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おじいさんの教え◇下を向いて歩け

◇◇ショートショート

直子なおこはおじいさんからよく言われている。「直子、道を歩くときは下を見て歩けよ、ええもんが落ちとるかも知れんけんなー」その言葉を教訓に直子は街を歩く時にいつも下を向いて歩いている。

その日は偶然に、小さなポーチを見つけた。かわいいビーズをあしらっているポーチだったので、失くした人は残念がるだろうと思い周囲を見渡すと、チャックの空いているリュックを背負っているおばあさんがいた。

直子はその人に駆け寄り声をかけた。「あのー、このポーチ、あなたのじゃないですか」するとおばあさんは「あー、さっき転げてリュックの中味が出た時に取り忘れたんだわ、ありがとう」

おばおさんは、ものすごく喜んでくれた。なんとなく品を感じる女性だった。

「あなたは親切ねー、今どき珍しい、本当にありがとう」

「とんでもない、失くした人が見つかって良かったです、おばあさん気を付けてね」そう言って立ち去ろうとすると、おばあさんが彼女の手をとって、「ちょっと待って、これあなたに差し上げるわ、私が作ったものなのよ」と言って直子にピンク色のスワロフスキーのビーズの指輪を手渡してくれた。

直子はおばあさんに「ありがとうございます」と言って立ち去った。彼女はその指輪をバッグの内側のポケットの中に入れて、アルバイトに向かった。

アルバイト先のスーパーで総菜作りを担当している佳子よしこさんが、何となく元気がなかった。スーパーの売場でお客さんに心ない言葉を掛けられたらしい。総菜の盛り付けがきれいじゃないと言われたようだ。
「適当に入れて並べてるんじゃないよ、しっかり見てるんだからな」と大声を出されたらしい。

佳子さんは子育てをしながらパートで仕事をしているシングルマザーだ。

直子は帰り際に、沈んでいる佳子さんの傍に寄り沿った。
「佳子さん、これもらった指輪なんだけど、良かったらどうぞ」と言ってバッグからピンクのスワロフスキーの指輪を取り出して渡した。

佳子さんの瞳か輝いた。「えー、こんなに素敵な指輪いいのー」「佳子さんはいつも頑張ってるからね、この指輪私にはサイズが大きいし」その言葉を聞いた佳子さんは「嬉しい、何だかご褒美をもらったみたい、じゃあ私も」と言って直子にブルーのハンカチを手渡した。

「これね、娘の保育園のバザーで買ったんだけど、何枚もあるから貰ってよ」そう言われて直子は「ありがとう、素敵な色だねー」とお礼を言ってそのハンカチを受け取ると、バッグのポケットの中に入れた。


その日直子はアルバイトの帰り道にいつも通っている公園で、手から血を流しているホームレスを見かけた。「あれっ、あの人どうしたんだろう、手から血が出てる」気になった直子は彼にティッシュペーパーを渡そうと探した。しかし見当たらなかったので、バッグから、もらったばかりのプルーのハンカチを取り出して彼に渡した。

「もし良かったらこれを使って、早く血を止めなきゃ」遠慮しているホームレスに直子は言った。「貰い物のハンカチだからね、心配しないで」すぐさまハンカチを手に巻いた彼は、ポケットから一枚のチケットを取り出した。

「これ、ゴミ箱で拾ったんだけど、ハンカチのお礼」とくしゃくしゃのチケットを直子に手渡した。
「もらってもいいの、ありがとう」と、お礼を言って直子はそのチケットを見た。

「あっ、商店街の歳末抽選券、今日までだ、行ってみようかな」直子はそう呟いて、今来た道を引き返して商店街の抽選所に向かった。

「まだ、一等賞が出てないんですよ、是非当ててください、高級マッサージ機」
そう言われた直子は「おじいちゃんがマッサージ機欲しいって言ってたんですよ、当たるかなー」直子が抽選ボタンを押すと、ピタッと止まったところが、何と一等賞だった。

カランコロンと、鐘が鳴らされた。その音色はそこら中に響いていた。


自宅に帰った直子は、おじいさんに言った。
「おじいちゃん、やっぱり、下を見て歩くと拾い物があるねー」
するとおじいさんは、「そうだよ下を見て歩いているといい事がある、そして人には善意を尽くせ、おじいちゃんはお前にそれを教えたかったんだよ」そう言いながら、おじいさんは心地よさそうに、マッサージ機にかかっていた。

孫が下を向いて歩いたおかげで、おじいさんには今日良いことがあった。



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