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人工知能を介在した人間ドラマ。映画『AWAKE』日本、2020年


2015年4月に行われた将棋電王戦FINAL第5局で繰り広げられた棋士とコンピュータの対局にインスパイアされたドラマ。

主人公は将棋が強くて、棋士養成機関の奨励会に入れるほどの実力を持っていたけれど、日本各地から集まる天才たちの中では抜きん出ることができず、20才でプロを諦めて奨励会を辞めた英一(吉沢亮)。その後、栄一は大学に進学して、コンピュータ将棋と出合い、AI研究会に入ってプログラミングを勉強し、自分で将棋ソフトAWAKEを開発する。

棋士ソフトの大会で優勝した栄一に、コンピュータと人間の棋士が対局する電王戦への出場依頼がくる。相手は、かつて叶わなかったライバルだった。

この映画は、実際にあった2015年の『電王戦』をモデルにしているけれど、監督さんのnote記事とかを読む限り、設定だけ借りたよう。監督さんがとりたかったのは、かつて夢破れた一人の棋士が、将棋ソフトを開発することを通じて自分の夢を見つけ、人生の中に再び将棋を取り戻す人間ドラマ。なので、実際の電王戦を取材したり、AIと人間の関係について考えたりといった映画ではないので、それがちょっと残念。

まあ、普通の人はそれほど将棋とかAIに興味はないと思うから、そんなマイナーな映画では興業にならないのかな。以前、どこかで読んだフェースブック創業者の映画『ソーシャル・ネットワーク』の批評でも、結局映画で描かれているのは、マーク・ザッカーバーグ自身にフォーカスしただけの映画で、彼のつくったフェースブックがどれだけ世界を変えたのかが全然描かれていないって不満を目にしたっけ。

あとは、2014年時点の棋士の人たちや将棋界をとりまく状況が、今とはかなり変わってしまったので、ずっと興味持って見てきたような人からすると、そのあたり物足りなさを感じてしまうのは仕方ないかも。デジタルネイティブな平成生まれからすれば、AIは生まれたときから身近にあるもので、「決して負けてはならない」ものじゃないから。

ストーリーでは、主人公のライバルがプロ棋士の矜持よりも、「勝負に勝つ」ことを優先させたあたりが、イマイチ説得力ないので残念。でも、主人公対プロ棋士の対局のときのカメラが、吉沢さんの表情を全然映さないのはすごかった。わざわざ映さないっていう、ああいう演出はいいな。ほかにも、細かい部分とか一見地味な場面でいいなと思うシーンがたくさん。こういう地味だけど、ちゃんとした映画は好き。

主役の吉沢さんは、ドラマ音痴の私でも名前だけ知っている方ですけど、今回、心惹かれたのは吉沢さんの先輩・磯野役の落合モトキさん。ギークな役どころにピッタリで、あの早口の「できる」感じといい、クールに見えて結構世話好きな感じといい、娘と二人で「吉沢さんとAWAKEを実質育てたのは先輩だよね~」と意見が一致。娘もなんだか私似で、「推し」は大体、主人公じゃなくて、ナンバー2か3くらいの縁の下の力持ちなのがおもしろい。

題名:AWAKE
監督:山田篤宏
製作:日本(2020年)119分
主演:吉沢亮、若葉竜也、落合モトキほか

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