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ソーシャルワーカー

カウンセラーとの違い

 自己紹介にも書いていますが僕は「精神保健福祉士」という資格を所持しています。英名はPsychiatric Social Worker(PSW)で、つまりは”精神障害領域で働くソーシャルワーカー”ということです。

 PSWをやっているとよく「カウンセラーなの?」という質問を受けます。確かにカウンセリング的なことを行うこともある、というか面談をしていると結果的にカウンセリング的になったということはありますがカウンセラーではありません。
 
 ではどこが違うのかというと、例えば支援が必要な当事者(以下、当事者)が海の中に放り出されて藻掻いているとして、
 カウンセラー(精神科領域においては心理士ということになるでしょう)は一緒に海の底深くまで、その苦しみの原因を見つけに潜っていくと言われ、
 対してソーシャルワーカーは対象者に浮き輪を投げ込み、とりあえず息ができるようにする、と比喩されたります。

 カウンセラーのところで述べた「苦しみの原因」というのは認知の歪みであったり、過去のトラウマ体験であったりします。それらが現在の当事者の苦しみを生み出しているので、その原因にアプローチして「当事者自身の変化を促す」というのがカウンセリングや心理療法だったりしますが、この「当事者自身の変化を促す」というのは医療職に見られる特徴です。
 医師や看護師は病気の症状を根治または緩和させるため、PTやOTは心身機能や作業能力を回復または向上させるため、といった具合です。

 このように医療職が当事者に集中して介入するのに対して、ソーシャルワーカーのような福祉職は当事者自身に対して介入するのと同時に当事者を取り巻く環境にも働きかけるという特徴を持っています。
 そして当事者と環境がお互いに作用し合う「相互作用」がよりベターな感じになるように、『最適』になるように調整するのが仕事になります。
 上述の「浮き輪を投げ込む」「とりあえず息ができるようにする」という比喩は「疾患や障害を持っていても(治癒しなくても)社会の中でベターに生きていけるように支援する」という意味です。

ケースワーカーとソーシャルワーカー

 ソーシャルワーカーとよく似た仕事にケースワーカーというものがあります。よく生活保護の担当課の人たちのことをケースワーカーと呼びますが、それ以外にも医療現場でもよく混同して使われています。僕も精神病院に勤めていた頃はドクターから「ケースワーカー」と呼ばれていました。

 これら2つの呼称の差には厳密な定義はありませんが、僕は使い分けています。
 まずケースワークとは「ケース」=個別案件についてワークすることなので、例えば担当患者の退院支援を行うことなどがケースワークだと考えます。
 次にソーシャルワークとは「ソーシャル」=社会に対してワークすることで、ケースワークより俯瞰した視点の仕事だと考えます。例えば、必要だと思う制度やサービスの法制化を嘆願したりロビー活動をしたり、ソーシャルワーカーと資本主義のコラボレーションを推進するために上場企業に入り込み出世していったり等です。

 そしてソーシャルワーカーはソーシャルワークもケースワークも行うといったイメージです。(ケースワーカーはケースワークだけ行い、ソーシャルワークは行わない)

コンサルタントとの違い

 コンサルタントとは思いっきりざっくりいうと「クライアントの課題を見つけて解決策を提案する職業」だと思います。そういった意味ではソーシャルワーカーも当事者の課題を見つけて解決策を考えるので似ているところはあると思います。
 ただ違いはたくさんあると思います。
 まず対象としているクライアントと当事者が違います。コンサルタントが対象とするのはビジネスパートナーですが、ソーシャルワーカーが支援する当事者の多くは社会的弱者です。
 そうすると課題の種類も異なってきます。コンサルタントが相手にする課題はビジネスや経営の課題が多いでしょう。対してソーシャルワーカーの場合は大体が社会的課題が相手です。
 当然に課題解決に用いる手段も違ってきます。コンサルタントはビジネスフレームワークを武器に課題に挑みますが、ソーシャルワーカーは制度や社会資源を使います。
 あとソーシャルワーカーは当事者と伴走します。よく一緒にお出かけするのが特徴だと思います。

マネジメント職としての適性

 僕はソーシャルワーカーはマネジャーに向いていると思っています。
 もちろん、ソーシャルワーカーにも色んな人がいるので(変わった人が多いです)全員が全員ではないですが。基本特性として向いていると思います。
 理由をいくつか挙げます。

1.面談が得意
 ソーシャルワークの基本単位は1on1の面談です。ソーシャルワーカーは相談職なので面談をたくさん経験します。自然と面談技術が向上します。面談を通してたくさんの情報を仕入れることが出来るようになり、また面談相手と信頼関係を構築していくことが上手になります。

2.相互作用に目を向ける
 
上述したようにソーシャルワーカーは当事者だけでなく、取り巻く環境にも目を向けます。何か問題が起きたときにその渦中にある本人のみに原因を帰属しません。広く物事を見るように訓練されています。本人と環境の関係性の中で問題や課題を捉え、よりメタな視点から介入することが出来ます。「こいつだけ」に介入せず、「あっちもこっちも」調整してベターにするのです。

3.社会資源を用いる
 ソーシャルワーカーは、実は、単体では何も出来ない場合が極めて多いです。疾患を診断して必要な薬を処方出来ないし、リハビリも出来ないし、心理療法も出来ません。
 しかしそういったそういったリソースに効果的に繋げることが出来ます。
 マネジメントも同じです。
 マネジャー単体では実は何も出来ないのです。しかし、メンバーなどのリソースのポテンシャルを発揮して、繋げていくことで、大きな大きな力を生み出すのです。
 最大の強みは「自分一人では何も出来ない」とちゃんと知っていることです。

4.伴走する
 上にも書きましたがソーシャルワーカーの支援技法の特徴に「伴走」というものがあります。読んで字の如し「伴に走る」のです。
 高いところから指示するのではなく、手を引いて先に進めるのではなく、当事者の隣に居て一緒に進むのです。
 これはマネジャーがメンバーに接する態度と同じものだと言えます。

 最後に

 ちなみにコンサルタントとソーシャルワーカーは課題を解決するところが似ているところがあると上に書きましたが、僕はあまり課題解決型の人はマネジャーに向いてないと思います。
 課題解決型の人は「出来てないところ」を見つけるのが得意だから、マネジメントで最も重要な「良いところ」を見つけることと抵触することが多いのです。
 考えてみればそうですよね。
 課題解決型の人は普段から「どこが悪いのか?」「どこに課題が潜んでいるのか?」という思考を訓練しているのですから、マネジャーのように「どこが強みか?」「強みを伸ばすためにはどうしたらいいか?」の思考パターンに切り替えるのは中々簡単にはいきません。
 それにコンサルタントの人はその人単体で優れた思考力やプレゼン能力を持っているスーパービジネスパーソンの方が多いと思います。ファームで働く友人も言ってましたが「ユニットはあるけど、基本的には個人事業」です。
 比べてマネジャーは単体ではあまり何も出来ません。だから出来るようにチームを創っていきます。チームが作れないマネジャーはマネジャーにはなれません。逆にいえばチームを創っていくための関係構築能力に関してはマネジャーは高いと言えます。
 言うまでもありませんが、どっちがいいor悪いや、優れているor劣っているという話ではありません。

 話がズレましたが、とにかく僕はソーシャルワーカーはマネジャーに向いているので興味がある人はマネジャーを目指してみればいいと思います。
 もしマネジャーになってみてあまりうまくいかなかったら、実はソーシャルワーカーとしてもあまりうまくないソーシャルワーク・ケースワークをやっていたのかもしれないという内省にも繋がりますし、ソーシャルワークを極めていくと考える人は、ステップアップのために志向するのをお勧めします。

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