トランプは本当に死んだのか【塾生解説記事 Part2】
こんにちは!!薮中塾6期生の小野耕平です!
薮中塾6期生としての活動も終盤に差し掛かってきましたが、最後まで全力で走り抜けたいと思います。
さて、今年も始まったばかりですが、皆さんの今年の一大ニュースは何でしょう。バイデン政権の誕生でしょうか、それともミャンマーでのクーデターでしょうか。
私の今年の一大ニュース
それは「米連邦議事堂襲撃事件」です。
1月6日、トランプ氏はホワイトハウス近くで大統領選挙の結果に異議を唱える集会である「Save America(アメリカを救え)」を開き、そこで70分にわたって演説をした後、参加者に対して議会に向かって行進するよう強く呼びかけました。
そのトランプ氏の呼びかけに呼応するように、集会参加者などが連邦議会に襲撃を行い、警察官を含めた5人の犠牲者を出した事件が「米連邦議事堂襲撃事件」です。
米連邦議事堂襲撃事件(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/010900013/?SS=imgview&FD=-787263934)
自由と民主主義を重んじるアメリカにおいて、このような凄惨な事件が起きたことに多くの人々が驚いたことでしょう。
その余波は現在も続いており、2月上旬からこの「米連邦議事堂襲撃事件」をめぐる、トランプ氏の責任を追求する弾劾裁判の審理が始まります。
今回は、大統領から退き、国内・国外からの政治的な風当たりも強まっているトランプ氏が、今後アメリカ政治界での影響力を無くすのか、それとも依然として政治界に影響力を残すのかについてお話ししたいと思います。
まだまだひよっこの大学生がアメリカ政治を語っているということを念頭において、温かい目で見てくれたら幸いです!(笑)
2回目の弾劾裁判のゆくえ
さて、トランプ氏は2月上旬から1月の「米連邦議事堂襲撃事件」をめぐって、弾劾裁判にかけられます。
しかし、トランプ氏が弾劾裁判にかけられるのはこれが初めてではありません。
トランプ政権も末期に差し掛かっていた2019年12月に、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、軍事支援を見返りにバイデン氏の疑惑調査を要求したとされる「権力濫用」と、議会からの調査協力要請拒否に基づく「議会妨害」に関して、トランプ氏は弾劾訴追されています。
結局、この弾劾裁判は議会上院が無罪評決を下し、トランプ氏の勝訴で幕を閉じましたが、そもそも弾劾訴追された前例が3人しかいなかったため、当時も世界中で大きな話題となりました。
では、今回の弾劾裁判は今後どう進んでいくのでしょうか。
結論からいうと、今回の弾劾裁判でトランプ氏を有罪にすることは前回と同様に難しいと予想されます。
理由はいくつか存在しますが、そもそも現在の上院の構造上、共和党員であるトランプ氏を有罪にすることはほぼ不可能です。
現在、アメリカ上院は民主党が50議席(民主党の会派に属する独立系議員2人を含む)、共和党が50議席と両党が同数で並んでいます。
上院の弾劾裁判でトランプ氏を有罪にし、その後に連邦政府の公職への立候補を防ぐ採決をするには、上院の出席議員の3分の2以上の賛成が必要であり、現状、共和党議員の17人以上が民主党議員50人に同調する投票をする必要があります。
(https://www.asahi.com/articles/photo/AS20191217004333.html?iref=pc_photo_gallery_3)
いくらトランプ氏が共和党員の中で異質な存在だったとしても、共和党議員が同胞を裏切るようなことをするとは考えにくく、1月26日の投票では、証拠を検討することについてさえ、賛成した共和党議員は5人しかいませんでした。
そもそも、多数の上院の共和党員は「憲法は、民間人を弾劾する権限を議会に与えていない」と考えており、大統領を退任した人を弾劾裁判にかけることはできないと主張しています。
この意見だけ聞くと、共和党議員の主張は真っ当なものに見えるかもしれません。
しかし、退任した大統領が弾劾裁判の対象になった前例はなくても、汚職疑惑のかかった閣僚を辞任後に弾劾裁判にかけた例が19世紀にあり、弾劾裁判は必ずしも公職引退者を裁けないわけではありません。
そのため、この主張を、共和党員がトランプ氏の振る舞いに対して判断を示すことを避けるための、都合のいい方便だと受け止める民主党議員も多いです。
共和党の「トランプ離れ」
では、今回の弾劾裁判はトランプ氏を有罪にすることが難しいという点からも、前回と同じような内容のものとなってしまうのでしょうか。
結論ですが、今回の弾劾裁判の結果は前回と同様になる可能性が高いですが、中身は全く違ったものになると予想されています。
どのように、中身が異なっているのでしょうか。
今回の弾劾裁判のキーパーソンは、共和党員のミッチ・マコネル上院院内総務であり、彼は今回の弾劾裁判で大きな影響力を持っています。
ミッチ・マコネル上院院内総務
(https://www.cnn.co.jp/usa/35162105.html)
極端に言うと、彼が上院内でトランプ氏を有罪にするような動きを見せたら、上院内の他の共和党議員もそれに追従し、彼が従来通りトランプ氏を無罪にしようと動いたら、他の共和党議員もトランプ氏を擁護する可能性が大いにあります。
では、そのマコネル氏は今回の弾劾裁判でトランプ氏を勝たせたいのでしょうか、それとも有罪にしたいのでしょうか。
意外なことに、マコネル氏はトランプ氏を無罪にする動きと、トランプ氏を有罪にする動きの両方を見せています。
マコネル氏は弾劾訴追の動きが始まった当初、トランプ氏を非難するような動きを見せており、トランプ氏を有罪にするような動きを示していました。
例えば、1月の「米連邦議事堂襲撃事件」直後、マコネル氏がトランプ氏について弾劾されて当然の罪を犯したと考えており、議会民主党による弾劾訴追に向けた動きを喜んでいると自分に近い人々に語ったことがニューヨークタイムズに報じられ、大きな話題となりました。
また、1月19日にマコネル氏は連邦議会議事堂乱入は「うその情報を与えられ」、「大統領にあおり立てられた」結果だと上院議場で言明し、議会乱入事件とトランプ大統領の関連性について言及していました。
このように、「米連邦議事堂襲撃事件」という行き過ぎた行動に関与したトランプ氏に対して、マコネル氏はいわゆる「トランプ離れ」の動きを見せており、トランプ氏を有罪にするような動きを示していました。
そもそも、マコネル氏はトランプ氏が大統領選で負けた時期から、「トランプ離れ」を起こしていたと考える人も多いと思います。
その意見は、マコネル氏がそれまでバイデン氏の勝利を認めず、トランプ氏の裁判闘争について支持する立場を取っていたにもかかわらず、12月15日に米議会の演説で、バイデン氏の大統領選勝利を認めたことからも一理あると思います。
マコネル氏がトランプ氏を有罪にするような動きを見せる背景には、共和党員全体の「トランプ離れ」があります。
(https://jp.wsj.com/articles/SB12389501321203413476904583150321202463146)
トランプ氏による「不正選挙」の主張に同調し、上下両院合同会議で選挙結果に異議を申し立てると表明した共和党の上院議員13人と下院議員百数十人が、「米連邦議事堂襲撃事件」を受けて異議の取り下げを行っていることも、共和党員全体の「トランプ離れ」の象徴であると考えられます。
このように、弾劾訴追の動きが始まった当初は、トランプ氏を有罪にするような動きもありましたが、先に述べたように、現在弾劾裁判でトランプ氏を有罪にすることは難しい状況です。
一部の共和党議員がトランプ氏を有罪にするような動きを見せても、まだ共和党内に依然としてトランプ氏の考えを支持する派閥が存在しているため、多くの上院内の共和党議員がトランプ氏の無罪に向けて動いているのが実情です。
また、そのような上院内の共和党議員の動きを背景に、弾劾訴追の動きが始まった当初、トランプ氏を有罪にするような動きを見せていたマコネル氏も、トランプ氏を無罪にする動きを取らざるを得なくなっています。
つまり、トランプ氏を有罪にするような動きを見せている共和党議員も、トランプ氏やトランプ氏を支持する共和党議員を配慮して、トランプ氏を無罪にする動きを取らざるを得なくなっているのが現状だといえます。
共和党の分裂か二大政党制の弱体化か
では、本題に戻りましょう。
大統領から退き、国内・国外からの政治的な風当たりも強まっているトランプ氏は、今後アメリカ政治界での影響力を無くすのでしょうか、それとも依然として政治界に影響力を残すのでしょうか。
それを考えるために、現在のトランプ氏の動きを見る必要があります。
現在、トランプ氏は「愛国者党」といわれる新党の立ち上げに向かって動いています。
なぜ新党立ち上げを目論んでいるのでしょうか。
先に述べたように、「米連邦議事堂襲撃事件」も相まって共和党内でのトランプ離れは急速に進んでいると見られます。
そのように、トランプ氏に対して反旗を翻し、共和党内が一枚岩にならないのであれば、新たに党を立ち上げて、そこから次回の大統領選に出馬しようという考えがトランプ氏にはあるようです。
また、新党発足は、リズ・チェイニー下院議員などトランプ氏弾劾決議案に賛成票を投じた共和党議員に、次回の選挙で対抗するためでもあると見られています。
しかし、トランプ氏が新党を立ち上げる最も大きな理由は、共和党に新党立ち上げをちらつかせ、共和党内のトランプ離れを牽制することであると考えられています。
実際に、トランプ氏が新党立ち上げを共和党に意識させたこともあり、共和党の「トランプ氏有罪」の機運は次第にしぼみ、弾劾裁判打ち切りを求める決議案には、50人いる共和党上院議員の45人が賛成しています。
その中には、トランプ離れが進んでいたとみられるマコネル氏も含まれており、共和党内でトランプ離れの動きが停滞していることが分かります。
また、トランプ氏は新党発足をちらつかせることによって、共和党内のトランプ離れを牽制しているだけでなく、共和党内での影響力を堅持しようともしてます。
トランプ氏は1月28日、共和党下院トップのマッカーシー院内総務と会談を行い、2022年の中間選挙での共和党勝利に向け協力することで一致し、共和党内での影響力を外に向かってアピールしました。
トランプ前米大統領(左)と共和党下院トップのマッカーシー院内総務(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012900427&g=int)
これらのことからも、共和党内でトランプ氏は今後も影響力を持ち続けていく可能性が高いと見られています。
では、なぜ共和党はトランプ氏が新党を発足させたら困るのでしょうか。
「米連邦議事堂襲撃事件」という惨事を扇動したという見方もあり、国内外から批判にさらされ、共和党内からも距離を置かれているトランプ氏が自ら党を去るのであれば願ってもないことだと思う人もいるでしょう。
共和党はトランプ氏が新党を発足させたら困る理由として、トランプ氏の確固たる支持率が挙げられます。
トランプ氏は大統領就任時最後の世論調査で、「米連邦議事堂襲撃事件」に関与したこともあり、支持率は29%に急落してしまいました。
しかし、共和党支持層の中では「米連邦議事堂襲撃事件」が起こった後でも、支持率60%を維持しており、そのうちの57%は「トランプ氏は今後も長く政治の主役であり続けるべきだ」と回答しています。
ここまで共和党支持者の支持を集めるトランプ氏が、もし新党を発足して次回の大統領選挙に出馬したらどうなるだろうか。
共和党が取るはずだった票を根こそぎ持っていき、共和党の大統領選勝利を大きく脅かす存在になる可能性が高いです。
そうなってしまえば、下院・上院両方で共和党の影響力はどんどん衰えていき、二大政党制が弱体化する可能性さえあります。
民主党・共和党以外の第三政党(無所属も含め)が大統領選挙を脅かした例は過去にも存在します。
それは1992年の大統領選で起きました。
共和党で第41代大統領のジョージ・H・W・ブッシュ(パパブッシュ)は再選を目指しましたが、保守派の候補であった無所属の実業家ロス・ペローが全体の約5分の1を占める得票数19%を獲得してしまい、共和党票が分散したことにより、再選を逃す原因となりました。
ロス・ペロー氏(https://www.afpbb.com/articles/-/3234452)
この苦い経験がある共和党は、共和党が取るはずだった票を根こそぎ持っていき、共和党の大統領選勝利を大きく脅かす存在になる可能性が高いトランプ氏が、第三政党で出馬することを何とかして食い止めようとしているのです。
しかし、先に見てきた通り、このままトランプ氏が共和党内での影響力を堅持し続けると、共和党内のトランプ離れはより加速していくでしょう。
つまり、現在トランプ離れを進める共和党は、弾劾裁判などでトランプを封じ込めると二大政党制の弱体化を招き、現状のようにトランプ擁護を続けると党内の分裂が加速するというジレンマに陥っているのです。
したがって、大統領から退き、国内・国外からの政治的な風当たりも強まっているトランプ氏ですが、新党発足をちらつかせることによって今後も共和党内で影響力を持ち続けていく可能性が高く、ひいてはアメリカ政治にまだ影響力を持ち続けるでしょう。
アメリカ政治に大きく左右される日本も、今後トランプ氏によって共和党が分裂していくのか、二大政党制が弱体化していくのか注視する必要があります。
【公開イベント概要】
薮中塾グローバル寺子屋6期公開イベント『米中関係の行方と日本の外交政策』
●日にち:2021年2月28日(日)
●主催:薮中塾グローバル寺子屋
●時間:13:00開演 18:00終演
●対象:どなたでもご参加いただけます。(一般、大学生、大学院生、高校生、中学生)
●参加費:無料
●場所:オンライン(Zoom)
参加登録をしていただいた皆様には、イベント前日までにZoom参加用URLをメールにてお知らせいたします。
●お申込み:参加フォームより事前登録をお願いしております。
詳細についてはこちら:
お申し込みはこちら:
【参考文献】
・BBC NEWS JAPAN「トランプ氏の発言が暴力を扇動したのか? 米議会襲撃」
・YAHOO!JAPAN ニュース「米議事堂占拠…警官1人死亡 死者5人に」
・Bloomberg「米下院本会議、トランプ氏の弾劾決議案を可決-上院で弾劾裁判へ」
・BBC NEWS JAPAN「【弾劾裁判】 トランプ氏に無罪評決 罷免を回避」
・BBC NEWS JAPAN「トランプ氏の有罪評決、なぜ難しくなったのか 米弾劾裁判」
・JETRO「米第117議会が招集、民主党が僅差ながらも上下両院で多数派に」
Bloomberg「米共和マコネル氏、トランプ氏弾劾訴追歓迎とNYT紙-有罪に賛成か」
・Bloomberg「米議事堂乱入はトランプ大統領が「あおり立てた」-共和党マコネル氏」
・朝日新聞 DIGITAL「マコネル氏がバイデン氏勝利を認める 共和党上院トップ」
・産経新聞「トランプ氏支持者扇動 共和党に離反の動き」
・mashup NY「トランプ前大統領 「パトリオット党」結成する?」
・日本経済新聞「弾劾「合憲」5人どまり 共和、トランプ氏なお影響力」
・JIJI.COM「トランプ氏、共和に協力約束 「新党」で脅し、一転和解」
・JIJI.COM「トランプ大統領の支持率29% 就任後初めて3割切る―米世論調査」
・自治体国際化協会「1992年米国大統領選挙等の概要(1)」
・日本経済新聞「党分裂は共倒れリスク 共和内で「トランプ新党」観測」
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