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異文化への理解—海外の知見を適用する際のチャレンジ


はじめに

病院で勤務するにあたり、一人ひとりの強みを引き出したり、自主性を涵養しようと様々な概念を学び実践に結びつけようとしてきたが、様々な場面において抵抗に遭ってきた。例えば、M. ノールズの「自己主導型学習」の概念を導入して優れた学びを自ら追求して欲しいと働きかけたが、若手たちは先輩からのローカルな教えを越えていくイニシアチブを発揮することは殆どなく、国際コーチング連盟のコアコンピテンシーを参照しながらコーチングスキルを活用して後輩たちの成長における長期的な目的を明確化してもらおうと働きかけると、そんなことまで話したくないとの不満が噴き出してしまう。
上手くいかないことが生じると、新たな学びを積み上げてアプローチの仕方を変えて「これならどうだ」と試みるのだが、それで成功に結びつくことはなく、周囲との距離感は徐々に大きくなっていった。

「なぜ?!」と途方に暮れていた中で出会ったのが、エリン・メイヤーの「異文化理解力」だった。読んでいて実に興味深い内容であり活用出来ればと思い始めた一方で、時々目を通している学術論文では、ヘーフド・ホフステードの「多文化世界」が引用されているのが目についた。
両方ともこの領域の定番の著作のようだが、書かれている内容が細かい点でちょっと違う。自分のように様々な文化的背景のある(主として海外の)知見を職場の人財育成に活用したい人間にとって、どう使いこなせば良いのか?ちょっとまとめてみた。

「異文化理解力」と「多文化世界」の共通点

「異文化理解力」も「多文化世界」も、特にビジネスや組織の文脈において、文化の違いを理解し、その違いを乗り越えるためのフレームワークを提供することを目的としている。両者とも、文化が人々のコミュニケーション、意思決定、リーダーシップの捉え方に大きく影響することを認識している。
メイヤーの「カルチャー・マップ」は、文化が異なる8つの主要な尺度(コミュニケーション、評価、説得、リード、決断、信頼、見解の相違、スケジューリング)を特定している。同様に、ホフステードのモデルは文化の6つの主要な次元(権力格差、集団主義/個人主義、女性性/男性性、不確実性の回避、短期志向/長期志向、放縦/抑制)を特定している。.
どちらのモデルも、特に国際ビジネスや異文化コミュニケーションの文脈において、個人や組織が文化の違いをよりよく理解し、ナビゲートできるように設計されている。

「異文化理解力」と「多文化世界」の相違点

このようにどちらのモデルも文化の違いを理解するためのフレームワークを提供することを目的としているが、両者は若干異なる角度からこのトピックにアプローチし、文化の異なる側面に焦点を当てている。
メイヤーの「カルチャー・マップ」は、文化の違いが組織内の日々の協働やコミュニケーションにどのような影響を与えるかに特に焦点を当てており、文化が日々の協働にどのような影響を与えるかを読み解くのに役立つ。
一方、ホフステードのモデルは、ある文化と他の文化を区別する、より広範な社会的価値観に焦点を当てており、ある集団が他の集団と自らを区別する「人間の心のプログラミング」を理解するための、より理論的な枠組みを提供している。

普段使いとしての有効性は?

日々の職場における同僚、後輩、先輩、他部門とのコミュニケーションに関しては、「カルチャー・マップ」においては例えばハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化の違いに言及している。日本がハイコンテクスト文化であることはよく知られている。一方で、ホフステードのモデルにはコミュニケーションそのものをテーマとしては取り上げておらず、権力格差や集団主義/個人主義などの文化的次元により影響されることが示唆されている。日々のコミュニケーションに関しては「カルチャー・マップ」の方が普段使いには易しいようだ。
別の例として、組織変革のマネジメントや特定のプロジェクトの実施に関しては、「カルチャー・マップ」ではコミュニケーションスタイル、意思決定スタイル、信頼構築の方法などについて示唆が得られるのに対し、ホフステードのモデルでは権力格差、集団主義/個人主義、不確実性の回避、女性性/男性性の次元を考慮した方略が求められることに気づかされる。いずれのモデルも極めて示唆に富んでいるが、個人的にはここではホフステードのモデルに立脚したプランニングにより強い魅力を感じる。

参考文献

  • エリン・メイヤー著、樋口武志訳.異文化理解力ー相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養.英知出版.2015.

  • G. ホフステード他著、岩井八郎他訳.多文化世界ー違いを学び未来への道を探る 原著第3版.有斐閣.2013.

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