『松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙』を読んで
『松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙』(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 12)松浦寿輝(選・訳)、辻原登(選)、長谷川櫂(選)、丸谷才一(著)、大岡信(著)、高橋治(著) 2016.6.14 発行 河出書房新社
俳句に興味がある方や、また俳句の魅力を知ることができる入門書としてもおすすめ。
俳句に興味がある方にとっては、名句の評釈を読むことで、俳句の奥深さを味わうことができるでしょう。
※連歌と俳諧は日本の文芸の一種。両者は異なる形式を持っている。
連歌は、和歌の五・七・五(長句)に、他の人が七・七(短句)をつけ、交互に複数人で連ねて詠みます。つまり、複数人が集まってリレー形式で和歌を詠む、日本に古くからある詩歌の様式のひとつです。頻繁に用いられる形式は、三十六句つないでいく形式で、歌仙形式といいます。それ以前は、百句つなげる形式が普通でした。
俳諧は、滑稽な言葉(俗語や漢語など)を盛り込んだ滑稽な連歌という意味があります。伝統的な連歌の形式を生かしつつ、滑稽な言葉を盛り込んだもののことを指します。明治時代になって、正岡子規の俳諧革新運動以来、俳句とよばれるようになりました。
・おくのほそ道
松尾芭蕉が46歳の時に弟子の河合曾良と江戸を出発して、東北から北陸を経て美濃国の大垣までを巡った旅を記した紀行文。
原文の雰囲気が残っていながら、上手く訳されています。言葉の流れが、スラスラ流れるでもなく、ちょうど良かったです。
この旅で芭蕉は、たくさんの名所旧跡を巡り、その場所で詠んだ俳句とその地域の感想と共に記しました。
この作品は、日本の文学史上においても重要な位置を占めており、後世の人々に多大な影響を与えました。例えば、与謝蕪村は芭蕉に大きな影響を受け、江戸にでて俳諧を学び始め、後に芭蕉の旅を模倣し、北関東から東北までを中心に長い放浪生活を送っています。
『おくのほそ道』には、芭蕉が旅先で詠んだ俳句が多数収められ、誰もが一度は聞いたことがある句が多々あります。
句だけを読むと、よくわからなかったのもありましたが、どういった経緯で詠まれたかがわかるため、非常に読み応えがありました。俳句の訳も記されているため、あまり俳句に馴染みがない人でも読みやすいです。
芭蕉は『おくのほそ道』を通じて、自然や人々との出会いを通じて得た感動や思いを表現しています。特に有名なものとしては、2つ挙げられます。
平泉で奥州藤原氏の栄華の跡に心を打たれた際の句。
山形の立石寺で詠んだ句。
ちなみに、芭蕉が詠んだと誤解されている句があります。彼が松島の美しさに心を奪われて思わず詠んだとされる「松島やああ松島や松島や」。
この句は芭蕉が詠んだ句ではなく、弟子の田原坊が作ったものだとされています。
実際の芭蕉本人は松島でその美しさに感動し「いかに言葉を尽くして詩文に表現しようともとうていできるものではない」と心情をこぼしています。
なお、松島を訪れた際に、芭蕉の代わりに曽良が「松島の眺めは素晴らしい」という旨の句を詠んでいる。
・百句
松尾芭蕉の句が百句選出されています。一句に対し、およそ1ページ分の解説が書かれています。
・連句
松尾芭蕉が亭主となって主宰した、『冬の日』から「『狂句こがらし』の巻』」、『猿蓑』から「『鳶の羽も』の巻」、この二歌仙を選び、全句を掲げつつ一句ごとにごく簡潔な評釈が書かれています。
・夜半亭饗宴
与謝蕪村の句が、春から夏、秋、冬、そしてまた春へという構成で編集されています。解説は比較的簡素でわかりやすいです。
・新しい一茶
一茶の解説は、選出者の主観が強く、少し読みづらい部分もありますが、解説自体はしっかりと書かれていました。
・とくとく歌仙
それぞれの歌仙についての座談会が収められています。面白く興味深かったです。
全体的に、分量も多く読み応えのある本でした。
俳句は奥深く難しいですが、面白いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?