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ドキュメンタリー映画『世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅』2011年、アメリカ


このドキュメンタリー映画の主人公ゲルハルト・シュタイデルは、17才でデザイナー・出版社としてのキャリアをスタート。父親は印刷機械の掃除係だったということで、伝統を引き継いだわけではない。28才のとき、自分の力で出版社を立ち上げた人。

公式サイトのシュタイデルの紹介はこんな感じ。1968年、シュタイデルはアンディ・ウォーホルの強烈な色使いに魅了され、その高い印刷技術に感動する。同年、地元のゲッティンゲンでシュタイデル社と印刷所を創設。芸術家のヨーゼフ・ボイス、クラウス・シュテークの版画やポスター制作を経て、1972年に初のアートブック『Befragung der Documenta』を手掛ける。

その後、政治関連の文書の制作や、文学・アート・写真の作品集も増やしていく。 1996年以降、シュタイデル社はドイツ国外に向けて写真集の出版に特に力をいれる。書籍の編集からディレクション、レイアウト、印刷、製本、出版までを自社で行う「総合的」なアプローチは他社では見られないそうだ。

文学作品では作家のギュンター・グラス、ハルドル・ラクスネス作品などのノーベル賞受賞作ほか、社会思想家オスカー・ネークトの著作など、英語とドイツ語の作品に力を入れている。 シュタイデル社の近年のクライアントは、一流の写真家や主要な美術館とのこと。

映画を見る前は職人的な場面が多いのかと想像したけれど、実際見たら全然違った。シュタイデルは世界中を飛び回り、一日に何人ものクライアントと打ち合わせをして、紙質を決めて印刷見本を吟味する。手直しの連続。移動の連続。飛行機の中でも仕事してるし、飛行機の中がオフィスみたい。

有名写真家の作品集やシャネルのカタログみたいな芸術関係の本ばかりかとおもいきや、どこかの労組の組合史みたいなのも出版していたりと、印刷に詳しくなくても見ているだけで面白いドキュメンタリー映画だった。シュタイデル社は45人程の出版社だけれど、1年に2百冊以上の本を出すとか。しかも申し込んでも2年待ちらしい。

フランスで学術書を出している人の話だと、フランスではちゃんとした本は500部売れればいいのだとか。英語とはまた別のヨーロッパならではの事情がドイツにもあって、言葉の壁のないアート系を中心に海外展開しているのだろうなと思って映画を見ていた。

この作品の感想を書いている印刷関係の人のblogでは、「こういうドキュメンタリーでは、専門用語の翻訳が間違っていることがよくあるけれど、この映画の字幕は印刷博物館の学芸員のかたが担当していた」と驚いていた。当然ながら、この映画はシュタイデル社の作品の一部。

映画の途中、有名な写真家がアイフォンで撮影した写真の作品集を相談している場面があった。デジタル化の波が押し寄せてきて、この映画を撮影した後の出版業界がどんな風に変わって、シュタイデル社がどんな仕事をしているのか。できればドキュメンタリー映画の続編も見てみたい。

邦題:世界一美しい本を作る男(原題:How to make a book with Steidl )
監督: ゲレオン・ヴェツェル、 ヨルグ・アドルフ
制作: アメリカ(2011年)90分



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