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5-13 人事評価とはフィードバック ①人事評価の目的

ソフトウェアと経営マガジン第67回です。今回から数回、人事評価制度の設計について考えていきます。正直答えがなく、自分も納得行くものになったと自身を持てたことはほぼ無いかもしれないのですが、その前提で人事評価で何を求めていくのか今回は書いてみようと思います。

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前回記事

人事評価とはフィードバック

人事評価は、従業員の業務遂行能力や行動態度を評価することで、従業員の成長や向上を促すことを目的とした評価システムである。マネジメント活動の中でも特に負荷が高いとされる活動である。組織が成熟するほどに人事評価のシステム化で悩むことが増えるのではないだろうか。本章では、人事評価の目的や手法、注意すべきバイアスや1on1の重要性などを解説していく。

難しい人事評価

一般的に人事評価の目的は、従業員の働きや貢献度を評価し、報酬や昇進の決定に役立てることだと言われる。四半期などの単位で何らかの基準を置き、期間の終わりにて達成度合いを評価することで達成度合い自体について客観的な事実を作ろうとする。

また、評価を通じて従業員のモチベーション向上や自己成長を促し、組織全体のパフォーマンスを高めることも重要な目的だと言われる。特に、目標設定とインセンティブが紐付いている場合、評価を受けるメンバーにとっては目指す先がそのまま自身のメリットともなるため動き方をはっきりとさせやすい。さらに適切な難易度の目標を課すことで成長させる事が可能だと言われている。

ここであえて「言われている」という風に書いたのには理由がある。私自身の経験や周りの経営者、マネージャと議論をしていても、誰一人として評価・報酬指標と成長という目的に対して完璧な人事評価システムを構築できたという意見を聞いたことがないからだ。上手く言っている、という声を聞くこともたまにはあるが、成長している組織では1~2年も経つとその仕組自体が陳腐化を迎えたり、状況変化によって平等性や報酬の納得感を得られなくなるということもしばしばだ。未来は不確実なものであるため、制度というのはある時点での姿を元に整備するものにしかならない。

変化し続ける組織においては、評価制度は度々「仕方なくやっている儀式」と化す。事業への貢献の仕方、そしてその指標は事業フェーズによっても変わってくるものだし、探索的な取り組みが評価される時期や取り組み精度が求められる場面など様々だ。特にソフトウェア開発など取り組みの不確実性が高い物事ほど難しいものとなる。

人事評価の目的: 方向性を揃える、成長を促しAgilityを高める

そのため、私自身は人事評価システムの最大の目的を、組織の方向性と個人の方構成を揃え、結果として組織のAgilityを高めることに置くという考え方を取るようになった。その中で個々人の成長機会を創出する。

繰り返しになるが、Agilityの高い状態とは、迷ったらどちらに進むか組織全体で揃っており、自律的に意思決定できる状態を指す。このような組織では、メンバー一人ひとりが自分の意見やアイデアを自由に発表でき、積極的に新しい取り組みを行うことができる。それが結果として様々な新たな発見に繋がり、事業全体が拡大していくことになる。

適切な目標設定は一人ひとりのAgilityを高める要素だ。目標が明確で、従業員が自分の役割や意思決定の基準を理解し、さらにはその目標の全社における位置づけを理解しやすい状況であれば、その達成に向けて自主的に行動できるからだ。この結果、組織全体の柔軟性やスピードが向上し、変化に対応する能力が高まる。

その方向付けの中で一人ひとりの成長を創り出していく。人は自分の限界を一定の枠内で定めがちだが、人事評価を通じてその枠を広げ、成長を促すことが可能だ。評価者がメンバー一人ひとりの能力や達成可能な目標に対する理解を深め、適切なフィードバックやサポートを提供することで、従業員の限界意識を拡大し、新たな成長を促すことができる。

全体が同じ方向を向ける適切な目標設定と評価を行うことでAgilityは最大化され、従業員のモチベーション向上や自己成長が促される。結果として、組織全体のパフォーマンスも向上し、競争力を維持・強化することが可能となる。

特にソフトウェアプロダクトの関わる事業領域では、当初立てた事業目標自体が間違っているなどということもしばしば起こる。だからこそ、Agilityを最優先に置く人事評価制度にすることが大切だと考えている。

まずは「Agility」を前提とし、その前提があった上で「メンバーのモチベーション向上や自己成長」に向き合う。この順序で人事評価に向きあうという前提を元に以下では人事評価制度に対する向き合い方について考えていきたい。

手法よりも被評価者の理解と納得感:対話に勝るものはない

人事評価の手法は多岐にわたる。そしてその細かな改善案も多々様々な書籍で紹介されている。が、Agilityの側面から考えた時、手法よりも重視されるべきことが被評価者の納得感を得ることだ。そして納得感を醸成する上で重要なのが、目標設定を、方向性を伝える対話の手段として捉えることである。納得感があるということとはすなわち、目標の裏側にある事業の背景や事業への貢献、そして難易度や実現方法についての理解が出来ており、目標に向けて進むことへの意欲を生み出せる素地が整っているということになる。また、結果として評価結果に対する受容度も高まり、自己に対する改善や成長に繋がりやすくなる。

例えば、設定された目標が「担当するサービスの新規ユーザー獲得効率を20%改善すること」だとしよう。単にこの目標だけを伝えられるだけでは、その目標自体がどれほど難しいのか、事業にとってどのように重要なのか分からない。その背景を考えてみよう。現状のLTV、つまりユーザーが利用開始してから利用をやめるまでに生み出す売上の中で継続性ある事業を作るために獲得効率と売上効率の双方の改善が必要で、それが改善されれば次の資金調達やマーケティングの拡大へステップを進める事ができる。獲得効率20%改善とはそこに資するものだと伝えられれば、自身の改善が事業上何に貢献しているか、なぜその目標なのかの納得感できる。

更には、目標が度々変わることがある。どうしても売上効率の改善幅が現実的でないと見えてくれば獲得効率の側で目標が上がってしまうこともあるかもしれない。全体像が見えており納得できていれば、その変化に対しても素早く追従し貢献することも可能だろう。

背景等必要な情報も添えて方向を揃え、その達成度合いに共通認識を作るのが人事評価制度というツールの重要な役割だ。方向性や進捗の共通理解がなければ、どんな人事評価も響かないものになる。そして目標に対する納得感は四半期や半期といったタイミングで儀式的に行うだけでは作られない。また、目標に対する貢献度や達成度も、そのような疎なコミュニケーションで納得することは難しい。こまめな対話を通じた納得感に勝る目標設定と評価の仕組みはないと言える。人事評価制度というツールを通じて日々細かな対話を繰り返すことが求められる。

この前提のもと、人事評価制度は仕組みを作って終わりにしないことが求められる。制度の実際の運用、特にコミュニケーションの側面に注目し、評価者と被評価者が定期的に対話を行い、互いの意見や状況を理解し合うことで、評価制度がより効果的に機能する。また対話にとって良いツールとならないのであれば、現状に即したより良い制度へアップデートしていくことも必要だ。

細かな対話の具体を考えたい。今自分の組織が運用している制度は、マネージャーとメンバーの定期的な1on1やチームミーティングを通じて活用するイメージを持てているだろうか。特に1on1において、目標に対する背景などの不明瞭な点を明らかにし、その達成に向けた進捗や課題を共有し、適切なフィードバックやサポートを提供する上で制度は有効に機能しているだろうか。また、チームや組織全体で情報共有を促進し、全員が目標や評価基準に対する共通認識を持つ手助けとなっているだろうか。一人ひとりが目標に対して同じような認識を持てている状態とはすなわち向かう方向性を合意していることになり、Agility高い事業推進に向けた土壌が出来てきているということになる。対話のツールとしての人事制度であるということを意識していきたい。

ここまでをまとめると、人事評価制度においては評価手法の選択や評価制度の設計よりも、実際の運用において日々の対話を促進するツールである側面を認識し、方向性や進捗の共通理解を作ることが重要だ。こうした対話がマネージャーとメンバーの間での納得感を高める鍵となる。組織全体でこの認識を共有し、柔軟で効果的な評価制度を構築することが、従業員の成長や組織の発展に繋がる。

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