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図書館のあり方を考える。映画『パブリック 公共図書館の奇跡』2018年・アメリカ


舞台は寒波に見舞われるアメリカのシンシナティ。
公共図書館には、いつも開館と同時にホームレスの人たちが洗面所を使いにやってきて、歯を磨いたり、顔を洗ったりする。でも、今回はホームレスを収容するシェルターが満杯で、凍死者も出ているということで、ホームレスたちも切羽詰まる。夕方の閉館時間になっても出ていかず、図書館の3階に立てこもる。

行きがかり上、彼らのまとめ役になってしまった主人公スチュアートも、もとはホームレスだし犯罪歴もある。彼は、図書館で本を読んで立ち直った人なので、ホームレスに対しても面倒見がいい。そして、彼を支える図書館長や同僚、保安員たちの人間ドラマも素敵。ホームレスを追い出そうとする警察、次期市長に立候補しようとしている検察トップ。彼らも彼らなりの事情を抱えている。

第三者としてやってきたマスコミが、スチュワートに罪をなすりつけて、監禁事件としてフェイクニュースをでっち上げよう、売名行為を図ろうとしたときに、スチュワートが言うセリフがある。
それはスタインベックの『怒りの葡萄』の一節。日本人の私でも、名前とあらすじだけは教科書に出てきて知っているこの世界的な名作は、アメリカならティーンエージャーがみな知っている本らしい。

彼が読み上げた文章にとまどうキャスターに向かって、図書館員がこう言い放つ。「アメリカのティーンエージャーならみんなこの物語を知っているわ。これを知らないようじゃ、お天気キャスターだってできないわね」と。恥ずかしそうな顔をして反省するキャスター。そして、警察の交渉人も検察トップも『怒りの葡萄』は知っている。彼らはスチュワートの言いたいことを理解する。

『怒りの葡萄』は1939年に出版されてベストセラーになったものの、「共産主義的」と批判され、一時は図書館から撤去される動きもあった。けれど、それに反対する形で図書館の自由と利用者の保護をうたう「図書館の権利宣言」が生まれた逸話があるのだそうな。

ティーンエージャーの薬物汚染。退役軍人たちの貧困問題。図書館を訪れる人々が、必ずしも世間一般的ではなくて、精神的に病んでいたり、痴呆が始まっていたりする老人などなど。そういう人たち全てをひっくるめて守ろうとするスチュワートと彼を支援する館長の姿勢が素敵。

邦題: パブリック 図書館の奇跡(原題:THE PUBLIC)
監督: エミリオ・エステベス
映画脚本: エミリオ・エステベス
製作: アメリカ(2019年)119分

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