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【対談企画】 ビジネスもラグビーも大切なのは“前へ!”進む想い!? 明治大学ラグビー部 田中澄憲前監督に聞く組織づくりの極意 【後編】

山田水産が行っているアスリートサポート「山田の“勝負メシ”プロジェクト」。その一貫で連載している山田水産が食のサポートをしているアスリートと弊社社長の山田信太郎が熱く語り合うこちらの対談企画。前編に続き今回も、明治大学を愛してやまない山田社長(駒大卒)との熱烈ラブコールのもと実現した明治大学ラグビー部の田中澄憲前監督との対談の後編をお届けします!

※本記事は、2019年に撮影・取材したものを編集し、再掲載しています。

前編を読んでいない方はこちらからどうぞ!

勇退される2021年5月まで、明治大学ラグビー部を勝利に導き続けた田中前監督に、ラグビーや選手への想いを語っていただきました。ラグビー論とビジネス論には通ずることも多く、働き方に多様性が求められる時代に、信念を持って自身のフィールドで戦う2人の対談はコロナの今だからこそ響く対談になっています。ぜひ最後までお楽しみください。

「前へ」という言葉を次世代に繋ぐ、田中澄憲流育成術

(2019年6月 明治大学・八幡山グラウンドにて)

山田 田中監督が現役の頃に比べて、今の選手たちはどんな風に見えますか?

田中 今の選手は良くも悪くも「いい子」が多いですね。僕たちの世代は失敗をたくさんして学んで成長してきたんですけど、今の子たちは失敗しないようにいろいろと準備された環境の中で生きている。自分でリスクをおって決断するということが難しいのかもしれないですね。

だから彼らが自信を持てるように、「やってみろ!」と少しだけ後押しするのが僕の役目です。それが成功したときの成長率は、僕たちの頃よりも高いと思いますね。今の子たちの方が、前向きに進む力はあるんじゃないかな。そのためのきっかけが彼らには一番必要なんだと思います。

山田 明治大学のキャプテンのイメージって、老舗ののれんを継承する後継みたいに感じていて。みんなキャプテンになるときは、「俺が頑張らなきゃ!」みたいな部分はやはり感じているんでしょうか?

田中 それは強く感じていると思います。でも昔と今は違うと思っていて、昔はキャプテンが「俺についてこい!」という感じでしたが、今のキャプテンは「俺についてこい!」これだけでは通用しないと思います。だから今のキャプテンの方が大変ですよね。仲間のいろんな感情に気がついて、そこに対して臨機応変に気を配れるリーダーじゃないといけない。インターネットで何かネガティブなことを書かれたりもするので、本当に大変ですよね。

山田 選手たちのミスのフォローやモチベーションのアップなどはどうされているんですか?うちの会社にも若手の社員がいるので、ぜひ教えていただきたいです。

田中 ミスの質で叱る、叱らないを決めています。ミスはしてもいいと選手たちには伝えています。それがチャレンジをしたミスだったらしてもいいと思っています。それが練習に集中していないとか、身が入っていないときのミスは、ケガにも繋がるし、何も得るものがないので叱ります。チャレンジしたときにするミスは、次はこうしようと考えることもしますし、得るものもあると思うので、ミスの質には気をつけていますね。

山田 選手によっても叱り方は違うんですか?

田中 選手によって違いますね。でも特別扱いは絶対にしません。やってはいけないことをしたときは、みんな同じ基準で叱ります。クラブとしての基準やルールは紙に書くものではなくて、みんながしっかりと理解するべきだと思っています。

ボールを持ったら躊躇なく前へ
ステップなんか踏まずにとにかく進む

山田 田中監督が現役の頃に比べて、選手と監督の距離感って違いますか?

田中 まったく違うと思います。昔の監督は多くを語らずに時々口を開くような雲の上の存在でしたけど、今そのスタイルでいると選手たちが萎縮してしまいますね。だからこちらから、「最近どうだ?」「ケガは治ったか?」とコミュニケーションを取るように心がけています。一人ひとりに目を配らないといけない。

最近企業でも1on1ミーティングを導入しているところも増えていますけど、その人に合わせたケアが必要なんだと思います。レギュラーを外れてしまうと、ガクッと落ち込んでしまう選手もいるので、きちんとなぜ外れてしまったのかということを説明しています。

山田 僕はたまに部下に対して、言いすぎてしまったなと思うこともあるんですが、田中監督も選手に対して怒りすぎてしまったなと思うこともあります?

田中 普段はあまりそういうことはないですが、グラウンドで練習をしているときに大きな事故につながるようなときは、しっかりと叱ることもあります。叱りっぱなしだと心を閉ざしてしまう子もいるので、そのあとに「なぜあんな風に注意をしたかわかるか?」と言ってフォローをするようにしています。

山田 僕たちが大学を卒業したての若いころ、親父である社長が社員にメシを作って一緒に酒を飲みながら、説教されていたんですよ。田中監督のおはなしを伺いながら、当時を思い出しました。
最近はおかげさまで会社の業績も上がってきましたが、「山田水産とは何か」という部分が薄くなってきているような気がしていて。今日田中監督がおっしゃっていた「明治大学とは何か、明治大学のラグビーとは何か」というような本質的な部分の大切さを再認識しました。

田中 僕の場合はサントリーという会社に所属していたのが大きかったですね。サントリーもアメリカの企業を買収してグローバルな企業になって規模が拡大した時に、優秀な人材がたくさん入社してきて、「サントリー」というアイデンティティが薄くなくなってしまうのではないかと危惧する時期がありました。

そこで佐治会長が「サントリーとはなにか」という本質的な部分をしっかりと見直さないといけないと声をあげて、「サントリー大学」を立ち上げて、役員が全国を回って、創業者の想いやサントリーの歴史を語る「サントリー講話」という活動をはじめました。僕はそういうことが大切だと思っているんですよ。明治大学の場合は、すごくシンプルですけど、それが「前へ」という言葉なんです。

山田 その「前へ」という言葉がシンプルだからこそ、その意味の解釈が広義に渡りますよね?

田中 そうですね。「前へ」というと、ボールを持ったら躊躇せずに前へ進むことを意味しますよね。それがステップなんか踏まずにとにかく進むということを「前へ」と理解する人もいます。
僕は違った解釈をしていて、プレイスタイルは関係なくて、生き方そのものだと思っています。正々堂々と生きるとか、困難から逃げずにベストを尽くし乗り越えるといった精神が「前へ」の意味だと。こういうはなしを選手に対してはあまりしませんが、必要な時期が来れば話をします。

山田 それはとても大事なことですよね。しかし明治大学とサントリーは本質的に近い部分があるんじゃないですか?

田中 「前へ」と「やってみなはれ」ですからね。

山田 山田水産も「前へ」にすごく感銘を受けておりまして、45周年の記念ポスターには…

田中 「Go Forward」じゃないですか!(笑)これがスローガンになっていれば、みんな明治大学の卒業生だと思いますよ(笑)

山田 いろいろと考えたんですけど、山田水産もやっぱり前にでるしかないと思っていて、この言葉を選びました。

田中 本当に明治大学ラグビー部を愛してくださっているんですね(笑)

山田 「勝負メシ」うなぎを食べて、目指せ、大学選手権2連覇!勝負メシとして、うなぎを食べてもらってもう3年目になりますが、サポートをさせてもらってから、社内でもラグビーを見る社員が増えました。自分たちの作ったうなぎがスーパーに並んでいるということももちろん励みになりますが、「あの選手が勝負メシとしてうなぎを食べている」ということでもっと社員のモチベーションが上がっています。

田中 選手たち、うなぎが大好きなんですよ。学生時代、うなぎなんてなかなか食べられないですから、いつもとても喜んでいただいています。美味しいですし、栄養価も高いですしね。

しっかりと食べられる選手は強い!
生活習慣も含め一流の選手を目指す

山田 選手たちには普段どういう食事指導をされているんですか?

田中 大学生なのでプロフェッショナルになりすぎるのもよくないと思っています。チームの管理栄養士も同じ考え方なので、まずは残さず食べるというような初歩的な部分を教育するようにしています。

管理栄養士の仕事って、栄養価に対しての指導もあると思うんですけど、明治大学の場合は「ご飯粒まで残さず食べなさい、綺麗に食事をしなさい」というところも指導して頂いています。明治大学からサントリーのチームに進む選手もいるんですが、サントリーの管理栄養士が「明治大学の選手はきっちりと綺麗にごはんを食べるのですが、管理栄養士の方ってどんな方ですか?」と聞かれたことがありました。

栄養の知識ももちろん大切なんですが、寮で出されているメニューはすべて栄養を考えられたものばかりなので、まずはそれをしっかりとちゃんと食べるというのが一番大事なんです。だからうちの選手たちは、マナーの部分も含めてきっちりと食べますね。

山田 生活習慣も含めての一流の選手だということですね。

田中 野球の大谷翔平選手もそうですが、今活躍されているトップアスリートの話を聞いても、センスや能力だけではなく、日頃の練習への取り組み方や生活習慣が大事ですよね。

山田 イチロー選手も準備が大事だと言っていますもんね。

田中 普段の生活がしっかりしている選手はラグビーをやってもしっかり取り組みます。朝決まった時間に起きてごはんを食べる選手と朝ギリギリに起きてバタバタとごはんを食べるのでは、食事に対する意識も違ってきますからね。そういう部分は練習に対しての準備にもあらわれてくると思っています。

山田 試合が終わったあとの食事はどんなことに気をつけているんですか?

田中 試合や練習後の40分以内にしっかりと食べることです。一番は炭水化物を摂るのが好ましいですが、食事をすることが難しい場合は、ゼリーでエネルギーを補給するように伝えています。

山田 筋力的な部分ももちろんですが内臓が強くないといけないですね。

田中 そうですね。きちんと食事をとらない選手はケガやコンディション不良が多いですね。しっかり食べられる選手はやっぱり元気なんです。胃袋は大事ですね。僕の現役のころも強かった選手はみんなたくさん食べていました。

山田 食べる力ってやっぱり人間の生命力そのものですよね。最近、ラグビー業界に限らず、食べることに力を入れはじめている印象があります。僕は日本のアスリートは最終的に、「食」が大事になってくるんじゃないかなと思っているんですよ。
魚ってどうしても調理が面倒くさいので、調理師さんから敬遠されがちなので、そこをクリアにできるように簡単に調理できる商品を開発しています。

田中 私たちも必ず魚を使ったメニューを食べています。今日の朝も魚を食べました。海外の選手は漁獲量の問題もあって、昔からオメガ3を摂取している人が多いと聞きますが、日本人は魚を食べられる環境にあるので元々のEPAの含有量が多いらしいです。でも日本も洋食化が進んでいるので、EPAの含有量が下がってきているらしくて…

山田 言ってくださいよ!EPAとDHAの会社なんで!(笑)
実はうなぎって脂質があるのに糖質は低いんですよ。山田水産のうなぎは鰻師が餌の脂量を徹底管理しているので、うなぎが自らの体内で脂を出しています。だから良質でナチュラルな脂なので、食べても胃もたれをしません。今度たくさんうなぎをお送りするので、1人何匹食べられるか試してみてください(笑)

田中 うなぎチャレンジですね(笑)選手たちも喜びます!

山田 先日のサッカーワールドカップも前日の勝負メシがうなぎだったというおはなしを聞いたときに、アスリートもやっぱりうなぎを食べるとテンション上がるんだなと改めて感じて。勝負メシとして大勝負の前に、うなぎを食べる文化があったら日本らしくておもしろいと思ってこのプロジェクトをスタートしました。選手のみなさんにも喜んでもらえて、うなぎ業界全体にとっても明るい話になるといいなと思っています。そして日本の食文化にも注目してもらって、和食ってやっぱりいいなって世界に広がってくれると嬉しいです。

田中 明治大学も昨年から福島県いわき市産のコシヒカリのブランド米「Iwaki Laiki(いわきライキ)」を応援しようということで、毎年5月に開催する北島ラグビー祭というイベントでもブースを出して販売しています。今後は山田水産さんの商品ともそういったコラボができるとおもしろいですね!

山田 明治大学公認の鯖ということで山田のフライも出しましょう!(笑)
山田水産も一丸となって、明治大学ラグビー部を応援しています!
田中監督、今日はお忙しいところ、貴重なおはなしをありがとうございました!

プロフィール

田中澄憲 さん
明治大学ラグビー部前監督。報徳学園卒業後、明治大学に入学。1996年の大学3年からスクラムハーフとして出場。大学選手権では優勝、翌年には主将に就任した。大学卒業後はサントリーに入社。2005年には7人制日本代表に選出され、ワールドカップに出場。2011年に現役を引退後、サントリーのチームディレクターに就任。2017年、明治大学ラグビー部ヘッドコーチに就任した。2019年、第55回全国大学ラグビー選手権大会において天理大学を破り、明治大学を22年ぶりの大学日本一へと導いた。現在は、JAPANRUGBY LEAGUE ONE東京サントリーサンゴリアスの監督として活躍している。

編集後記

山田社長の憧れの聖地、明治大学のラグビー場で行われた今回の取材。当日はお天気にも恵まれ、真っ青な空が広がる晴天と青々とした芝生のコントラストがとても印象的なかっこいい写真に仕上がりました。田中監督にご案内いただきながら、コートやトレーニングジムなども見学。明大ラグビーファンにとってはたまらない貴重なエピソードが盛りだくさんの楽しい取材になりました。今回再掲載にあたり、田中監督のご勇退を知り寂しく思う一方で、新たなフィールドでご活躍される姿がより教え子たちのパワーになるのだと感じました。

取材・構成/ユウミ ハイフィールド