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ほぼティリオン主役。『竜との舞踏』上(氷と炎の歌5)ジョージ・R・R・マーティン

『竜との舞踏』は、ほぼティリオンとデナーリス、ジョンが主役っぽくて、前作『乱鴉の宴』であまり登場しなかった人たちが登場します。のっけからティリオンは父殺しのショックを引きずり、初恋のティシャを娼婦だと偽ったジェイミーへの恨みつらみを引きずっています。これは、シェイを殺したことへの自己嫌悪の裏返しか。だって、ティシャの名前はずーっと出てくるのに、シェイの名前は一切出てこないから。

ティリオンは、その後もずっと身内殺し(とくに父殺し)で自分を責めますが、サーセイもタイウィンも平気でティリオンを殺そうとしています。だから、ティリオンはこの時代ではちょっと異質な近代的な人なんだろうと思います。彼にとって、実は父親の存在はとても大きくて、自分も認めてもらいたかったということでしょうか。

前巻で、タイウィンは「ティリオンを壁に送るつもりだった」(=殺すつもりはなかった)と言っているけど、これは信用できるか微妙なところ。
もしかしたら、この物語の中で唯一ティリオンの読書人ってところがポイントなのかも。余談ですが、『暴力の人類史』という本では、何千年も当たり前に行われてた拷問や残虐刑が18世紀頃に突然姿を消した要因として、出版の爆発的増加、即ち読書習慣の普及が挙げられてるそうです。

ティリオンの逃亡を助けたのはヴァリスですが、その後、彼は登場しませんマジスター・イリリオ、つまりデナーリスとその愚兄を世話していた富豪がティリオンの最初の世話人になります。彼とティリオンの旅は、お互いの歴史知識の披露合戦みたいに楽しい。相手の知識具合を探りつつ、相手の考えを読む頭脳戦。ティリオンの武器は知恵。そして、かなり強力。

ティリオンは、16才になるまでは彼の頭脳を評価してくれる叔父のジェリオンがいてくれて、自分もラニスター家に頭脳で貢献できると思っていられた。でも、他の兄弟従兄弟たちが16才前後に自由都市を旅したようなことを、父はさせてくれませんでした。ドラマで、ドーンのプリンスが自由都市を旅したことがあるとか言っていたのは、単に彼が冒険好きだったからじゃなくて、当時のウェスタロスの名家の子息は、大人になる前に海を渡って自由都市を旅する習慣があったってことのようです。

ティリオンは知識に加えて、持ち前の洞察力でイリリオの次の案内人が狂王の息子、エイゴンだと知ります。ドラマではこのエイゴンとジョンを一人にしていたけれど、原作では別にもう一人登場人物がいます。しかも、ものすごく青二才というか、デナーリスの縮小再生産っぽくて、全然共感できない人物です。まあ、このエイゴン救出&温存にイリリオとヴァリスが関わっていたというのが、なんとも。ヴァリス、本当によくわかりません。

それにしても、ティリオンの身内に対する洞察力はすごいです。兄のジェイミーは闘いが大好きだけれど権力に興味がなく、政治がからむ局面にはかならず背を向けることを熟知しています。また、叔父のケヴィンは自分で摂政にならず、誰かに押されれば就任してまずまずの成果をあげられる存在。父が叔父を指導者ではなく、追従者としてつくっていたことを見抜いています。

サーセイは「女」として差し出されるためだけに美しく育てられたので、政治能力がありません、国土の傷をいやそうと、かえって塩を塗り込むハメになります。そして、自分が侮辱されたことについては、些細なことでも決して忘れないし、反抗的な者には容赦がない。息子トメンの治世には、それまでに父が入念に築いた同盟関係によってなんとか強化されていますが、そのうち、サーセイはその同盟をぶち壊すだろうと踏んでいます。以上が、ティリオンのラニスター家による統治の予想。

以下、ラニスター家以外の登場人物ですが、ドラマで一躍賢いリアナちゃんのインパクトを全世界に叩きつけた名台詞「熊の島が知る王はスタークのみ!」はこの巻で出てきます。彼女は10才。珍しく、ここはドラマと原作が同じ年齢です。

北の壁に来たスタニスは本当に融通がきかない男で、傍からみても王の素質がなさそうだとわかる。まあ、のっけから武具師にも「すぐ折れる鉄」って言われてるとおり。

リークという名前にされたシオンは、ドラマと同じようにラムジーに協力し、砦を一つ落とします。そこで彼が見たのは、アリアの偽物。彼女は、サンサの友達で、行方不明になっていた家令の娘ジェインでした。ドラマから入った私としては、これがサンサやアリアじゃなくてよかったと思うのですが、彼女は本当に不幸です。

ジョンは北の壁で無能なスタニスを説得し、壁の外の野人相手にがんばるけれど、スタニスやメリサンドルは受け入れません。ジョンは本当にドラマよりがんばっています。でも、状況がそのがんばり以上に状況が厳しくなっているのが辛いです。

野人のリーダーのマンス・レイダーが焼かれるのを見守らざるを得ないジョン。息子はこっそり逃がせたけど、マンスの最後が辛い。メリサンドル、他人を燃やしすぎ。北部の信仰を尊重すれば、もうちょっと受け入れられるのに。1つの宗教に全てを捧げる人たちって、本当に他の宗教や文化は全否定なんですね。まあ、当たり前か。

そして、そして!
首はねられたらしいダヴォス、ちゃんと生きてました(まだ)。よかった!


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