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読書録——『ジャック・ウェルチ 「20世紀最高の経営者」の虚栄』

ジャック・ウェルチと言えば、自分のような経営の素人でもその名は聞いたことがあります。GEの伝説的なCEOで、シックス・シグマをプロセス改善の手法として広めたとか、「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」という言葉、官僚主義を解体した組織運営、「ニュートロン・ジャック」の異名(中性子爆弾になぞらえて、人員を解雇して会社を守るの意)など、その尖り方は強烈なものがあります。

2010年頃に著作(日本語訳ですが)のいくつかに触れたことがあったものの、しばらく遠ざかっていました。

最近、ボーイング社の品質問題を取り上げたニュースの中で、本書が紹介されていました。原題は"The Man Who Broke Capitalism"(資本主義を破壊した男)と、すでに強いトーンになっています。
ウェルチズムの代表的戦術として、ダウンサイジング、事業売買、金融化の3つが指摘され、短期的には利益を増大させたが、その代償が徐々に積み重なっていく過程が詳らかにされていきます。

上記のほかに印象的だった内容は以下の点です。

  • 厳しすぎるノルマを課した時に人は都合の悪い情報を報告しなくなり、数字をごまかす。

  • 現場のマネージャーが、より上級の管理職(本書ではウェルチ)の方が事業内容をよく分かっていると思うと恐ろしくなる。マイクロマネジメントが行われていなくてもその恐怖は変わらない。

  • ウェルチズムの上澄みを身につけた弟子が別の会社の経営に関わるようになった時、よりあっけなく事業が崩壊する。

上記2つ目、3つ目に関しては以下のような記載があります。
「ウェルチには確かに長所があった。無限のエネルギーを持ち、他の人に絶えず努力をするように触発した。エクセレンス(卓越性)を要求し、しばしばそれを手に入れた。部下はウェルチのほうが自分よりも担当事業のことを熟知しているのではないかと恐れ、駆り立てられるように物事に精通し宿題をこなそうとした。ウェルチは官僚主義を縮小し、その結果として雇用が失われることも多かったが、効率性や意思決定のスピードは向上した。彼は残酷なほど率直で、戦略の才覚と新しいトレンドに対する鋭い嗅覚を備えていた。彼の弟子の多くはウェルチが図らずも提示した最悪の事柄を模倣した」(108頁)

画像は(本書から離れた)イメージです

この部分が印象に残った理由は単純で、「自分はもしかしてこのように思われているのか?」と思ったからです。

断っておきますが自分は決して優秀でも卓越した業績を上げている訳でもなく、平凡な町医者に過ぎません。後輩に自分よりも卓越した医師になって欲しいとの思いで色々な試みをしたりする程度です。
(以前の以下の記事もその忘備録的な意味はあります)

それでも、同じことを続けていると年の功的に出来ることは増えていきますので(医師免許を取得して20年近くになります)、それが後輩たちに距離感を感じさせているのだろうか、そんな風には思います。

後輩とは双方向的な学習が出来る関係性でありたいとの思いから、率直な物言いを自分はしており、また後輩にもして欲しいと思っているのですが、学生時代からの先輩後輩の関係を脱構築した経験がないと、それも難しいのかもしれない・・・

と色々と思うところが出てくるこの著作ですが、上記の引用部分から痛感した内なるウェルチズムを相対化して、新たな生き方・あり方を模索していく必要がありそうだと感じました。

余談ですが、ウェルチはドナルド・トランプ元大統領(2024年5月現在)とも親交が深かったようです。ウェルチズムで不遇となった人が少なくなさそうな白人労働者たちがトランプ支持に回っているのは皮肉な巡り合わせと感じました。


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