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松本清張『ガラスの城 新装版』を読んで

『ガラスの城 新装版』松本清張 2023.11.15 発行 講談社文庫

内容
 エリートコースの販売課長が社員旅行の晩に行方不明となり、惨殺死体で発見された。動揺を隠せない社内の空気の中で、死の謎を追跡する女性社員の手記。意外な貌を見せる社員たちが疑惑の線上に次々と浮かぶ。欲望と犯罪の構図はガラスの城のような組織で醸成されたのか。清張ミステリーの傑作を読みやすい新装版に。

講談社文庫より

 本書は、1979年12月に講談社文庫より刊行された『ガラスの城』を改訂し文字を大きくした新装版。

 この小説が特徴的なのは、女性社員2人による手記で物語が語られ、その女性社員が死の謎を追跡することが描かれています。

 第一部が三上田鶴子の手記第二部が的場郁子のノートになっていて、物語は2人の視点で進んでいきます。

 冒頭は社員の慰安旅行から始まります。
 三上田鶴子にとっては虚しい宴会。旅館の外を歩いていると、一人の女性とのちに惨殺死体となって発見される杉岡課長を発見します。女性は同じ旅館の浴衣に見えましたが、誰なのかは分かりません。
 これをはじめ、いくつかの謎が分かろうかというところで、第二部へ。
 
 後半は的場郁子の視点から描かれます。三上田鶴子の時とは違った視点な訳ですが、「そうだったのか」という驚きの展開が待っています。

 この小説の面白いポイントは、手記による視点の違いです。異なる視点で語り直すことで事件の様相を変え、ラストで明かされる真相で驚きもあり納得しました。

 後半になればなるほど面白くなる作品です。「~の手記」、「~のノート」とタイトルを変えてある辺りも、嘘と真実主観と客観を暗示しているのかなと思いました。昭和の時代ということもあり、価値観が古臭いと感じる部分もありましたが、女性の置かれている状況や小さな心の変化を描くのがとてもうまい印象を受けました。また、女性以上に男性たちの熾烈な出世争いや駆け引きも生々しかったです。


 この小説は、2024年新春にドラマ放送されました。主演は波瑠と木村佳乃。ドラマでは、今の時代に沿った形になっており、特に登場人物の設定が大きく違う点はありましたが、思っていたよりも面白かったです。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。

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