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『ダブルハーベスト』から学ぶビジネス・スキームの考え方

 とても刺激を受け、勉強になる本でした。AIの技術が一般的なモノになり、ツールとして活用しやすくなっていること、データの捉え方と分析が、よりビジネスに実戦的な活用段階になっていることが感じられました。大企業のDXの際にも、スタートアップが事業構想を組み立てるときにも、とても有益というか必須で読むべき内容だと思います。
 まさに自分の備忘も兼ねて、刺さったポイントを簡単にまとめておきます。

ヒューマン・イン・ザ・ループの有効性

 AI=自動化と考えてはいけないと本書は説きます。

人間はAIのサポートによって潜在能力を開花させ、AIは人間の教育によってさらに賢くなる。つまり、人間とAIのコラボレーションにこそ価値があるのであって、「人間 vs AI」という対立構図でAIを捉えるのは、もはや時代遅れといっていい。(P41)

 単純な自動化よりも、人間との相互補完によるAIの活用が重要というのが、本書の肝になる最初のポイントです。ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)と呼ばれるこのループで成果を上げていく(ハーベスト)ことで、優位性を確立できるが、それだけだと一時的なもので、継続的に勝てるとは限らず、一つの事業の中で、複数のループを回すサイクルをつくるのが成功の秘訣だという考え方は、非常に良くできた概念の抽象化だなと思いました。

つまり、あらゆるビジネスは、少なくとも実務ベースと金融ベースの二重ループが回せるはずで、このダブルハーベストループを両方回し切れば、ライバルは追いつけなくなるというのが、本書の最大のメッセージである(P34)

エキスパート・イン・ザ・ループは、エンタメビズに適応

 様々な点で示唆に富む本なのですが、HITLの発展型である、エキスパートインザループは、エンタメビジネスに適応した考え方で、刺さりました。

このような専門家をサポートするタイプのコラボを「エクスパート・イン・ザ・ループ(expert-in-the-loop)」と言う。専門家を専門領域以外の雑務から解放して、専門領域に特化させることによって、コスト削減以上の効果が得られるのが、EITLのメリットだ。(P55)

 創造性や嗜好性が問われる部分が残るエンタメビジネスでは、目利き、コンシェルジュといった立ち位置が無くなることはおそらく無いでしょう。同時に、ユーザーデータに基づいて、予めプログラミングされたアルゴリズムにリコメンデーション(推奨の仕組み)を委ねることは、ビジネストレンドでもあります。
 これまで人間しかできないと思われていたクリエーション(創造)の分野にAIを取り入れていく際のキーになる考え方が、EITLなのだと思います。目利きとAI処理能力の組合せということですね。この概念を知ったことで、新しいサービスを作るモチベーションが大いに上がりました。

E2E学習は日本企業浮上の契機になるのか?

そこで次に求められるのが、自前でAIモデルを構築することだ。パーツの寄せ集めを出すれば、最初から最後まで一気通貫でAIをトレーニングすることができる。これを「E2E(End to End)学習」と言う。E2E学習はハーベストを回し続けるための前提となる。
つまり、スタート時は何よりもスピードが大事なので、ありもののAPIやライブラリーを組み合わせていち早くAIモデルを実現する。しかし一旦モデルができ、ループが回ってデータを収穫できるようになったら、できるだけすみやかに自前のシステムに移行し、E2E学習でAIを賢く育てていく。こういう二段構えの取り組みが求められているのだ。(P63)

 という指摘は、目からウロコが3枚くらい落ち、膝をたたきました。また、この「垂直統合」を志向するモデルは、既存の日本企業が得意としてきた形で、グローバルにプラットフォーマーとして勝者となったGAFAMとレイヤーをずらして戦うことで勝機があるという指摘も的確に感じました。冨山和彦さんが、テクノロジーがwebだけの時代からモノと繋がって(IoT)、シリアスな技術が必要となったことで、日本企業にチャンスが有るという話とも関連する、これからの日本の既存大企業の戦い方なのでしょう。
 僕はスタートアップ側からこの流れを上手く活用していきたいと思います。

「レスデータ」の時代は、「ロープイズキング」!

 一番驚いたのは、「データ・イズ・キング」時代の終焉という話です。新しいテクノロジーのブレイクスルーが産業や社会を牽引し、変革する時代なのだなと改めて思います。
 ディープランニング(深層学習)と共に、注目されたビッグデータのAI活用が、次のフェーズに進んだことをこの本から学びました。2017年頃から「レスデータ」のムーブメントが始まっているとのこと。

 その背景となる技術が興味深いです。一つは、GAN(敵対的生成ネットワーク:Generative Adversarial Networks)で、教師データとしてフェイクを生成しながら、フェイクを見抜くAIも用意して競わせるという方法。もう一つは、トランスファーランニング(転移学習)という学習済みのAIの領域をスライドさせる技術だそうです。

そう考えると、データを大量に持っているだけでは、この厳しい競争を生き残れない。大事なのはデータの量ではなく、常に新しいデータを生み出し続けるループ構造を作ることであり、戦略的なAI活用はもはや「ループ・イズ・キング」のフェーズに突入したと言えるだろう。(P115)

 これからの事業やサービスの構築において、AI活用は肝です。事例も豊富に紹介されていて、とても勉強になる本です。起業家もビジネスパーソンもmust-read!!

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