【小説】紅魔の時(こうまのとき)
2045年。人々は平穏な日常を送っていた。
しかし、その裏では、人知れず異変が始まっていたのだ。
突如として不可解な超能力を発現する者が現れる。
テレパシー、念動力、予知能力…それらは、まるで異世界にいるような現象だった。
高校に通う、平凡な日常を送る紅あかりもまた、その一人だった。
ある日彼女は激しい頭痛に襲われ気を失ってしまう。
目を覚ますと周囲の音が異常に大きく聞こえ、他人の思考が頭の中に流れ込んできた。
混乱するあかりだったが、次第に自分がテレパシー能力を手に入れたことを悟る。
同じ頃、世界各地でも同様の現象が報告されていた。
人々は、突然現れた超能力者たちを恐れ「没」と呼び、差別し始めた。
政府は、事態を隠蔽しようと躍起になり、没たちを秘密裏に隔離し始める。
あかりは、同じ能力を持つ少年、桐谷 翔太と出会う。
翔太は、念動力を持つ没だった。
二人は政府の陰謀を知り、力を合わせて逃亡することを決意する。
1
2045年、さいたま新都心。
実験的な街づくりから半世紀ほどが経ち、国の中枢が一部移転してきた。
かつては東京へ通うサラリーマンのベッドタウンとして開発されたのだが、一般企業の本社が相次いで移転し、巨大なビル群を形成する。
人々は国家公務員宿舎や高層マンションの一室に籠って仕事をする。
ほとんど家から出ない者が多くなり、街は活気を失っていく。
灰色のコンクリートと鉄筋がむき出しの景観に、人工的に作られたケヤキ並木が規則的に並ぶ。
ファーストフードやファミレスはまだまだ健在だが、デリバリーが増えて店舗は縮小された。
道路には自動運転車が、居眠りを決め込むオーナー達を乗せて走る。
便利になった反面目的を失いどこまでもドライブを楽しむ者が増えた。
放浪者、などと呼ぶよりも、車上生活者と言った方が適切かもしれない。
社会全体がこんな雰囲気で、無目的をたしなみとする風潮が広がった。
「今日も花を探しに行くの」
牧宮 由梨は尋ねた。
「そうだよ。
好きなことをしてお金になれば一石二鳥よね」
親指を立てて見せた紅あかりが自動運転車の運転席から外を眺めた。
「由梨の虫探しも手伝うからさ、今日は折半にしようよ」
毎月最低限の生活を保証される「ベーシックインカム」を選択した2人は、小遣いを稼ぐためにそれぞれのミッションをこなす。
社会の経済活動としてではなく、この世界を知り人類の叡智と教養に貢献することが求められた。
高校生である2人は、テストの点数次第で授業を免除され将来の学費も保証される。
明確な成果が明確な見返りに繋がるようになると、人類の知的レベルは加速度的に高まった。
新都心を離れ、一般道を悠々と進む車は、時々雑木林を見つけては横付けにして2人を下ろす。
木々が若葉を繁らせる季節、木漏れ日が点々と丸い光を地面に投げかけ、暗い茂みを照らす。
新種の昆虫など簡単に見つかるものではないが、学者並みに知識を詰め込んだ2人の頭脳は一瞬で見極めることができた。
「あれ見て」
あかりが指さした方角に蝶が飛んでいた。
耳に取り付けた装置に、視覚情報を保存すると視線を周囲に向けた。
「最近、熊が増えたって言うけど ───」
眉根を寄せて、暗闇の先に視線を走らせた由梨が言った。
「大丈夫よ。
一応ショットガンレーザーを持ってるわ」
腰に付けたホルスターには、小型の銃が黒光りしていた。
2
体調を崩して数日間学校を休んだあかりは、頬がこけて目が少々虚ろだった。
校門前で車から降りると、由梨の元にやって来た。
「ちょっと、頭痛が酷くてね ───」
こめかみを親指で押さえ、顔を顰めた。
「あかりが病気なんて、珍しいね」
スポーツ万能で、体力があるあかりはあまり風邪を引いたこともなかった。
だが、時々視界が歪み、ブレて見えるほどの頭痛に見舞われ、数日間布団にうずくまり、食事もあまり摂っていなかった。
「ねえ、由梨。
おかしなこと言っていいかな」
暗い眼をしてあかりは、見上げるように由梨の口元に視線を合わせた。
「何、隠し事なんかしないでよね」
いつもと違うムードに戸惑いながらも、努めて静かに答えた。
「私のこと、心配してくれてるのが良く分かるわ。
というよりも、さっきから『どうしたんだろう』とか『大丈夫かな』って頭の中に響いてくるのよ。
これって、口に出して言ってないよね」
由梨は目を見開いた。
視線が揺れ、何度もあかりの言葉を心の中で反芻して、思考が再開するまでに時間がかかった。
ゆっくりと視線を落とし、そして静かに口を開いた。
「それって、私の心が読めるってことかな」
あかりが指摘した言葉は、口から出たものではなかった。
様子がおかしい彼女を見て、何度も脳の中で繰り返した言葉をあかりが察したのかも知れない。
だが只事ではない雰囲気を感じ取った由梨は、笑いごとにはできないのだと直観していた。
「頭痛が段々収まってきてから、たくさんの言葉が頭に染み込んでくる感じがして、今度は気分が悪くなってきていたの」
まだ治ってなどいなかったのだが、この異常事態を誰かに聞いてもらいたくてやってきたのだった。
あかりの心情を察した由梨は、欠席届を提出するとあかりの車に乗り込み走り出したのだった。
3
車窓の景色が灰色の影を落とし、ビルの隙間の光が不規則なリズムを刻む。
吐き気をもよおした あかりは、椅子にもたれてグッタリとしていた。
「どうしよう、病院に行く」
由梨の問いかけに、小さく呻いたあかりが、弾かれたように のけ反った。
「ぐっ」
カッと見開かれた双眸が、光を失っていった。
「あかり」
薄れていく意識の中で、彼女の涙声が小さく響いていた。
薄暗く、窓には鉄格子が嵌め込まれた部屋には、陰気な空気が立ち込めている。
3人の男たちは、あかりと同い年くらいの少年、20代の青年、そして老人だった。
「爺さん、この女も没なのか」
「ワシに聞くなよ、少年」
「とにかく、生きてはいるようだが体調が悪そうだ」
反対側の壁にもたれて、ベッドで寝息を立てるあかりを値踏みするように見ていた少年が「あっ」と声を上げた。
目を硬くつぶり、眉間に縦皺を作った彼女が呻き声を漏らした。
「お目覚めかな」
老人がすっと立ち上がり、彼女の方へと近づいていく。
両手首と足首に、ステンレスの輪が嵌められて、首にも金属製の機械が嵌っている。
薄目を開けた彼女は、近づいてくる老人に気がついた。
随分長く眠っていたようだ。
全身がだるくて力が入らない。
「気がついたようだのう。
大丈夫、とりあえず危害を加えられることはない」
ブレザーから覗く袖元と、足には濃い痣があった。
右手を床に突いて半身を起こした彼女は、壁にもたれている少年と、青年に視線を移した。
「ちょっと、人の足見て変なこと考えないでよ」
2人は跳ね起きるように立ち上がると、床に視線を落として頭を掻いた。
一瞬目を丸くした老人は、口角を上げて微笑んだ。
「ほう、お嬢さんは、テレパシーかな」
「こりゃあ、いやらしいこと考えられなくなったな」
少年が言うと、肩をゆすって皆が笑った。
4
あかりが目覚めた部屋は、雑居房のように狭くて窓がほとんどなく、外の様子がわからなかった。
皆外で突然捕まえられて連れて来られたそうだ。
「この腕輪と足輪、首の輪に超能力を押さえる力があるようじゃ」
老人がベッドに腰かけてこちらを見た。
看守がパンとスープを大量に運んで来ると、あかりはあっという間に平らげ、顔色が随分良くなっていた。
由梨と一緒に学校から帰る途中に、今までに感じたことがないほどの頭痛に襲われて意識を失った。
それからの記憶がなかった。
だが仲間たちと話すうちに、少しずつ明るい気持ちを取り戻していた。
老人は田宮 慎二といい「慎ジイ」と呼ばれていた。
「ところでな」
声を潜めた慎ジイは、目を据えて真っ直ぐにあかりの目を見て言った。
「我々は『没』と呼ばれ、人間とは違う生物として、これからどう扱うか政府が検討しているようじゃ。
場合によっては殺されるかもしれん」
「そんな、なぜですか。
私は何もしていません」
思わず声が高くなった あかりをたしなめるように、人差し指を口に当てて続けた。
「当たり前じゃ。
これはワシの推測だが、人間には異分子を排除しようとする性質がある。
歴史がそれを証明しているのじゃ」
「だから、俺たちと力を合わせてここから出よう」
桐谷 翔太は、高校で喧嘩をしたとき、派手に教室を壊して通報されて捕まったそうである。
怒りに任せて力を解放したら、歯止めがきかなくなったと言っていた。
年齢が近いせいか、あかりとは話が合った。
「私は慎ジイと一緒に情報を集めようと思う」
落ち着きがあって頼りになる槇田 勝は、最強の能力を持つと、慎ジイが言っていた。
確かに、分からないことが多すぎた。
自分の能力にしても、時々人の心の声が脳に直接響くように聞こえるくらいで、使い方も分かっていなかった。
5
看守は、無言で時々食べ物を運んで来て、ドアの下の小さな戸から差し入れる以外は何もして来なかった。
得体の知れない能力を秘めた4人を恐れているのかも知れない。
監視カメラがどこかにあるのかも知れないから、残りの3人が死角を作り、翔太の年動力で金属の輪を壊した。
いかに力を抑えられたとは言え、翔太のパワーは凄まじく、輪を一瞬で粉々にしてしまった。
そして、慎ジイの能力である「物質を生成する力」で新しい輪を作り、密かに付け替えていた。
外に人の気配がした。
静寂を破って、小さな靴音がしてドアの前で男が止まった。
ドアの下にある、横長の小さな戸が少しずつ開いていく。
その時、爆発音とともにドアが外側に開き、看守は反対側の壁に背中を打ち付けて倒れた。
飛び出したあかりは、壁に貼り付いた彼の鳩尾に膝蹴りをめり込ませ、頭を両手で押さえて横に倒す。
口笛を鳴らして翔太が言った。
「やるねえ」
学校の課外活動で、空手を習っていた あかりは、テレパシーで相手が気絶したことを確認してから的確に攻撃をヒットさせていた。
騒ぎを聞きつけて看守が2人拳銃を構えて向かってきた。
咄嗟に身をひるがえして部屋に飛び込んだあかりは、2人から見えない角度から隙を窺った。
「ここは、お任せを」
手で制して、ゆっくりと廊下へ出たのは勝である。
無人の野を行くかのごとく、ゆっくりと歩を進めて、2人の看守の肩に手を置いた。
「君たち、こんなところで油を売っていると、給料を差っ引くぞ。
持ち場へ戻りたまえ」
ポンと肩を叩き、鋭い視線を向けてからは目尻を下げてニヤリと笑っているのだった。
「どうだい、便利だろう。
彼らは私を上司だと思い込んだのだ。
これも君と同じテレパシーの一種だ。
『過去を書き換える能力』と呼んでいる」
念のため慎ジイがドアの破損部分を再生して、元通りにした。
「4人では目立つ。
これより2手に分かれて情報収集を行う。
くれぐれも、無理はするな」
慎ジイの優しい笑顔に、月明りが影を差していた。
これから何が待ち構えているのかわからない。
突然授かった力を、何に役立てればいいのかも分からない。
だが今は、降りかかる火の粉を払う以外に道はなかった。
6
新都心に戻った二人は、オフィス街の裏通りを歩いていた。
歩きながら翔太と話すうちに、頭の中にちりばめられた情報が整理され気分が落ち着いていった。
少なくとも4人の超能力者がほぼ同時に力を発現したこと。
それはつまり他の能力者の存在を示唆していた。
そして政府の機関が没と呼び、事実を隠蔽して闇に葬り去ろうとして一カ所に集めたこと。
自分たちは人類にとって、危険な邪魔者だと判断されたのだ。
これから追手と戦いながら他の仲間を探す方針に決まった。
収容所では定期的に食事を与えられていたが、外に出てみると衣食住にも事欠く有様で、2人の顔に疲弊の色が滲んでいた。
「よお、そこの嬢ちゃんたち」
路地に立った中年の男が声をかけてきた。
翔太はあかりの前で仁王立ちになり、両手を前に突き出した。
警戒の色を見せた2人に背を向けた男は、飲食店へと入っていった。
「腹減ってるんだろう。
来なよ」
顔だけ中途半端に振り向いて言った。
カウンター席と、テーブル席が2つあるだけの小さな店の中に客はいなかった。
一番奥のテーブル席に座ると、コップ一杯の水をコトンと音を立てて2つ置いた。
久しぶりに口に入れる物を置かれたので、片手で鷲掴みにして持つと一気に喉へ流し込んだ。
洋食風のカツカレーが目の前に置かれると、こちらも貪るようにスプーンですくい口に運ぶ。
「良い食いっぷりだねえ。
良かったら上で泊まって行きなよ。
夜は物騒だから、事件でも起きたらいけない」
言葉を残して、男は厨房へと消えた。
翔太は自分たちが没と呼ばれる超能力者であること。
政府の機関に捉えられ、収容所に入れられていたことを包み隠さずに話した。
指原 国彦と名乗った男は、ウンウンと首を縦に振りながら話を聞いて、
「そうかい、疲れたろう。
貧乏食堂だが、雨風はしのげる。
ゆっくりして行きな」
と言ったきり、また仕込みの続きを始めた。
7
「国さん、今何て ───」
頭を掻いて、国彦が翔太の強い視線を真正面から受け止めた。
「俺も、君たちと同じ超能力者なのだよ」
一瞬、金属をこすり合わせるような不快な音が鼓膜を揺らした。
そして国彦がいた空間に、向こう側の風景が現れた。
消えた、という感覚よりも自分の認知能力がおかしくなったようだった。
10分ほど経つと、背中側に気配が戻ってきた。
「ほら、ピザ一丁。
お客さん、焼き立てが一番ですぜ」
皿に開けて切り取ると、あかりがやってきて貪り食い始めた。
頬に一杯詰め込んで、幸せそうな顔で食べる彼女を、微笑ながら国彦は見つめていた。
「旨そうに食うねえ。
お嬢さんを見てると、高校生のときに亡くした妹を思い出すよ」
急にしんみりした空気になり、翔太はピザに伸ばした手を止めた。
無言で見返す視線に耐えかねたのか、国彦の方が口を開いた。
「山で雪崩に遭ってね。
そのとき、テレポーテーションできたら難なく救えたはずだが ───」
語尾には悔しさが滲み、これ以上言葉を継げなくなっていた。
相変わらずパクパクと食べ続けるあかりを見て、
「そうか、お前はテレパシーで知っていたのか」
「お前って呼んだね。
あんたの彼女じゃないし」
堅い言葉を返すと、国彦は笑い出した。
その時、戸の向こうで大勢の靴音が響いた。
「何か来るぞ。
おっさん、あかり、裏口から逃げよう」
「逃げる必要はないさ」
飛び出そうとする翔太に腕を伸ばして制した国彦はひときわ大きな気合いをかけ、金属音を残して消えた。
次の瞬間、大量の銃を抱えて2人の背後に現れた。
「ほれ、好きなだけ武器を取れ。
俺は政府にマークされているが、捕らえられないからこうして飯屋に閉じこもっていてやってるのさ」
落ち着き払った あかりに視線を移した翔太は軽く舌打ちをした。
「嫌味な能力持ってるねえ、あんたたちは。
知らなかったのは俺だけかい」
8
夜11時、国彦の「夢食堂」が閉店時間を迎えた。
客は夕飯時に増えたものの、酒を注文して居座る者もなく片付けは終わっていた。
「おつかれさん。
手伝ってくれて助かったよ」
山で鍛えたという、筋骨たくましい身体を椅子に沈めて一息つく。
「国さん、俺たちのせいで敵に襲われたんじゃ ───」
大きな右手をポンと翔太の頭に乗せていった。
「俺の心配するほど、お前も強くなってくれたら話を聞いてやろう。
それで、これからどうするつもりだ」
「政府側の動きが分かるまでは、目立つことは避けたいと思っています。
できれば仲間を増やして、戦いになったときに備えておきたいです。
これは勝さんの意見ですけど」
顎に手を当てて思案顔になった国彦は、しばらく唸った後あかりを手招きで呼んだ。
「今は政府も超能力に戸惑っていて膠着しているが、いずれは攻撃してくるだろう。
いかに超人的な能力を持っていても、真正面から近代兵器を相手にはできない」
翔太はコクリと頷いた。
「でも、心に働きかけて、考えを変えることができれば共存の道が開けるのではないかしら」
髪を掻き上げ、瞳には意思の輝きを湛えていた。
あかりには超能力者を没と呼び差別しようとする人間の性の先にあるものが見えていた。
「うむ。
我々は普通の人間と変わらない幸せを追及して生きるべきだ。
能力に溺れ、己を見失ってはならない」
その時、食堂のBGM代わりにかけている、インターネットラジオに臨時ニュースが割り込んだ。
突然、謎の男がさいたま新都心で暴れ始めた、というものだった。
不可解なことに、警察や自衛隊が出動したものの、同士討ちを始めて多数の死傷者がでているという。
遠くで爆発音と地鳴りが轟いた。
「近いぞ、国さん、どうする」
翔太はすでに戸口に向かって走り出していた。
「待って」
鋭い声で、あかりが呼び止めると、
「まさか、止めるんじゃないだろうな。
仲間が攻撃されているんだぞ」
「違うわ、冷静に考えてみて。
同士打ちって、勝さんの、能力じゃ、ないの、かしら ───」
最後は上ずって声がかすれ、唇を震わせて、目に涙を浮かべている顔が、翔太の毒気を抜いてしまったのだった。
9
「勝、これではとても持ちこたえられないぞ」
雨あられと弾丸やレーザービームを受けた盾は、砕けては再生し、また砕かれては新しい盾を生成していった。
「ワシの体力が持たん」
「すみません、慎ジイさん。
私が加減を間違えたばっかりに ───」
攻撃を超能力で察知して、記憶を書き換える勝の処理スピードが、敵の数に押されていた。
「とても捌ききれない ───」
時が経つごとに敵の数が増え、弾薬を補給しているようだ。
万事休す ───
その時、
「オラオラオラアッ」
上空から降ってきた少年が、敵に向かって投げた衝撃波で弾とレーザーが軌道を変え、遥か後方のビルをなぎ倒した。
「こっちです。
敵意を持っているのは正面の相手だけです。
まだ逃げられます」
この少年と少女は ───
慎ジイは一瞬合掌し、ありったけの力を込めて巨大な門を地面から引きずり出した。
「万物の理よ、我が意に応えよ。
我が手は、万物を生み出す坩堝 ───
想像は創造、今、具現化する。
出でよ、羅生門」
あかりを捉えたレーザーが、「既の所で弾き返された。
「さあ、こっちです」
国彦が路地の向こうから叫んだ。
「まさか、もう使うことになるとは思いませんでしたよ」
自動操縦の軍用ヘリに乗り込んだ5人の超能力者は、それぞれの思いを胸に安堵した。
「これから、どこへ ───」
まだ息が上がっている慎ジイが尋ねた。
「伊豆沖の離島に、我々を支援する団体が基地を建造しています。
本当は、もう少し時が熟してから集結する手筈だったのですが ───」
国彦の困惑した声に、勝は肩をすぼめて俯いた。
「まあまあ、国さん。
あまり虐めないでやってよ。
責任感が強いお兄さんなんだからさ。
俺は、派手にドンパチやって、胸がすく思いだぜ」
自分の拳で胸をドンと叩き、翔太が立ち上がる。
傍らで大きなため息をついて、あかりが言った。
「ドンパチも良いけどね、他人事じゃあないのよ。
私たちは、協調路線で歩み寄らない限り、明日はないの」
「まったく、面目ない」
慎ジイと勝は、ますます肩身を狭くしたのだった。
そして、誰からともなく笑いが起こった。
その渦は、沈みゆく夕日に照らされて、暖かく辺りにこだまするのだった。
了
この物語はフィクションです
「利益」をもたらすコンテンツは、すぐに廃れます。 不況、インフレ、円安などの経済不安から、短期的な利益を求める風潮があっても、真実は変わりません。 人の心を動かすのは「物語」以外にありません。 心を打つ物語を発信する。 時代が求めるのは、イノベーティブなブレークスルーです。