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あの地下道が

◇◇ショートショート

つよしは中学校に通う時に毎日地下道を通ります。いつも通るたびに、特別な感覚に襲われていました。それは恐怖心と懐かしさです

「この地下道には何かあるのかなー、いっつも身が引き締まって、何か引き込まれそうな、出られなくなるような不思議な感覚になるんよねー
それがどうしてなのかは、剛は分かっていませんでした。

剛の家はこの辺りの地主で、代々この地区に住んでいます。自宅は昔ながらの長屋門で、映画やドラマのロケ地に使われる由緒ある名家です。

家の欄間には代々の家長の写真や家族の写真が飾られています。剛のひいおじいさんの写真の隣に若い男性の写真があります。14歳で亡くなったひいおじいさんの弟のひとしさんです。

仁さんがもし生きていれば今年91歳です。幼馴染の中には健在の人もいて、皆から「剛くんは仁さんに生き写しじゃなー」と言われています

剛は似ていると言うこともあって、いつも仁さんの写真に挨拶をして出掛けていました。


剛は中学校の課外授業で地域の戦争の歴史を調べる事になりました。近くには飛行場がありますが、その近くには戦時中に軍用機を敵機から守るための軍納庫「掩体壕えんたいごう」があることも知りました

その授業で、自分が毎日通っていた地下道はかつて防空壕があった場所だと言うことも分かったのです。

その防空壕はコンクリートで作られた強固なものだったと聞いて剛は驚きました。

地元の古老に聞くと「他の防空壕は大体、土を掘って廃材なんかを張った簡素なものだったんじゃけど、ここは特別な作り方をしとったんよ、仁さんのお父さんが地域の人と一緒に掘ってな、天井はアーチ形で壁には漆喰が張られとった、通気口や井戸もあってなコードで電気まで通っとたんよ。」

古老は続けます。「あんたによう似た仁さんはなー、本が好きでなー、お父さんに怒られながらようけいろんな本を持って来とったわい、剛君のひいおじいさんが生きとったらいろいろ聞けるのになー、残念じゃ」

剛は家族から、仁さんの話を聞いたことがありませんでした。どうして仁さんの話をみんながしないのか、剛は不思議でした。

剛はそれから仁さんの事が頭から離れなくなりました。毎朝、仁さんの写真に「仁さん行ってきます」と挨拶しますが、仁さんの写真は笑っていません

ある日のことです。剛が中学校に忘れ物をして教室に取りに帰り、夕暮れになった頃、いつもの地下道に吸い込まれるように歩いていると、後ろから急いで追いかけてくるような足音が聞こえてきました

剛は一瞬立ち止まりました。「何だろうこの感覚、足がすくんで前に進まない」
振り返るとそこには短パンにランニングシャツ姿で白い運動帽を被った仁さんがいました。手には数冊の本を持っています。


「仁さんでしょう、どうしたんですか」
「君、そんなにのんびりしとったらいかんよ、早く防空壕に入らんと、時間がないけん、急いで
「仁さん、今はいつですか・・・」
昭和20年7月26日に決まっとろ、とにかく早く防空壕に入らんと

その時です。大きな爆撃の音と共に仁さんの姿が火柱の中に消えて行きました。

仁さんは昭和20年7月26日の松山大空襲で14歳の生涯を終えたのです

剛は地元の古老から聞いた話を思い出しました。
「お母さんがダメじゃ言うのに、仁さんは家に本を取りに帰ってなー、空襲に会うてしもて、命を落としたんよ、ほじゃけんみんなあんまり仁さんことは言わんのよ」

その話を聞いてから剛は自分がこれまで地下道を通る時に感じていた不思議な感覚が理解できたような気がしました。
「無念の仁さんが僕に話しかけとったんかもしれん、僕は仁さんの分まで頑張って生きよ

それからは、剛が仁さんの写真に笑いかけると、仁さんも笑いかけてくれるようになりました

【毎日がバトル:山田家の女たち】

《松山大空襲の時、松山中が火の海に見えたんよ》


あたしの家にも防空壕を掘っとって、空襲警報が鳴ったら家族で入りよったよ、家族4人が小さなってくっついていっぱいにくらいじゃった、お米は缶に入れて置いとったかな・・・、なんかあったらリュック持って入りよった記憶がある、怖い思い出よ

「お母さん松山大空襲の時覚えとる」

「川まで家族で逃げたんよ、私は弟の手を繋いで逃げたよ、見渡したら、松山中が火の海に見えたんよ、恐ろしかったわい、翌日は炊き出しがあってね、みんな土手に植えとったトマトやきゅりを食べよったよ、その人が植えたもんじゃったけど・・・」

母に戦時中の話を聞くことはほとんどありません。昔は思い出したくなかったと言っていました。私はいい機会が持てたと思います。


全力で呼び込む福や鬼やらい


今日は節分です。この句の季語は「鬼やらい」「鬼やらい」とは悪鬼すなわち疫病を追い払うことを言います。節分の際に豆まきをする起源だそうです。
特に今年は思いっきり力を込めて鬼を払い、福を呼び込みたいですね
母のイラストの絵の豆の量がその気合を感じます。
「福は内、鬼は外」きっと今日は各ご家庭で大きな声が響くのでしょうね。

最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。

私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗


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