医療機関と患者の無用なトラブル

          マイナ保険証をめぐって

          【第63回】私人間効力の問題に関連して、評価規範と行為規範について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          最高裁判例の評価日本国憲法の下で、違憲審査権が導入され、さまざまな憲法判断が下されました。その結論が学者にとっても満足のいくものであれば良かったのですが、どうにも人権の確保という観点からすると不十分に感じられる結論が多かったものですから、憲法学者の関心も、アメリカの判例で論じられるような違憲審査基準の研究に注がれるようになりました。それまでも、個別の人権について、アメリカの判例理論などの紹介をしつつ、日本の違憲審査への応用を唱える学者の方も少なくなかったのですが、芦部先生が

          【第63回】私人間効力の問題に関連して、評価規範と行為規範について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第62回】私人間効力の問題に関連して、憲法学のトレンドについて #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          芦部三部作から佐藤(幸)私人間効力の問題について、私が学生時代には、あまり大きく議論となっていなかった印象があります。自分の一世代前は、東大の芦部先生が米国留学から帰ってきて、憲法訴訟がブームでしたし、私の世代では京大の佐藤幸治先生が、青林書院から『憲法』の教科書を出版され、今では考えられませんが、あれが憲法の教科書なのかと物議を醸しだしていた時代でした。今では死語かもしれませんが、まだ、京都学派と東京学派という、学風の違いがあって、京大の先生の憲法の教科書、というだけで東

          【第62回】私人間効力の問題に関連して、憲法学のトレンドについて #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第61回】アクセス権~私人間効力 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          アクセス権「送り手」と「受け手」の乖離の問題から、「知る権利」に関する憲法問題について検討してきました。 ことの発端は、巨大メディアの出現でしたから、「知る権利」の主張もメディアに対して向けられることになりました。アクセス権の主張です。 「アクセス権」といった場合、法的な概念としては広狭さまざまな内容を含んでいるのですが、広い意味では、メディアがある見解を伝えたとき、それと異なる意見を持つ人・団体が、自分たちの見解を伝えるように要求する権利を指します。 このシリーズの最

          【第61回】アクセス権~私人間効力 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第60回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑫ 知る権利 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          「公用物」から「公共用物」へ情報公開法が制定される以前は、行政文書というのは、「公用物」とされてきました。公用物というのは、「行政主体が自己の執務の用に供する有体物」と定義されます。平たく言えば、役所が仕事のために使うもので、あくまでも役所のために使われる物、一般の皆様には関係のない物とされてきました。 そもそも、日本には昔から公文書や公の記録を保管しておくという習慣がなかったわけではないでしょう。しかし、保管していたものがあったからといって、それを公開しなければならないな

          【第60回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑫ 知る権利 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第59回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑪ 知る権利 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          知る権利の問題に戻ってきました知る権利との関係でわき道にそれて行ってしまいました。しかし、これまで見てきたように、19世紀的には表現の自由といえば、「送り手」にかかわる問題であったのに対して、現代では「受け手」の問題が重要であることはご理解いただけたのではないかと思いますし、何より「受け手」問題をクローズアップさせることになったのは、メディアの発達だったといっていいでしょう。 国民主権との関係「送り手」と「受け手」の乖離ということは、国民主権との関係でも重大な問題が起こりま

          【第59回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑪ 知る権利 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第58回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑩ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について⑤忘れられる権利について) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          EU一般データ保護規則(2016.4.27) EUでは、一般データ保護規則というのがすでに2016年から存在していて、第17条に「削除権(忘れられる権利)」が規定されています。 その内容は、個人データが不要になった場合、データ主体が公表の同意を撤回した場合、個人データが不法に処理された場合などに、個人データの削除等を請求する権利をデータ主体に認めるというものです。 ある歯医者さんの裁判犯罪の前科について、忘れられる権利が問題となった事案ではありませんが、興味深い裁判例が名

          【第58回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑩ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について⑤忘れられる権利について) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          放送法と公平原則

          1. 何が問題なのか一般に、表現の自由(憲法21条1項)は憲法が保障する他の人権に比べても特に重要であると説かれます。これは、①個人の自己実現にとって不可欠であるだけでなく、②国民の自己統治という価値があるからです。 人は、さまざまな情報に接し、また、自ら発信することによって、人格が形成されていきます。命の危険にさらされても、「それでも地球はまわる」と言いたくなるのが人間の性(サガ)というものです。 また、説得と討論の過程の保障は民主主義の基盤を形成します。もし、経済的自

          放送法と公平原則

          【第57回】ノンフィクション『逆転』裁判(最判平6.2.8) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          犯罪の前科の公表をめぐっては、公権力に対してではなく、作家に対する損害賠償を請求する裁判になった事件があります。 伊佐千尋(1929~2018)作・『逆転』(1977年、新潮社)という小説がプライバシー侵害として訴えられたものです。この小説は1978年に大宅壮一ノンフィクション賞(公益財団法人・日本文学振興会主催)を受賞したものだったこともあり、当時かなり話題となった裁判です。 どんな内容の作品か『逆転』は、1964年8月に、米兵2名と日本人4人の間で喧嘩があり、米兵1名が

          【第57回】ノンフィクション『逆転』裁判(最判平6.2.8) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第56回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑨ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について④犯罪の前科について) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          これも数字のマジック?日本の有罪率が高い、ということは結構多くの人が知っています。しかしこれは、刑事事件として起訴されたケースについて、有罪になる率がきわめて高いことを意味しているにすぎません。逮捕されてから検察に送られ、検察で起訴すべきと判断する、というプロセスがありますから、実は、逮捕されたからといって、有罪判決までに至る率という観点で見た場合、おそらく一般の人々の印象よりはぐっと下がるはずです。 これまでも、新聞の縮刷版など、一度報じられたものは半永久的に保存されてい

          【第56回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑨ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について④犯罪の前科について) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第55回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑧ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について③被害者の氏名の公表について) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          行政法における公表について行政法の世界では、「公表」という制度が制裁的意味合いで重要な場合があります。 たとえば、障がい者の法定雇用率を遵守しない場合に企業名を公表するような場合(障害者の雇用の促進等に関する法律第47条)などです。 これは比較的近年、有効性が強調されている制度です。資本の論理からすれば、法律を順守するよりも罰金を支払った方が経済的合理性に適うということがあり得ます。罰則で法の実効性を担保しようとするのではなく、むしろ企業に対する制裁としては企業名の公表に

          【第55回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑧ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について③被害者の氏名の公表について) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第54回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑦ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について②氏名の公表) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          行政による公表と、その情報の報道機関の釣り扱いについてそもそも、なぜ被害者について報道機関が知っているのでしょうか。もちろん、報じてほしい、という関係者の同意があれば問題はありません。しかし、時として被害者のご自宅で親御さんがインタビューに応じていたり、近所の人の話が出てきますが、なぜ記者とカメラマンはその場所にたどり着いたのでしょうか。 そりゃ、警察が公表してるからでしょと突っ込まれたあなた。正解です。メディアとしては、知ってしまった事実についてはできるだけ報じようとする

          【第54回】改めて表現の自由とは何を保障しているのか⑦ 知る権利(わき道にそれて犯罪報道について②氏名の公表) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話