見出し画像

就職を考え始めた学生に読んで欲しい〜関大専攻横断型講義「デジタルとグローバルの時代に音楽を担う人たちに僕が伝えたいこと」講義録


radikoを作った三浦教授からの依頼

 関西大学で教鞭を取られている三浦文夫さんとは、20年以上のおつきあいになります。電通時代に、関西の放送局を取りまとめて、radikoというサービスを作り上げた方です。広告業界の方に時折見受けられる、上から目線や、頭でっかちな捉え方ではなく、音楽ビジネスを等身大で捉えて、構造的に理解されていることは、著書『少女時代と日本の音楽生態系』を読めばよくわかります。2012年の本ですが、日米韓の音楽ビジネスを文化、ビジネス両面で整理している名著で、今でも僕はセミナーなどで推薦しています。
 信頼している三浦さんから講義のご依頼をいただいたので二つ返事で引き受けました。事前打ち合わせは谷中のレコードをかけてくれる音楽バーと、天ぷら「福たろう」のハシゴで、昨今の音楽シーンの話に終始しましたが、特に不安はなく、社会学部の学生が専攻関係なく、600人超受講してくれるとのことで、楽しみにしていました。
 関西大学の北里キャンパスは初めて伺いました。

正門で記念撮影(笑)

 講座後には学部長ともランチをいただいて、お話を伺うことができ、有益な体験でした。ありがとうございます。

令和時代のキャリア戦略と音楽との付き合い方を指南

 90分の持ち時間に対して僕が用意したアジェンダが上記です。まず、最初にこれから社会に出ていくときに、キャリア構築に対してどういう考え方とマインドセットを持てば良いかという「総論」をしっかり話します。
 昭和の高度成長期時代に作られた「終身雇用制度」が終了し、会社との関係性が変わったことを、大人達が学生にきちんと伝えてないことは、ひどすぎると日頃から思っているので、その話をします。
 音楽ビジネスの構造変化の話は、キャリア戦略の前提が変わった最大の理由である「デジタル化」の一例でもあります。また、関大社会学部、特に三浦さんの講義を受けている学生には、音楽好きが多く、コンテンツ系の進路希望が多いと伺ったので、「音楽を通じた自己実現」をするためのキャリアプランの具体例を示すことにしました。

「就社」の時代は終わった、自分でキャリア戦略を考えよう

 教育→仕事→引退という3ステージは終わって、「マルチステージ」の時代だという説明は、ライフシフトジャパンCEOの大野さんの図を引用させてもらっています。3ステージモデルしか知らない親や教員が、今の学生にキャリア指導するのが難しいのがわかりますね。

 なので、今の学生は、ロールモデルを見つけるのが難しいでしょう。もちろん孫正義、堀江貴文、大谷翔平といった規格外の能力を持った人はいますけれど、なかなかリアリティは持ちにくいでしょう。ただ、モデルがないということは、自由な発想で未来を描けることをチャンスと思って欲しいなといつも思っています。日本は経済大国ではなくなり始めていますが、文化力は世界的に見ても有数で、技術力も優れていることはたくさんあります。産業界や政界のリーダーが「デジタルシフト」というルール変更に適応した経営戦略を選べなかったことは、国全体として挽回が大変なところがありますが、個人の生き方の選択肢として捉えれば、日本人には有利な点がたくさんあります。世界のほとんどの国に入国できるパスポートが入手でき、外国人観光客が増え続ける人気の国でもあり、アニメを見て育った日本文化にリスペクトを持ってくれている外国人もたくさんいます。しっかりとしたビジョンさえ持てば、今、日本人であること自体がアドバンテージであるとすら思っています。
 そのために、昭和の成功体験とノスタルジーを引きずった、間違った大人達のアドバイスに惑わされないで欲しいのです。「終身雇用制度は、昭和にあったけどもう無くなった」ということは、就職ビジネスメディアに惑わされないために強調しすぎるくらい大声で伝えたいことです。

音楽ビジネスを通じてDXによる構造変化を理解する

  音楽ビジネスがデジタル化によって構造的に変わったという話は、僕の「持ちネタ」的な定番のお話です。「失われた30年」などと言われる日本凋落の典型例の一つが、CDビジネスとマスメディアの組み合わせに固執したことであるというのは、音楽に興味がある若者が理解しやすい切り口になるかなと思いました。

 ビジネス構造が変化したのに、いまだに「昭和の気分」で発言するオトナがいるから気をつけろというこの日のテーマには合致していたはずですね。

 音楽ビジネスそのもので関係があるのは、個人へのパワーシフトという部分でしょう。

 音楽をやりたいなら、個人で今やれる、むしろ学生の間にやれるだけやっておいた方が良いということも強く伝えました。講義後のアンケートでも手応えのあったようで嬉しかったです。

就職する会社を選ぶ時は、3年後に辞めて何が手に入るかをイメージ

 一番伝えたいのは、就職して3年間で何を手に入れるかイメージして、会社を選ぼうということですね。少なくとも日本の音楽業界で新卒社員に対してキャリアプランを提示できる会社はほとんどありません。経営者の皆さんは異口同音に「若いデジタル人材が欲しい」と言いいますが、入社してもデジタル領域で指導できる管理職、先輩が機能する場合は非常に少ないのが現状です。「この会社に入ろう」と思って受け身な気持で就職しても、キャリアアップにならない場合がほとんどです。入社前から、「何を手に入れるのか」に意識的であることが、20代の貴重な時間を無駄にしない方法だと僕は思います。

クリエイター志向ならパラレルキャリアもあり

 クリエイターとしてやっていきたい人には、100人超のプロ作曲家を送り出した「山口ゼミ」での10年間の経験を踏まえたアドバイスを行いました。
 楽曲コンペを入り口に職業作曲家のキャリアを始めるという「方法論」があることと、セルフマネージメントを行うインディペンデント精神が需要であること、今の時代だと複業的なキャリアプランも可能なことも伝えました。

自力でレーベル/事務所/プロモーターを始めることも可能

 デジタル化はあらゆることを低廉化したので、レーベルや事務所など音楽ビジネスを既存の会社に頼らずに始めることは可能になりました。経験なく成功するのは簡単ではありませんが、音楽をライフワーク的に仕事にしたいと思うなら、検討してみるべき選択肢でしょう。

エンターテック分野での起業呼びかけ

 レーベルや事務所を自分で行うのも「起業」ですが、僕たちスタートアップスタジオが定義する「スタートアップ」は、企業価値の向上を、出資を集めて行うモデルとして説明しました。

 また、日本の起業率の低さ、起業マインドの不足は国家的な課題になっていますが、終了後のアンケートなどを通じて、これまで考えたことがなかった「起業」について、考えようと思ったという人が一定数いて、熱く語った意味はあったかなと思いました。

 StudioENTREは、神戸市の分野特化型イノベーション事業者として採択されて、神戸にブランチを置いていますので、この日もみんなの中から、一緒にスタートアップにチャレンジする人が出てきたら嬉しいです、と話しました。

アーティストとしての成功イメージを持つ

 アーティスト活動を希望する学生も少なくないと聞いたので、アーティストの成功イメージについて語りました。
 ポイントは2つです。
 セルフマネージメント・セルフプロデュースのマインドでやる
 今すぐ始めて、学生の間にやりまくってから次のことを考える

 既存の業界側が、才能の芽みたいなものを拾って、「原石を磨く」みたいなモデルは通用しなくなっています。「最初から自分がやる」マインドが大切です。
 欧米では「アーティストアクセラレーションプログラム」の提供が一般的になっていて、起業家を育てるように、アーティストを育てるイメージになっています。日本も同様で考えるのが自然でしょう。

セルフマネージメントの肝はファネル設計

 大きな資金や組織がないとやれないことは音楽ビジネスにおいては無くなりました。セルフマネージメント・セルフプロデュースができないアーティストは勝ち残っていけません。アーティストとしてのビジネスを考えるときの基本形が「ファネル設計」です。SNS/UGM等の無料サービスで見つけてもらい、そこからコアなファンになってもらうまでの流れをイメージして、継続的な活動の中で、接点作りから関係性の濃いファンまで一気通貫でやれるのが理想です。

既存の仕組みは終焉し、未来はチャンスにあふれている

 文化・クリエティブ領域が、日本のコアな価値になっています。日本政府も「コンテンツ産業を基幹産業に」と旗振りを始めました。その未来担うのは、デジタルネイティブなZ世代です。期待し、応援していきます。終了後にアンケートを取ったところ、義務はないのに、300以上の声が届きました。少しはお役に立てたかなという手応えがありました。
 希望者にはメンタリングをやりますとしたところ、20人弱の手が上がりました。順次オンラインミーティングを始めていますが、希望に満ちた年代だなと逆に元気をもらいます。

講義録全体はSlideShareに

 興味のある方は、こちらの講義資料をご覧ください。
 若い世代のキャリアプランについては、お役に立ちたいと思っていますので、講演などの希望はお気軽にご連絡ください。

<関連投稿>


この記事が参加している募集

仕事について話そう

モチベーションあがります(^_-)