不正解

「来年の1月は実家に帰った方がいいよ」
ふと、仕事終わりに友達数人と呑むことがあった。
6人でお店に入ってしばらくお酒を呑みながら隣の女の子が鞄から巾着袋を取り出した。
「私、カードで占いができるんよ、1時間5000円貰ってる」
驚いた。まさかこんな身近に占い師がいたとは。
半信半疑のまま、女の子の目の前に座っていた男の子が占ってもらうことになった。カードが示す内容を聞いて頷いたり、頷かなかったりする男の子。
やっぱり占いってこんなもんだよなぁとか思っていたけど、せっかくだから占ってもらう事にした。
ジャンル別に占えるとのことだったけど、とりあえず全体の総評を占ってもらうことに。
神妙な面持ちでカードをシャッフルしてランダムに10枚のカードをテーブルに並べる。
「…最近元カノから連絡来た?」
いきなり当ててくるじゃん。確かに最近誕生日で元恋人からおめでとうと連絡はきた。
「4ヶ月したら吹っ切れる。それから新しい出会いもある」
なんとも言えない気持ちになった。新しい出会いかあ。そんなことより仕事運を見てほしいなぁ。
「あと、来年の1月は実家に帰った方がいいよ」
胸がざわついた。
実家には上京して以来4年は帰っていないし、その間に連絡もほとんど取っていない。ましてやそんなことをその女の子には言った覚えもないし、本当に驚いた。
「いや…実家には帰れないなぁ」
その一言が精一杯だった。
実家には帰れない。とも言えるし、帰らない、とも言える。
自分の中ではもう縁を断ち切った関係だから、今更帰ったところで何も起こらない。
「帰らなかったら後悔するかも。帰らなかったらモヤモヤが残る」
後悔。
それを聞いても帰ろうという気持ちにはならなかった。
帰ろうと帰らなかろうと、どっちみち2つの選択肢の先にあるのはどちらも不正解な気がしたから。
なら帰りたくないという今の気持ちを優先して僕はモヤモヤを抱えたまま生きる。
「実家に帰らなくてもいいけど地元には帰りなね」
今年は帰るつもりがなかった。
帰ったろころでという気持ちが強かったから。
「というか、君の核の前に分厚い何かがあって何も見えない」
言い得て妙だった。
元々他人に心を開くのにかなりの時間がかかる人間なので、占いってそんなとこまで言い当ててくるのね、いやー参りました。という気持ちでいっぱいだった。

なかなかに前途多難な人生だな、どうなる、この先。

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