山花郁夫

法学を学んだことのない人にも憲法の論点、考え方について理解してもらう一助となればとこの…

山花郁夫

法学を学んだことのない人にも憲法の論点、考え方について理解してもらう一助となればとこの試みをはじめることにしました。

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【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

国会議員と地方議員の任期の違い衆議院憲法審査会で、国会議員の任期延長が議論されています。しかし、議論されている内容について、論理が逆立ちしているのではないか、そんな気がしてなりません。 議員の任期については、衆議院議員が4年(ただし、任期満了前に解散の可能性あり)、参議院議員が6年(3年ごとの半数改選)ということや、知事、市町村長、地方議会議員の任期が4年ということは、多くの方がご存じのことと思います。しかしこの任期は、憲法上のものか法律上のものかという違いがあります。

    • 【第79回】財産権① #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

      1. 財産権の規定のしかたについてかつて所有権を筆頭に、神聖不可侵とうたわれた財産権ですが、社会経済の変化とともに、政策的な制約を受けるものと考えられるようになったことはすでに見てきました。日本国憲法も、29条1項で「財産権は、これを侵してはならない」としながらも、2項、3項では「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」としています。 この規定の仕方から、憲法解釈にあたっては一

      • 【第78回】職業選択の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

        1. 政策的制約職業選択の自由には、分析すると、職業を「選択」する自由(職業の開始・継続・廃止の自由)と、職業を「遂行」する自由(選択した職業活動の内容・態様における自由)を含むとされています。なぜこんな分析をするのかというと、「選択」する自由に対する規制は、そもそもその職業に就くことができるかという事前規制であるのに対して、「遂行」する自由に対する規制は選択することができた職業に対してそれを遂行することについてのいわば事後規制ということになります。したがって、「選択」する

        • 【第77回】経済的自由権・総論 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 総論これまで、思想・良心の自由(19条)・表現の自由(21条)・信教の自由(20条)・学問の自由(23条)という、人の精神活動に関する自由、精神的自由について紹介してきました。 これらに対して、憲法22条と29条は経済的自由を規定したものだとされています。 精神的自由の中でも、表現の自由を規制することは原則としてできないと考えるべきであり、規制することができるとしても、かなり厳格な基準をクリアしなければならないことについてもみてきたところです。 きわめて単純化す

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        【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第76回】大学の自治 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 京大事件(滝川事件)「大学の自治」という概念を理解するために、機関説事件とならぶ、学問の自由に関する京大事件(滝川事件)について振り返ることとしましょう。 1933年、文部大臣が京都大学総長に対し、法学部の滝川幸辰教授をやめさせるように、申し入れをしたことに端を発します。 京都大学法学部教授会は、学問的研究の結果として発表された、刑法学上の所説の一部が政府の方針と一致しないという理由で、教授が退職させられるようでは、「学問の真の発達は阻害せられ、大学はその存在の理

          【第76回】大学の自治 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第75回】学問の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 保障の趣旨学問研究の成果が発表されると、時間、空間が絶対的なものではなく、相対的なものであるというように、時として人々の常識的感覚と異なることがあるだけでなく、時の為政者にとって都合が悪くなることがあります。反政府の言論のように、政府に都合の悪い学問研究については抑圧された、というのが歴史の教訓です。 中世のキリスト教会が天動説を唱えたガリレオに対し、教会の権威を害するものとして天動説を取り消させたことが、「それでも地球はまわる」という言葉とともに有名です。 進化

          【第75回】学問の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第74回】エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 政教分離と信教の自由政教分離原則は、個人の信教の自由を徹底しようとするための制度だと説明してきました。しかし一見すると、両者が対立するようにも思われるような事件がありました。エホバの証人剣道拒否事件です。 2. 下級審では判断が分かれた神戸市立工業高等専門学校のある学生は、エホバの証人の信者で、聖書に従うならば格技である剣道実技に参加できないという信念を持ち、必修科目である保健体育の剣道の授業ではレポート提出等の代替措置を認めてほしい旨申し入れたのですが、校長は代替

          【第74回】エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8) #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          婚姻「平等」法案のメッセージ    ーすべての人に婚姻の自由をー

          1. 憲法24条は何を規定しているのか木村草太教授から、「憲法の人権規定は貼紙のようなものである」ということをうかがったことがあります。 つまり、「貼紙禁止」という貼紙があれば、「これはだれかが勝手にこの壁に貼紙をしたのだな」ということがわかるし、「立小便禁止」という貼紙があれば、「ここで以前しでかした人がいるのだな」ということがわかるのと同じように、「検閲はこれをしてはならない」(憲法21条2項)という規定があれば、かつて検閲によって表現の自由が抑圧されたのだな、という

          婚姻「平等」法案のメッセージ    ーすべての人に婚姻の自由をー

          【第73回】政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. どのような行為が禁じられるのか憲法20条1項後段は、宗教団体に対する「特権」の付与、「政治的権力」行使を禁止しています。 時として、「宗教法人が非課税である」ということを問題視する人がいますが、これは、「宗教法人だから」ということで非課税になっているのではなく、宗教法人が「公益法人等」に位置づけられ、法人税が原則として非課税とされているということです。 また、政治的権力の行使の禁止については、宗教団体が政治的活動を行うことが禁止されるのではなく、ドイツのように、課

          【第73回】政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          いわゆる「裏金」問題をめぐって

          メディアなどでは、さまざまな改革や法改正が必要ではないかとの論調もありますが、そもそも法改正の問題なのかな、という疑問があります。 今回のキックバックの問題は、政治資金規正法に基づいて記載すべきものを記載しなかったという違法行為です。「抜け道」つまり脱法行為があったということであれば、抜け道を防ぐための法改正などの「改革」が必要でしょうが、すでに法律は存在しています。「人を殺してはならない」「他人の物を盗んではならない」という法律がすでに存在しているにもかかわらず、殺人や窃

          いわゆる「裏金」問題をめぐって

          【第72回】信教の自由 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 信教の自由の保障と限界信教の自由は、内心にとどまる限り、他者の人権などを侵害することはあり得ませんから、信仰の自由としてその保障は絶対的なものと考えられます。 これに対して、布教活動をはじめとして、外部的行為については、他者の人権との調整が必要になります。思想・良心の自由と表現の自由の関係と同様です。 2. 加持祈祷事件事件は、病人の求めに応じその平癒のため加持祈禱することを業としていた僧侶が、息子(A)が異常な言動をするようになったので平癒のため加持祈禱をしてほし

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          【第71回】信教の自由と政教分離 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 明治憲法下の信教の自由明治政府は江戸時代以来のキリスト教の禁止を解きました。明治憲法で、 と規定されました。 しかし、次第に特別の待遇を受けることになる宗教が現れます。神社神道です。 明治政府は、神話にもとづく天照大神の言葉、「神勅」を政治体制の基礎に置きました。そして、天皇は天照大神の子孫にして神であるというのです。★ 神社は一般の宗教から区別して、公的な性格が与えられました。具体的には、神社は公の法人とされ、神官・神職は官吏とされました。政府内でも、一般の宗

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          今年の振り返り2023

          間もなく、2023年が終わろうとしています。 経済的には円安に伴う物価の上昇、政治的には旧統一教会問題から、パーティー券に関する裏金問題など、安倍政権時代の負の遺産が噴出した一年でした。 定年延長が問題とされた黒川弘務検事長が退場したことも、東京地検特捜部が動きやすくなった一因ではないかと考えられます。 パーティー券の還流問題について、メディアでは法改正の必要性を指摘する論調も見られますが、若干の違和感があります。法律に不備があった、法律に抜け穴があった、ということであ

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          【第70回】大陸法の反論権~放送 原則はどちらか #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 反論権制度の広がりところで、反論権について、サンケイ新聞事件最高裁判決はきわめて否定的なのですが、フランスやドイツ、イタリアやベルギーなど、ヨーロッパの諸国では、普通に行使されている権利です。 ヨーロッパの反論権の制度は、19世紀から存在していますから、「送り手」と「受け手」の乖離という現代的な現象を受けて制度化されたものではありません。20世紀になってからも、1985年にスイスが反論権を制定したり、21世紀に入っても2004年、ヨーロッパ評議会において、インターネッ

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          【第69回】アクセス権⑤ #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 中間的な領域の存在についてこれまで検討してきたのは、不法行為が成立しない場合で、政党に対する意見広告のケースと、個人に対して名誉毀損を理由とする不法行為が成立しているケースですから、いわば対極にあるというか、両極端なケースです。純然たる民間人についてしかも不法行為も成立しないという、中間的な領域というのが存在します。 2. 刑事責任・民事責任ところで、自動車を運転していて、人にぶつけてしまった場合、状況にもよりますが、業務上過失致傷罪(刑法211条)が成立することにな

          【第69回】アクセス権⑤ #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          【第68回】アクセス権④ 名誉毀損・不法行為を要件とする反論・訂正 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

          1. 当該メディアが第三者の場合名誉毀損が成立している場合、訂正文なり反論文掲載請求権の問題を考えるに当たっては、メディアが第三者の場合と当事者の場合が考えられます。 謝罪広告事件では、政見放送などで名誉毀損が行われ、これに対する謝罪広告を新聞に掲載するというものでしたから、この場合、新聞社は名誉毀損事件に関しては第三者です。裁判で負けた被告から料金をもらって広告スペースを提供すればいいだけの話ですから、そもそもが「送り手」の側の表現の自由の問題というのはほとんどありません

          【第68回】アクセス権④ 名誉毀損・不法行為を要件とする反論・訂正 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話