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頑固爺さんと牛が魅力的な不思議なドキュメンタリー映画。『牛の鈴音』韓国、2008年


79歳のおじいさんと、平均寿命を倍以上生きた40才の牛、そして76歳のおばあさんの物語。ドキュメンタリー映画です。

最初から最後まで、圧倒的に田舎の風景が美しいです。カメラマンが多分すごい腕なんでしょう。チ・ジェウさんという方らしい。絵みたいだけど、人工的じゃない。青々とした山、緑の田んぼ、生き生きしたカエル。つぶれそうな牛小屋とおじいさんの家。あるのはおんぼろのラジオだけ。

「こんな男と結婚した不幸」を訴えるおばあさん。いったい、どうやって9人の子供を育てたんだろう? しかも、成人した9人が全員あてにならないって!? 近所の人は「牛の方ができがいい」まで言っちゃってるし。

足を引きずり、牛と一緒に泥の中を歩くおじいさんと、背後に見える軽快な耕耘機の農作業。足を引きずり、牛のために草を刈り、山のように背負うおじいさん。その背景には農薬を撒いて草取り不要のヨソの田んぼ。「機械を使おう」、「農薬撒いて」、「私ばっかり苦労する」とおばあさんの小言。

年寄りの牛のやせこけた背中やお尻、あぶなっかしい足取り。
買ったばかりの若い牛のつやつやした肌。わがまま。跳ね上がる子牛。「牛の世話は大変」と嘆くおばあさん。おばあさんの小言は聞こえないのに、おいぼれ牛の鳴き声にはすぐ反応するおじいさん。

頑なに頑固でライフスタイルを変えられないおじいさんと、それに忠実な牛。心配しつつも、小言を言う事しかできないおばあさん。美しい自然の中の小さな家。これが今時の韓国人の琴線に触れたってのがすごい。多分、韓国人にとってはつい最近まで目にすることができた風景なんだろうな。そして、「まるでうちのじいさん(ばあさん)みたい!」と思える老夫婦。

でも、日本だと、こういう農村風景とか頑固なじいさんって、はるか昔なんだろう。韓国より30年ぐらい昔? 多分、戦前?
私が小学校低学年の頃には、近所に牛を飼っている家がいた記憶がある。だから、日本ではスローライフとかそういう方向で宣伝されてるけど、でも映画の中の生活はそんな優雅さとは無縁。

自分を犠牲にして子供たちを育てるしかなかった過酷な両親の時代。
身体を気遣って休むなんてとんでもない時代。「休むのは死んだとき」
これって私の場合、母親ではなく祖母のイメージだ。

でも、この映画を一緒に見た娘は、「じいとばあみたい」なんて言ってます。つまり、夫の両親。頑固に生活を変えないじーさんと、小言ばっかり言ってるばーさん。そういう風に考えると、こんなケンカばっかりの夫婦は結構あちこちによくある、「一昔前の夫婦」像なのかな? 牛を大事にするか、孫に甘いかの違いはあれど……

製作:韓国・2008年(78分)
原題:Old Partner(邦題:牛の鈴音)
監督:イ・チュンニョル

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