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[詩] おとうさん

おとうさんがきらいだった
おとこだったらよかったなと
いつもわたしにつぶやいた
あにとわたしがはんたいだったら
よかったのに と わたしもおもった
おとこのくせに と いわれなかった
おおきいんだから と いわれなかった
わたしはおんなのすえっこで
わたしは ちちのきにいりで
それでも そんしているようだった

おとうさんがきらいだった
おおきくなったらなにになる
そうりだいじんが わたしのこたえ
だけど いえでえらいのは
だんなさんだと おしえられた
ほんきでそうだとおもっていた
ただしいことだとおもっていた
ちちがひとりではたらいて
ちちがいえではいちばんで
だから ちちがすきだった

せいせきのよいわたし
ひとにほめられるわたし
ピアノのうまいわたし
このこはさいのうがあると
いう ちちのことばをきいて
おとうさんのために
わたしはもっとがんばろう
と さくぶんにかいた

おとうさんがきらいだった
わたしは つうやくになりたい
わたしは なにかになりたい
おまえのゆめはわかるけど
むすめに かねはつかえない
せいせきはわるくなく
よすぎてもならず
あにをこえてはいけなかった
おんなだから
いもうとだから

がんかもしれない にゅういんちゅうに
わたしは まくらもとにたち
らいげつ いえをでたいといった
ちちはだまってうなずいて
そうして わたしはでていかなかった

とられた ちちの いをみせられて
たしなめられるくらい
こえがでて なけた
しゅじゅつのあとの ちちのてをにぎり
むかえた せいじんしきのあさ

おとうさんがきらいだった
せいじんしきのふりそでを
かってもきないと わたしはいった
にじゅうさんで きることになり
うちかけまでも ついてきた
そのひゃくまんを きるものじゃなく
ほかのことに つかいたかった
むすめはかざれて
むすめは こ をうみ
だから わたしはここにいるの?

11トントラックとぶつかって
きがつくと しゅじゅつしつ
めがみえず
からだがうごかず
あしもとで ちちのこえがした
フロントグラスにあたまをつっこみ
ガラスのささった わたしのかお
あばらがおれ
ひじがくだけ
にくのちぎれたあし
ちちはものがたべれなかった
あたまをうった
かおのつぶれた
あしのうごかぬ
わたしをだいて
いきていこうとおもっていた

ちちとおなじせだいのひとは
むかしのひとより せがひくい
こどものときが せんそうだった
いちばんたべたい あのころが
いちおくがまんのときだった
にさいで ちちは ちちをなくし
じゅうごで がっこうをあきらめた
ひとへやのいえで
ははになったつまと
ほんとたべものに かねをおしむな
と はなした

さんじゅうをこえたむすめ
けっこんしないむすめ
こどもをうまないというむすめ
うえもしらず ほんにかこまれ
とうぜんのように だいがくをおえ
たりないものがないはずの
ちゅうりゅうかていの あなたのむすめ

とじょうこくでそだたなかった
ぶっしつぶんめいをもろにうけ
おかねはいらない と いえるむすめ

このこえ
このかお
このきしょう
しょうじきなところ
なみだもろいところ
へりくだるところ
きのつよいところ
カッとするところ
じぶんのいけんがただしくて
ひとにまけたくないところ
ほんとはじぶんはなにかになれる
なにかができるとおもっているところ

おとうさん
わたしはあなたににている
だからきらい
だからすき
だからきらい

おとうさんがきらいだった
やすこはあなたのものじゃない
やすこはむすめだけじゃない
やすこはおとこでなくていい

せけんのじょうしきと
わたしのじょうしきが
このさき たとえちがっても
ただしいのは わたしだと
わたしはおもう
ただしいことのはんたいも
ただしいのだと
わたしはおもう

おとうさんをすきになりたい
ひゃくねんかかっても
すきになりたい



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