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もう一人のよし子が囁く

◇◇ショートショート◇◇

彼女とかかわりを持つ誰に聞いても「あの子はいい子だよ」と言う答えが返ってくる女子がいます。
彼女は25歳、地元の県立高校から大学に進んでそのまま地元の企業に就職しました。
彼女が大切にしている言葉は「真摯な心」
誰に対しても優しく接する優等生的な女性です。

時折よし子は自分の生真面目さが嫌になる事があります。いつも自分の思いを隠して相手の気持ちを大切にすることを信条として生きてきたからです。
そんな自分と長年付き合っていながら、最近になって「もー、いい、私は私の心のままに生きてみたい」そう思うようになりました。

その日からです。突然あの声が聞こえるようになったのです。
それは、よし子ツーの囁きです。
その声は、よし子が納得していない時に聞こえてくるのです。

誕生日に、友人がプレゼントを贈ってくれました。
ブルーの名刺ケースです。
「よし子ちゃんは寒色系が好きだから、色々悩んでこれにしたの、気に入ってくれたかな・・・」
よし子は思っていました。
「何でいつもこんな男っぽいカラーを選ぶんだろう、私はピンクが好きなのに」

でもよし子は笑顔で友人に伝えます。
「ありがとう、こんな色の名刺ケースが欲しかったのよ、ホント素敵なブルー、嬉しいなー」
そう言いながら、よしこ2は「この名刺ケースを毎日使わないといけないの、悲しくなるなー」と囁いていました。

大きな荷物を抱えたよし子がバスに乗って空いている席に座ろうとした時、杖をついたお年寄りが入ってきました。座っている小学生がお年寄りに席を譲るだろうと思っていたら、その小学生は眠ったふりをしたのです。

よし子はいらっとしましたが「どうぞ、私はいいのでお座りください」とお年寄りに席を譲りました。するとよし子2が耳元で囁きます。
「今どきの小学生は、敬老精神がないのかな、子どもが立って席を譲るべきじゃない、ランドセルを抱えて寝てる場合じゃないでしょう、若いんだから」

その時、よし子はただ呆れて小学生を見ているだけでした。

ある日、よし子は夢を見ました。
目の前に閃光走って、そこに女神のような衣装を着た女性が現れ、光の中で、ゆっくりとこう言うのです。

「よし子さん、あなたがあなたらしく、よし子2の言う事を聞いて、素直に行動すれば、きっと今までとは違った人生が開けるはず、これからはあなたはよし子2の言葉をあなたの言葉として話してみて、ただ一つ忘れてはいけないのは、あなたが発した言葉には、あなたがすべて責任を持たなければいけないこと、分かった、よし子2の言葉に責任を持つのよ」

よし子は夢の中で頷きました。
その日からです、よし子はよし子2の言葉を自分の言葉として発することにしたのです。

よし子は我慢することが無くなり、気が楽になりましたが、彼女の周辺では様々なトラブルが起きるようになりました。
人との関係がぎくしゃくし始めたのです。

よし子の事を「いい子だなー」と思って好意を持っていた同期の守は、物事をはっきり言うよし子の姿を見て「何だ、彼女は思っていた性格と違ってた、いい子だなーって思ってたのに、結構シビアなタイプだったのか、何だかショックだな」そんな風に感じていました。


久々に会社の同期で食事会をしようと言う事になって、誰が幹事をするかで何となく気まずいムードになりました。同期はこれまでは店もよく知っていて、細やかに心配りが出来るよし子にすべて任せてきたのです。今回も当たり前のように彼女にお願いすると、よし子はいつもと違った反応でした。

「えっ、何でいつも私なの、交代で幹事をすればいいじゃない、何でいつも私ばっかり、私だって皆と同じように忙しいんだから、私はやらないわよ」

そう言われて、メンバーはこれまでよし子に頼り切ってたことに気が付きました。ただ彼女が今まで何も言わなかったから、それが当たり前になっていたのです。

よし子はやっと自分がこれまで言いたかった事が伝えられて、気持ちが少し晴れた気がしました。でもそれから何となく同期といると居心地が悪いのです。

よし子2の言葉をそのまま発していたら、気分はすっきりするけれど、人間関係がギスギスする気がして、かえってストレスが溜まることが分かりました。

よし子は、よし子2に言いました。
「ねー、このままあなたの言葉を私が口にしていたら、友達がいなくなっちゃう気がするんだけど・・・、もうそろそろあなた消えてもいいんじゃないかな」
よし子がそう言うと、よし子2が言いました。
「あなた、いっつも損するよ、私の言う通りにしとけば少々人間関係が上手くいかなかったとしてもあなたの気分はいいんじゃない・・・」

そう言われて、よし子が考え始めると、そこによし子スリーが現われました。
ややこしいですが、よし子の分身が三人になったのです。

「分かった、私がよし子とよし子2の意見を上手にミックスして、その時々でいい言葉をチョイスするから、二人ともそれぞれの意見を言ってくれたらいいよ、私がバランスを取ってあげる」
よし子もよし子2も何となく頷きました。
それからよし子は、よし子3の言葉に従う事に決めたのです。

同期の守が友人に話していました。
「最近、よし子ちゃん何だかいい笑顔になってるよ、今度の同期会の幹事もやってくれるんだって、何かいいことあったのかな、ボーイフレンドが出来たんじゃないよな、ならショック」と言っています。

三人のよし子のバランスが良ければ、問題は起こらないのですが、よし子2がパワーアップすると、よし子フォーが、突然現われるかも知れません。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《私はよし子3がええと思う》

92歳のばあばと娘の会話です。

「自分の思う通りに生きたらええんよ、人に左右されることは無いわい、私はよし子3がええと思う、人と上手く交わって自分の意見も言うそれがええ

「お母さんはよし子2かと思とった」

「よし子2は嫌われるけんねー、それでよし子4はどんな考えなん」

よし子4は何にも気にかけんのよ、自由奔放、能天気、唯我独尊、うぬぼれが強くて独りよがりでこれまた面倒なタイプなんよ」

私の中にもいろいろな私がいます。その時々で私は私を演じているのですがどちらかというとよし子タイプなのかも知れません。



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