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傷ついたからこそ、美しく輝く。台湾ドラマ『茶金 ゴールドリーフ』2021年


出張先の夜に一気見。評判以上のすばらしいドラマでした。植民地時代の日本語、台湾の人たちの台湾語、主人公一族の客家語、そして中国大陸からやってきた人たちの国語(Mandarine)や上海語、蒋介石の国民党政権を支えるアメリカ人たちの英語がいきかいます。そして、登場人物たちのセリフ以上のものを使い分けられる言葉たちが表現します。

主人公の張薏心(チャン・イーシン)は、茶虎と呼ばれる台湾最大の茶輸出会社「日光」の社長張福吉(吉桑:ジーさん)の一人娘。台湾の新竹県北埔鎮が彼とその張一族の地盤です。大房(本家)とか三房(分家)とか、中国ドラマ『破氷行動』が懐かしい南っぽい社会ですが、婿養子設定は私の見たドラマでは初めてかも。

一般的に中国も台湾も男尊女卑がベースの社会ですが、イーシンの父は社会的には茶虎なのに、一族の中では分家の婿養子で、奥さんも亡くなって立場が弱く、いつも本家や義父に歯がゆい思いをさせられています。だから、彼らの反対を押し切って商売を拡張するし、一人娘の才能も評価するし、女性でも茶師として山妹(サンメイ)の才能を評価して取り立てます。

そもそも、客家は他の漢族のように纏足しないし、女性にも勉強させる伝統があったはず。全くの余談ですが、現在の台湾総統蔡英文も客家出身。台湾一の大学の法学部を出て、アメリカ留学してマスター取得、イギリスの大学で博士を取得した才媛です。

『茶金』の舞台は第二次世界大戦後。日本人が台湾を去り、中国大陸から国民党の軍隊がやってきて、1949年には中華人民共和国が建国。台湾の国民党は戒厳令をしいて政治的な独裁だけでなく、経済的も統制しようとします。台湾の企業経営者たちは従わなければ逮捕か嫌がらせを受けるしかない。

政府の政策が変わるたびに、それまでの努力が水の泡になるどころか、借金の山を背負わされる理不尽さ。しかも、大戦後の世界の紅茶市場は、台湾を取り残して激変していきます。紅茶を主な輸出品としていた日光は、緑茶に切り替え、輸出先を変え、生き残りを模索します。

多額の借金を背負わされた日光。イーシンは婚約を破棄され、以後、父親をサポートして商売に関わっていきます。イーシンの心の支えは、アメリカのホワイト社で働くKK(劉坤凱)。知識が豊富なKKは、イーシンと彼女の父親、そして農民たちを助けて肥料工場を立ち上げるなど、日光に欠かせない人材になります。

でも、台湾大空襲で家族を失い、娘の生死が不明なKKは、イーシンに惹かれる一方、心の空白を埋められないまま、戦争孤児の女の子を養女にしている京劇女優夏慕雪との付き合いを深めていきます。最初は、NHKの朝ドラ的にイーシンが活躍するドラマかと思って安心して見ていましたが、KKが『民主思潮』という雑誌に寄稿したあたりから悲劇の予感しかなくなりました…。

でも、だからこそラストに向けてイーシンと父、山妹たち工場のみんな、元婚約者までも一丸となって、時代の荒波に立ち向かう様子がすばらしかったです。イーシンもKKも元婚約者も、それぞれが秘めた思いを抱えつつも、自分たちの理想と現実の間で可能な限りチャレンジします。報われないかもしれないけれど、躊躇はしません。

言葉も違う、立場もそれぞれ違う登場人物たちが、最後に台湾のお茶のブランドのために協力するラストは圧巻。そして、力を合わせてつくる東方美人。普通なら傷物にはるはずの虫食いの茶葉ですが、ウンカという虫が葉を食べることで、独特の香りを醸し出すのが東方美人です。

傷つくことで、かえって他とは違う味になる」東方美人。人も同じく、傷ゆえに他の人とは違う人間になる。苦難の時代を乗り越えようとする、台湾茶のドラマにぴったりでした。ラスト1話に、ドラマのモデルになった人たちのドキュメンタリーがあるのもいいですね。原作の小説『茶金』や、モデルになった人たちの『茶金歳月』とかも読んでみたくなりました。

邦題:茶金 ゴールドリーフ(原題:茶金)
主演:連兪涵、郭子乾、温昇豪、薛仕凌、黃健瑋、李杏、許安植ほか。
制作:台湾(2021年)12話+1話
視聴:Amazon prime、Unextほか

余談ですが、イーシンがひきとった女の子。呉濁流さんの『アジアの孤児』を連想するような設定ですよね。多分。



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