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【掌編小説】Reborn


 
「なあ、どこに向かっているんだ?」
「知らない。でも、あなたが進んできたのでしょう、ここまで」
 
 消滅する都市はきみを丸ごと飲み込んで、海は進行方向に向かって割れた。ごおごおと風が舞って、僕たちの顔に吹き付ける。
 
 

 よく生まれ変わる夢を見るんだ。知らない街、知らない人、喧騒の中で僕は逃げている。もしくは、何かを強く探し求めている。
 
 生まれ変わるたびに、僕自身の性別や顔姿かたち、バックグラウンドは変わっている。けれど、本質的な部分は何も変わっちゃいない。ただ、外見が変わっているだけだ。
 廃工場のような場所で、今日も僕は追手から逃げている。
 

 次の世界に行くためのルールは分かっている。その世界で、生まれ変わる以前の世界にあったものを見つけること。キーアイテムってやつだ。今回は昔、きみにもらったキーホルダーだった。
 ある種の懐かしさは、人を正気に戻す。それを見つけると、僕は次の面に行ける。重要なのは、決して元の世界に戻れるわけじゃないってことだ。堂々巡りで、また僕は次の世界でもいつか見た風景を探す。
 

 ◆
 遠い昔にどこかで感じたことあるような、白昼夢のような感覚は、きみの前世の記憶だ。昔の記憶が揺り動かされて、懐かしさを感じているんだ。きみをどこかから連れてきて、これからまた知らないどこかに連れ去ろうとしている。

 心に抗うことはない。そんな時は、次の世界に、踏み出せばいい。行き当たりばったりに行動すればいい。それは前世のきみからの、明確な合図だ。



「あなたはこれで満足?」
きみは問いかける。僕は笑ってしまう。
「冗談じゃない。こんなもんで満足しているわけないじゃないか」
「僕は人生を変えようとしているんだ。良い方にか、とんでもなく悪い方にかは分からないけど。でも、一つ分かっていることがある。ここを抜けるには、何か取っ掛かりが必要なんだ。僕の人生をぎりぎりのところで繋ぎ止める、出っ張った釘が必要なんだ」
「あなたが何を言っているか、よく分からないわ」
「僕だって分からない。けど、タイプすることはできる。文字を打っている時間だけは、少なくとも、前に進んでいる感覚がある」
「あなたは、夢の中のまま生きている人ね。今の方が、夢が醒めるよりもいいのかも知れないわ」
「確かに、そうかもしれない」
「それでも、僕はそろそろ行かなくちゃ」
 
 

(了)

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