見出し画像

『ブータン仏教から見た日本仏教』今枝由郎


ブータンに興味をもったのは、『アザー・ファイナル』という映画がとてもおもしろかったからです。ワールドカップ出場の常連だったオランダが、予選で負けて出場できなかったとき、「負けるってなんだろう?」と考えた監督。そして、FIFA最下位(2002年当時)のブータンとモントセラトの最下位決定戦を企画して映画にしました。とにかくアイデアが秀逸だし、内容もよかったです。

映画での試合結果もさることながら、ドキュメンタリーに登場するブータンの政治家たちが、私が日本で見たことないほど豊かな言葉でメッセージを紡いでいたのがとても印象的でした。なので、本屋で偶然この本を見た時、映画のブータンがよみがえって、思わず購入してしまったというわけです。

著者の今枝先生は、チベット仏教の学者さんです。もともとお寺の息子でもない「普通の高校生」でしたが、お経に疑問をもち、知的好奇心からインドの言葉をかじって、仏教系の大学に進んでフランス留学し、ブータンで10年も暮らしてみる。上司は浮世離れした、すばらしい仏教僧侶で、何物にも代えがたいエピソードの数々。知的好奇心をそそられる1冊です。

20年くらい前の本ですが、ブータンやブータンの仏教、フランスの仏教研究について知りたい人に入門編としておすすめのだと思います。この本が書かれた頃のブータンと、海外からの投資や外国人旅行者をたくさん受け入れるようになった今のブータンはかなり違うようなので、比較の意味でも貴重かもしれません。

そういう意味では、後半の日本に関する記述がちょっと平板になるのは残念。今枝先生がフランス在住で、日本には時々しか帰らず、長年フランス語で論文を発表してきた人だからかなと思います。

ともあれ、「日本で仏教を選ぶことは、どの宗派を選ぶかということになってしまい、道元や法然や親鸞、空海の言葉は知っていても、ブッダの言葉を知らない人が多い」と今枝先生がいうのには、なんとなく納得感があります。

最近は、東南アジアの仏教とか、ダライ・ラマの影響でチベット仏教に興味を持つとか、いろんな選択肢がありますけど、ラジオ講座でも本でも、「仏教」といいつつ、実は○○宗のお坊さんの本って結構多いですし。日本の仏教は「宗派仏教」というらしく、仏教全体の話とか、そもそもブッダのお話にはなりにくいとのこと。

できるなら、今枝先生がフランス国立科学研究センターで研究されている内容とか、フランスの仏教研究事情を一般読者向けに紹介してくれるような文だったら、めちゃくちゃ楽しかった気がします。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?