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酒づくりを通じたアイデンティティはどう築かれたのか?南大東島のラム酒メーカーが描くこれから。【対談:その4】
南大東島を拠点に、地元のサトウキビを原料に使うラム「CORCOR(コルコル)」を手がけている(株)グレイスラム。
代表取締役の金城祐子氏に事業化への道筋をある新事業開発担当者が問いながら進んだ対談は後半に入り、商品のアイデンティティや会社の今後に向けた話題を中心に進んでいく。
苦心を続けながらもようやく生まれた商品は、約20年の月日をかけてどのようにしてユーザーに広めていったのか。
そして、「CORCORらしさ」はどう育まれていったのか。
10年、20年先のこれからについて聞きながら、事業開発において大切な要素を探っていく。
▼前回の内容はこちら。
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■「CORCORらしさ」を伝えるために大切にする売り方
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【佐藤】
これまでCORCORが誕生するまでの話を中心に聞いてきましたが、実際に販売するようになって意識している部分はありますか?
【金城】
物産展で試飲してもらいながら販売しているんですが、店頭にウチのお酒が並んでいるだけだとホワイトラムでそこそこ値段が高くて「なんだろ、コレ」という感じになってしまうんですよね。試飲してもらいながら、「こういったコンセプトで作っています」と説明できるのが物産展なんです。お付き合いで買ってもらうのがあまり好きではなくて、好きと思ってもらっている人に飲んでもらいたいので、説明しながら販売できる物産展が大事な場なんですよ。
【佐藤】
対面販売を重視してきたことで気づいたことはありますか?
【金城】
はじめは「ラムっぽくない」と言われることがあったんですよ。その時に「ウチのラムは蒸留器も違えば、水も特徴的だし…」と説明し、アグリコールに関しては世界中のラムの中でも3~4%しかないと説明すると納得して購入につながる感じでした。もっと売れるようにするならもっと甘くしてもいいかもしれませんが、それは大手さんがやることですし、ウチは他にはない唯一無二のテイストを守り続けたいと思っています。
【佐藤】
色々な方向性が明確に定まったと感じた瞬間はあったんですか?
【金城】
「美味しい」と言ってくれるお客さんが出てきたことですよね。誰も言ってくれなかったら考え直さないといけないですが、お客さんの反応を見ると「万人受けするお酒じゃなくていいんだよ」と感じさせるお客さんが居てくれることが決め手となりました。
【佐藤】
他の会社との違いを実際に感じる部分はありますか?
【金城】
海外のラムを飲んでいると、そこまで差がわからなくてブランド名で楽しんでいるのかなといったところもあります。酒質の面白さや特徴を生かし続けることもアリなんじゃないかなと思うんですよね。
自信につながったのは、大地を守る会さん、らでぃっしゅぼーやさん、生協さんといった食の安心・安全でハードルが高い業者からオファーが来たことでした。化学添加をしていないことに対して評価してもらえたことに自負があり、製菓の原料として使われたことも大きかったです。
【佐藤】
そうした自負を感じるようになったきっかけはありますか?
【金城】
北海道に本社を置くロイズさんとの取引が始まったことですね。ロイズさんはCORCORが出来てすぐの頃から現在まで採用してもらい、他にもひよこさん、メリーチョコレートさんといった名高いところに使ってもらいました。そうした点からも、今のコンセプトに定めてよかったと思いますね。
■自分たちのラムづくりを続けるためのプライド
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【佐藤】
親会社との関係もこれまでの流れに大きく関わっているようですね。
【金城】
今は資本の過半数が沖縄電力からヘリオス酒造に変わりましたが、最初は親会社の看板が変わることに「えっ、あの会社の色に染まるのはどうかな?」と思っていました。ただ、「今まで通りやっていいよ」と言われてそれまで通りやっていました。
【佐藤】
親会社が変わることに対する当初の受け止めはどうでしたか?
【金城】
ヘリオス酒造に名義が変わる時、正直なところ、最初は社内でも「ヘリオス!?」となったんですよ。プロモーションを上手にやっている会社ですし、離島で田舎なウチの会社とは違うと思っていたら、「金城さんと(工場長の)玉那覇さんが居るから買い取ります」と言われたことに「えっ!」と驚いて…
【佐藤】
そうした状況からどのように変化していきましたか?
【金城】
結果的にヘリオス酒造の資本が入りましたが、「自分たちの色を壊さずこれまで通りやっていこう」との思いは変えずに進めてきました。当然、経営面で親会社の意向を聞く部分もありますが、ラムづくりに関しては独立独歩を保つことを第一にこれまで続けていきましたね。
【佐藤】
現在のヘリオスさんとの関係はどうですか?
【金城】
ヘリオス酒造の資本が入って気がつけば10年程が経ちました。本当はまだまだもっと売れて安定した経営にするためにやらなければならないことがあるんですけど、今のところは関係性を保てていると思います。わずか4人の小さな会社ですが、この南大東島だからこそできるモノをこれからも追い求め続けたいです。
■世界に向けて歩み続ける酒づくりの未来
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【佐藤】
設立から20年が経ちましたが、現在の課題のようなものはありますか?
【金城】
新たな作り手の育成をしないといけないことですね。工場長にはずっと作ってもらいたいと思いながらも、いずれはバトンタッチをしないといけないので、この味を守り続けられる人が見つかるのかとの不安は感じています。
【佐藤】
どんな人に受け継いでもらいたいですか?
【金城】
「離島が好き」とか「島でお酒づくりをやってみたい」という想いがある人に来てもらいたいです。この島は医療面では診療所しかなく、那覇に行くにも飛行機や船でお金がかかるので誘いづらい部分があります。それでもお酒や島の生活に興味があれば大丈夫かなと思っているんですけど。
【佐藤】
最後に、今後目指す姿はありますか。
【金城】
これはずっと変わっていないんですが、このCORCORを世界中に売っていくことです。
「メイド・イン・沖縄」、しかもラベルのごとく南大東島を売りに全世界へ出していきたいというのが最初からの目論見なんですよね。ラムは世界中で飲まれているお酒なので、ここは泡盛と違って1歩リードしているところなのかもしれません。
コロナ禍で停滞していた輸出の動きが戻っているので、「メイド・イン・ジャパン」=「ラム」=「CORCOR」の位置づけまで持っていきたいと思っています。これからも曲げず、変わらず、「これが日本、沖縄のラムなんだ」と言えるものにしたいです。
【佐藤】
これからさらに月日が経つと歴史と価値に重みが出てきそうですよね。僕も楽しみにしています。
《まとめ》約1300人の島から産業が生まれたことが持つ意味とは
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前半2回は技術者同士が議論を交わし、後半2回を事業面から探っていった今回の対談。
未知の領域にある事業を生み出すには、前例のない出来事に立ち向かう勇気と信念が大いに影響していることがグレイスラムの事例から見えてきた。
「絶海の孤島」といえる南大東島から新たな事業を生み出すことは容易いことではない。
事業面で決して恵まれた環境にない中、苦難が訪れながらも約20年の月日を歩んだことは地域にとっても大きな意味を持つ。
これから、わずか4人の小さなラム酒メーカーはどんな歩みを進めるのだろうか。
人口約1300人の島から世界に向けて発信するストーリーを読み取りながらその酒を飲むと、一層味わい深いものになるのかもしれない。
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