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「やわらかさで尖る」"伝説の焼き物"を現代風に再現したゴム加工のプロが抱く想い

【Create New Market】Episode.16

日頃表舞台に立つ機会が少ない製造業が、知恵と技術を凝縮して生み出した商品やサービスによって思いがけず注目の的となることがあります。
どんなきっかけで作り出し、どんな思いで世の中に送り出したのか。
1つ1つの商品が世に出るまでの舞台裏を覗くと、かけがえのないストーリーが隠されています。

今回は、(有)津野田ゴム加工所(長崎県長与町)が企画した地域の工芸品を現代風にアレンジしたカップにまつわるエピソードをお届けします。
社内で何気なく始めた取り組みがきっかけとなり、新たなサービスを生み、地域を巻き込んでいった裏には、形を変えながら気軽に「やってみよう」とチャレンジする社風が反映されてきました。



【Introduction】ゴムのように柔軟なモノづくりで重ねた歴史

波穏やかな大村湾を望む長崎県長与町。
温暖な気候と傾斜のある地形を生かしたミカンの栽培が盛んな街は、隣接する長崎市のベッドタウンとしても近年発展しています。

そんな街の山あいの集落でコーポレートカラーともいえる黄色い看板を掲げて工場を構える津野田ゴム加工所。
1978年に長崎市で創業し、1991年に現在の場所に移転してゴム加工品の製造を続けてきました。
約150坪の建屋には、マシニングセンターや汎用旋盤、カッティングプロッターなどの設備が所狭しと並んでいます。

津野田ゴム加工所の強みは、多品種少量を可能とする生産体制にあります。
金型に素材を流し込んで成形することが主流のゴム加工に対し、津野田ゴム加工所は削り出しの加工による柔軟な対応力を売りとしてきました。
代表取締役の津野田幹太さんが「早いものだと受注から半日で出荷することもある」と語るほどのフットワークで、現在は半導体製造装置関連を主体に幅広い産業に向けて月間約5000件のオーダーに対応しています。


【STEP.1】「せっかくなら…」と軽い気持ちで始めた取り組み

加工品はボール盤を使いながら手作業で1つずつ仕上げていく

そんな津野田ゴム加工所が自分たちで商品づくりを進めることになった背景には、約4年前にあった出来事が関係しています。

当時、事務作業を担当する従業員を募っていた津野田ゴム加工所に長与町在住のある女性が入社することになります。
その女性は理系出身でモノづくりに関心があって応募してきたこともあり、実地研修を兼ねてさまざまな仕事を体験してもらうことにしました。

そうした中、女性が特に「面白い」と興味を持ったのが3DCADでした。
そんな反応を見て、津野田さんは「ヒマな時は3DCADで遊んでいいよ」と軽い気持ちで作業する機会を設けることに。
すると、女性はあれよあれよという間に扱い方をマスターしていきます。

予想以上の習得の早さに驚いた津野田さん。
「せっかくなら作ったデータを具現化できれば」と3Dプリンターを購入し、Instagramのアカウントを立ち上げて実際に作ったものを投稿する試みを始めました。


【STEP.2】取り組みの広がりから新たなサービスの展開へ

3DCADと3Dプリンターを活用して制作したチョコレートの型に関して投稿したInstagram

「まずはやってみる」を合言葉に始まった3DCADと3Dプリンターを活用したモノづくりは、その後進化を遂げていくことになります。

スマートフォンのケーブルホルダーを皮切りに、印鑑収納ケース、ペン立て、キーホルダーなど、どんどん増えていく作品。
「作ってみた」シリーズとして展開する作品は、投稿が増えるにつれて次第に反響を呼ぶようになります。
取り組みは社内に留まらず、地元の洋菓子店とコラボしてチョコレートやクッキーの型を作るなど社外にも広がっていきました。

さらに、3DCDADや3Dプリンターを活用したモノづくりが社内に浸透したことで、新たなサービスの立ち上げにもつながりました。
それが、ゴム加工品の試作・設計サービスである「らばラボ」です。

津野田ゴム加工所では、もともと発注元のデータを基に製造する請け負いの仕事が中心でした。
そうした状況に対し、3DCDADや3Dプリンターによる体制が整ったことで加工に至る前段階の対応も可能となりました。
らばラボは、津野田ゴム加工所が強みとする多品種少量のモノづくりに加え、試作・設計による提案型のモノづくりの実現に向けて展開しています。


【STEP.3】課題から始まった新たな商品づくり

商品化に向けて打ち合わせを進める様子(奥が津野田さん、津野田ゴム加工所提供)

そんな中、2023年1月に地元の社会福祉法人の理事長からある話を聞きます。
それは、「就労支援施設B型事業所の利用者の工賃(賃金)が低いから、私たちは上げていきたい」との課題でした。

一般的に利用者の工賃は最低賃金よりも低い水準で設定されている現状にあります。
そうした状況に対し、利用者がモノづくりに関わることで少しでもプラスになればとの考えから津野田さんたちは商品企画に取り組み始めました。

当初はゴム製の花瓶が候補に挙がりましたが、製造には金型が必要で初期コストがかかり、機能面や安全性も踏まえて断念しました。
自社の技術と事業所の利用者が可能な作業を踏まえ、どんなものができるかと考えること数か月。
そうした時、地元にゆかりのある「三彩焼」に行き着くことになります。

江戸時代に大村藩の財政強化を目的に生産が推奨された三彩焼は、緑、黄、藍などが折り重なった鮮やかな色合いが特徴的な焼き物です。
長与町でもかつて作られていましたが、その歴史はいつしか途絶えてしまっていました。
そんな歴史的背景を基に、津野田さんたちは「リバイバルできないか」と試作を進めていきます。


【STEP.4】ゴムの特性と手仕事の融合が生み出す独特の風合い

長与駅内の「GOOOOOOOD STATION」で販売しているSANSAI(津野田ゴム加工所提供)

商品化を進めるにあたっては、デザインや機能性を求めつつ事業所の利用者が可能な作業を考える必要性もありました。
当初は成形後のバリ取り作業を念頭に考えていた津野田さんですが、圧力、温度、時間の要素によって結合するゴムの特性とマーブル風な模様による三彩焼の特徴を生かした作業を利用者に担当してもらうことにしました。

それが、成形前に白、青、黄、透明、緑の5色の材料を団子状にまとめる作業です。
利用者が材料を自ら測り、団子のように固めながら混ぜ合わせることで三彩焼のような独特な風合いが生み出されます。
一方で商品の模様に少しずつ変化が生じるため、本物の焼き物のように1つずつ違いを楽しめることもオリジナリティとして体現されました。

こうしてさまざまな思いが融合した「SANSAI」は、JR長与駅内でカフェや雑貨ショップなどを展開する「GOOOOOOOD STATION(グッドステーション)」のオープンに合わせて販売されることになりました。
発売からしばらく経過し、現状ではコンスタントに売れている状況です。
地元にルーツを持つ工芸品をアレンジすることで生まれた商品は、これから地域に溶け込むことで新たな歴史を紡ごうとしています。


【まとめ】新たな取り組みを仕掛ける上で掲げるモットー

三彩焼の鮮やかさをゴムの特性を生かして再現した「SANSAI」

3DCADや3Dプリンターの活用、新たなサービスの展開、地域を巻き込んだ商品企画など、さまざまな取り組みを仕掛けてきた津野田ゴム加工所。
他にもホームページのリニューアルや加工時に生じる廃材を活用したアップサイクルによるモノづくりなど、この数年間でそれまでの会社のイメージを大きく変えてきました。

その背景には、津野田さんが掲げるあるモットーが反映されています。
そのモットーとは「やわらかさで尖る」です。
新たな取り組みによって「尖る」ことに対し、「やわらかさ」には素材としてのゴムの特性だけでなく、「発想力」や「組織運営」、万が一の出来事が起きた時の「復元力」といった要素を込めています。

そうしたモットーを踏まえた取り組みが呼び水となり、本業のゴム加工では毎月新規取引先を増やしながら売り上げを伸ばし、従業員数もこの4年間で1.4倍に増やしてきました。
最近では、「これだけ遊び心がある会社なら作ってくれるのでは」とポップなホームページを見た企業からの引き合いがも増えています。

「まずはやってみる」を合言葉に進む津野田さんたちの取り組みは、これからどんな形で広がり続けていくのか。
5年後、10年後には、さらに新たな可能性を見い出しながら現在と全く異なる姿を見せているかもしれません。



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