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超短編小説

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2022年12月の記事一覧

超短編|その後

超短編|その後

 君に出会ってからの僕は、ようやく理解者を得ることができた…そう思った。頑なだった僕の心は、少しずつ少しずつ溶かされていく。

 この後、君の理想の型に流し込まれ、違う形に成形されていくなどとは思いもせずに。

超短編|大晦日

超短編|大晦日

 大晦日か…俺の役目もそろそろ終わるな、と寅が独りごちた。この一年は本当に長かったよ。気が気じゃなかったと言うか、バレたら俺の威厳が失くなっちゃうよなってハラハラしてた。

 実はさ俺、家に忘れものしてたんだよ。ほら、見てくれよ俺のしっぽ。
 一休さんが急に呼び出しただろ?だから絵師が慌ててさ、縞模様を描き忘れたみたいなんだ。

 やれやれ、やっと屏風に戻れるよ。

………………………………………

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超短編|箱

超短編|箱

 大きな黒い箱を開けると、聞こえていた騒めきが止んだ。暗くて底は見えない。閉めるとザワザワ。開けるとピタリ。さっきから繰り返す鼬ごっこの謎を、僕は解き明かしたくて堪らなくなっていた。

 なぁに方法は簡単だ。僕が箱の中に入って誰かに蓋を閉めてもらえばいい。

 その後?

 その後はまた、『次の誰か』をゆっくり、箱の中で待てばいいんだろう?

超短編|通院

超短編|通院

 身体に不調をきたし、私は薬を飲んでいる。先生に言われた通り、一日三回食後にきちんと。お陰で元気になり、通院する必要はなくなった。

 モウ、ココニ通ウコトハ ナクナル…?

 それは嫌。病気は治ったけれど、先生への恋慕の情をこじらせてしまったよう。

 「つ、次は何科に通ったらいいですか?」

超短編|繰り返す

超短編|繰り返す

 今日、愛しい娘が産まれた。

 私の母は一年前に亡くなったのだけれど、私の耳には今、嬉しそうな母の泣き声が届いている。そして私はこれから、娘が二十歳を超える頃まで共に生き、命を終える。娘にまた会えるのは、きっとここと同じ分娩室だろう。私はそこで大きな産声を上げるのだ。

 そう、これは二人の間でずっと繰り返されてきた、私が母を産んだ日の話。

超短編|武器

超短編|武器

 大体さぁ、みんな俺に頼りすぎなんだよ。いくら凄腕と言われる俺でも、このご時世、弓矢なんて古臭い武器でいつまで戦えると思ってる?いざという時に仕留める役を俺に押しつけるくせにさ、少しは考えてくれよ。

 要は、命中率を上げたいんだろ?
 だったらさ…

 「コイツでいくぜ。」

 銃を構え、照準器を睨む。

 俺の名はキューピッド。一発必中の…殺し屋だ。

超短編|執拗な元カレ

超短編|執拗な元カレ

 別れるとき、彼がこれ程まで執拗に私の邪魔をしてくるとは思っていなかった。
 昇進の話が立ち消えになり、良い雰囲気になりかけた男性に振られ…それらはみんな、彼が裏から手を回していたのだ。

 「何よ、もう!私の幸せを願っていくって、言ったじゃない!」

 怒りに任せLINEを開くとそこには、
『君の幸せを折っていくよ。』

超短編|ダンス

超短編|ダンス

 「あなたも、ダンスやってみない?」しなやかな動きを見せながら、僕の片思いの相手が言う。
 教えてくれるの?「もちろん。」

 初の稽古場でも、君はさりげなく僕の手を取り、告白するには良い雰囲気。よし!言うなら今だ。あ、あのさ…
「あなたにね、相談に乗って欲しいとずっと思っていたの。彼のことで…。」

 やれやれ。どうやら僕はまた、君に踊らされたようだ。

超短編|二人のニーズ

超短編|二人のニーズ

 付き合い始めたばかりの彼とのデートは、まだまだ緊張する。沢山食べる女性が好きだと言われても、普通盛りの彼のラーメンの横で、大盛りラーメンを食べるのは勇気が要るもの。

 でも、ここのラーメン屋さんならメニューにミニラーメンがあるから、二人のニーズにとても合う。

 「さてお客さん、何にするか決まった?」
 「はい、えっと…ミニを五杯お願いします。」

超短編|体型維持

超短編|体型維持

 「心がけていること…ですか?そうですね、若い頃の体型を維持しているということでしょうか?調子に乗って今も、当時の服を着たりするんですよ。もちろん、色は控えめですけどね。
 あ、そのケーキ残します?だったら、いただいていいですか?なんだかんだと…お腹がすいちゃって…。」

 『体型維持』ー それは、スレンダーとは限らない。

超短編|訳

超短編|訳

 『アイ・ラブ・ユー』を『月が綺麗ですね』と訳した人がいるんだってね。
 だったら…『マリー・ミー』を『綺麗な夕焼けですね』と訳すのはどうだろう?

 きっと緊張している僕の顔も、真っ赤に染まっていると思うからさ。

超短編|晴れ

超短編|晴れ

 雨が降らない。もう何日も。いや、何ヶ月も。
 大人は農作物の心配をし、テレビでは節水の協力を呼びかけている。このまま晴れの日が続くと大変なことになるらしい。

 そんなニュースを横目に見ながら、僕は今日こそ学校の裏山に登って、しっかり探さないといけないと考えていた。事態は思っていた以上に深刻になってきた。この国の運命は、僕にかかっているのだ。

 急げ。たぶんあの裏山にまだあるはずだ。三ヶ月前に

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