見出し画像

杉箸のアカカンバから学んだのは、伝統野菜の価値だった。

伝統野菜を食べたことはありますか?

全国各所にある伝統野菜ですが、ここ敦賀市にも、「黒河マナ」「アカカンバ」「古田刈かぶら」という3種の伝統野菜があります。そのうちの一つ、アカカンバが収穫の時期を迎えたということで、敦賀市の山奥、杉箸へ行ってきました。

「伝統野菜」と聞くと、その地域に根付いた野菜というイメージをなんとなく持ちますが、その明確な定義はあるのでしょうか?そして、アカカンバとはどんなお野菜なのか?収穫をお手伝いしながら、アカカンバ生産組合の組合長、山口一夫さんにお話をうかがいました。

画像1

伝統野菜アカカンバとは?

「アカカンバ」とは、敦賀市と滋賀県に県境あたりに位置する杉箸(すぎはし)という地域で、150年以上前から耐えることなく受け継がれてきた伝統野菜です。

画像2

聴き慣れない名前ですが、その実態は赤カブの1種。この地域では、昔から大根の糠漬けのことを「カンバ」と呼んでおり、同じく赤カブも糠漬けにしていたことから赤いカンバ、アカカンバと呼ばれているのだろうと山口さんは言います。山深いこの地域では、炭焼きの合間に焼畑で作られ、冬場の保存食として重宝されていたのだとか。

山口さん「アカカンバの特徴は、サイドに生えるヒゲ根と葉のトゲ、そして実に入る赤い差しです。この地域でタネ取りして、150年以上ずっと受け継がれてきた野菜なんですよ」

画像3

収穫したばかりのアカカンバを山口さんがその場で切って見せてくれました。アカカンバの特徴である中央の赤いサシは、切ってから時間が経つにつれて少しずつ赤が強くなっていきます。その場でいただいたスライスしたカブは、辛みと苦味と甘味のバランスがよく、とてもおいしかったです。

画像4

しかし正直、味はよくある赤カブと大きく変わったところがあるわけではなさそう。さらには、ヒゲ根の雰囲気などは普段スーパーでみる野菜よりも生々しさを感じます。

それもそのはず、伝統野菜に大切なのは、品種の独自性というよりも、この生々しさと言っても過言ではないのです。


知らなかった伝統野菜の定義

日本各地で古くから栽培されてきた地方野菜のことを差す「伝統野菜」。有名なものでは、京都の京野菜などがありますが、その定義は地域によって異なります。

福井県の定義は下記の3つ。

① 生産者が自ら種どりして
② 100年以上前から栽培されている
③ 地域に根ざした作物である

さらに近年では、この中から2つを満たせば伝統野菜の指定を受けられるよう解釈が拡大化されました。

杉箸のアカカンバは上記の3つ全てを満たす伝統野菜の中でも優秀な野菜。現在の農業では、F1種という病気などに強く、安定した形の野菜を育てられる種が使われることが増えました。この種は、種どりには向かず、毎年新しい種を購入して植えなければなりません。一方の伝統野菜のような種取りした野菜は、同じ土地で作り継ながれていくことで、代を重ねるごとに土地に合わせて進化をしていきます。そのためどこか力強さを感じ形へと姿を変えていくのです。つまり、この生々しさこそが伝統野菜たる証拠なのです。

画像5


生産組合の活動に参加

山口さん率いる7人のメンバーで構成される杉箸アカカンバ生産組合は、そんな杉箸の伝統野菜を一手に担っています。春と秋、年2回のカブの栽培と、そのカブを加工した漬物やジャムなどの生産や販売、各種イベント出店なども行うパワフルな団体です。

画像6

わたしは、「間引きボランティアの募集」の知らせを見て、間引きから収穫までをお手伝いしました。今回は8月末に種まきをした秋のカブ。10月12日に、市役所の農林水産課や二州農林部の方々をはじめ、毎年ボランティアに参加される方なども合わせて、総勢10名程度で間引きを実施。カブとカブの間が15センチ〜20センチほどの間隔になるよう間引いていきます。茎が緑色のものは劣勢とのことで、赤いものをなるべく残すようにします。

画像7

そこから1週間、10月20日には倍ほどのサイズまで成長していました。

画像8

収穫したアカカンバを持ってさらに山奥に流れる川に移動。川の水で一つ一つ丁寧に洗っていきます。

画像9

画像10

画像11

この日は東京に向けて出荷する50本ほどを収穫。このアカカンバは、東京の伊勢丹新宿店本館地下1階にある、warmerwarmerという伝統野菜のような種を受け継いで栽培される野菜のみを取り扱う八百屋で販売されます。組合の高齢化が進み担い手不足も深刻化しているそうですが、この種を絶やしてはならないと、組合長の山口さんも副組合長の菅野さんは生産を続けます。

画像12

アカカンバからは、杉箸の土地柄や歴史、種を作りつないでいく生産者の思いがうかがえます。伝統野菜の価値とは、自然の力を感じる地域で受け継がれてきた種をつなぎ、その土地の歴史や風土を伝えていくことなのかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?