見出し画像

理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい。『100才の台湾人革命家、史明自伝』


クーリエ・ジャポンの一部公開の記事を見て、即購入しました。ものすごくおもしろい、波乱万丈な台湾人の評伝です。 

ちょうど、そのとき調べていたアモイに関する証言もあったので、本で読めば、もっと詳しくわかるかと思ったのですが、それ以外の部分もおもしろいのなんの。ページをめくり始めたら、とまらない状態。ただ、肝心の私の知りたい部分は本文からの抜粋ではなく、特別インタビューの部分だったんですね。やられた…!

急いで購入した甲斐がなかったのはとっても残念ですが、それでも一気に読ませるおもしろさに満足しています。ヒトの記憶は常にリライトされるものだし、お年寄りの自慢話ならなおさらその可能性はある。きっと、あちこち盛っている部分があるはず。そう思って読んでも、やっぱりおもしろいです。

史明は、1918年の大正生まれ。台湾の地主のおぼっちゃんとして育ち、日本に留学して当時の文化人に可愛がられる。その後、共産主義にかぶれて中国にわたって日本軍をスパイし、根拠地を目指して中国共産党の実際に失望し、台湾に逃げる。そして、台湾では蒋経国暗殺未遂で手配されて日本に亡命。その後は日本で台湾独立運動を続ける……なんか、書いてるだけでため息がでます。

台湾出身のこの時代の人は、例えば邱永漢『濁水渓』なんかもちょっと似たような感じ。いいところのお坊ちゃんが日本に留学して、中国革命に憧れて……台湾に戻って苦労する話。彼は中国大陸には行かなかったけど、いろいろ迷って結局やめて台湾に戻ったり、香港へ渡ったり。

ふと思ったのですが、中華圏で何かことをなせる人って、結構な割合で子供がいないです。彼もそんな感じなのかなあと。家族のためとか、子供のためとか思ったら、もう革命になんて人生捧げられないはずだし。

表紙がちょっと地味なので、御本人の若い頃の写真にしたらよかったのに…と思わないけれど。売上的に。歴史好き、台湾好きに、この本が多くの人に読まれるといいなと思う、そんな本でした。2019年に百才で亡くなられました。長年のご活躍に経緯を評し、ご冥福をお祈りいたします。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?