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似て非なる健康

うおおおおお御嶽海優勝〜!!


……と、この話ではなく、、、

読書感想の続きです!

前回(↑)はこの本に収められたエッセイ「健康のしるべ」の話の途中でした。復習もかねて、本文を少し引用してみましょう。

あんまりきちんとしすぎていて、定期的に特別の絶食をするという人がいるけれど、あれは良くない。なぜかと言えば、定期的であるからには体の今の状態がどうかということは無視するわけで、だから我々の体の自然がそれを要求してもいないのに食べるものに制限を課し、体が自分の望むような生活習慣をつけようと求めているまさにその時に、食事を取り上げる必要なんかない。
P151

こういうところが僕が素晴らしいと思うところです。

プルタルコスはエッセイの中で、こういう時はこうするといい、こうならないためにこれは止めておけ、といった健康への具体的なアドバイスを豊富に盛り込みつつも、そもそも身体の状態や周囲の環境は移り変わっていくものなので、これをやっておけばいつでも健康でいられるとか、これさえ食べていれば大丈夫とか、そういうことはないんだと釘をさしています。
ここには、健康を求める人への安易さをいましめるメッセージとともに、人間の能力を過信せず、力の及ぶ範囲で出来ることを見極めようとするプルタルコスの態度が見て取れます。


またこういった態度こそ、今の世の中で流行っているさまざまな健康法と違うところです。
健康は古代ローマでも現代日本でも同様に人々の関心ごとですが、たとえば健康について日本で近年よく聞かれるのは、糖質制限、高カカオチョコレートやワインに含まれるポリフェノール、プチ断食、デーツなどのスーパーフード、などなど、まだまだたくさんありますが、多くは「〜〜が健康に良い」と言われることに特徴があります。……まさにプルタルコスが危惧していた言いかたです。

健康観と呼べるような大局的な視野が抜け落ちて、これは健康、あれは不健康、といった個々のジャッジだけがある。そんな世界になってきている気がします。
何が問題かといえば、それだと一つの正しさだけでは解決できない「健康」といった問題の複雑さが見えにくくなってしまいますし、局所的な正しさをどんな場面にも当てはめようとして、人との間で対話より軋轢が生じやすくなってしまうのではないでしょうか。
そしてそんな世界の背景にはやはり、人間の能力への過度な信頼、がある気がしてなりません。
人間の能力を信じない、というとなんだか暗い考えのように思われがちですが、プルタルコスのように、人間の限界を冷静に見極めることで、かえって問題の全容や、賢明な対処の仕方を導き出せるのだとすれば、今を生きる私たちにとってもそれは大きな希望になると思います。

……古典を読んで気が大きくなったのか、そんなことも考えました。

さて、三分割して長々とやってきただけあって、現時点での感想はこれでだいたい語ることができました。延長につぐ延長…。お付き合いいただき、ありがとうございます!

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