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「職人道具は完成していない」靴職人が日々使う道具を通じて実感した奥深さ

働く人にとって、日々扱う道具は「相棒」と言っても過言ではありません。
相棒とどのように出会い、どんな思い出を刻んできたのか。
長らく使ってきた道具に焦点を当てると、その人の個性やこだわりが滲み出てきます。

今回の「相棒」は、修理工房古革の後藤麗次さんが扱う革包丁にスポットを当てました。
修理専門の靴職人として自ら店を営む後藤さん。毎日扱い続ける道具から仕事に対するこだわりと理想が垣間見えてきます。

《プロフィール》後藤麗次(ごとう・れいじ)
 高校卒業後、大手重工業メーカーでの製造部門、ホテルのフロントマンの仕事を経て、28歳の時に靴修理のチェーン店に入社。1年間の勤務後、2021年に前のオーナーから引き継ぐ形で北九州市小倉北区に「修理工房古革」を開店して現在に至る。大分県出身、1992年生まれ。



自らの腕を磨くために手にした「相棒」

靴底にカットを入れながら加工する後藤さんの手

ー「相棒」と出会ったきっかけは。
後藤
「以前勤めていたチェーン店で靴職人が革包丁を使って作業していると知り、『キレイに仕上げられるのでは』と考えて使い始めました。靴修理の卸業者からたまたま購入したのでメーカーの存在も知らなかったのですが、刃の部分が柔らかいため、革を薄く、鋭く切れることが特徴です」

ーどんな時に相棒は活躍していますか?
後藤
「靴底の修理で部材を取り付けるラインを『アゴ』と呼びますが、その部分を作る際に使います。革を切る際にカッターを使う人もいますが、靴底のように曲面のある部分だと扱いづらい難点があります。それに対し、革包丁は梳くようにして革を切ることで高い精度で加工できることが特徴です」


職人道具ならではの難しさを実感した出来事

後藤さんが使う高芝ギムネ製作所製の革切り包丁

ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
後藤
「靴底に対して角度をつけて作業をするため、使っていくうちに横から見ると刃と柄の部分がたわんだ状態になっていました。作業する時のクセによる刃こぼれもあり、本来は真っすぐだった刃先も斜めに削れています。柄の部分は白っぽい色で手触りもザラザラしていたので、カッコよくしたいと思って自分で色を塗りました」

ー印象に残っている思い出を教えてください。
後藤
「購入後は『これでキレイに仕上げられるぞ!』とワクワクしましたが、なかなか使いこなせず最初はカッターを使う方がまだやりやすい状態でした。研ぎも最初の頃はうまくできなかったので思った通りの切れ味とはならず、『職人道具は最初の時点で完成していない』と実感しました」

ーどのようにして自分で使いこなせるようにしていきましたか?
後藤
「前職では周りに革包丁を使う人がいなかったため、動画を観てコツを学び、自分の靴を使って練習を重ねながら半年がかりで感覚を身に付けていきました。研ぎも毎日続けるうちに次第に慣れ、初めてスパっといく切れ味になった時は感動しました」


こだわりと理想を追い求めながら歩む靴職人としてのこれから

「自分を高めるためにも『師匠』と言える存在に出会いたい」と語る後藤さん

ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
後藤
「靴がもともと好きだったので、靴に関連した仕事に就くことは自然な流れだったのかもしれません。革包丁もどこかのタイミングで必ず手に取っていたと思います。チェーン店で働いていた時は時間優先でしたが、革包丁を使って修理ができる今の環境になり、よりこだわって扱うようになりました」

ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
後藤
「長年続けてきた職人の動画などを見ていると、日々の研ぎで刃が短くなるまで使い続けているものを見かけます。毎日、作業前に研いでいますが、この包丁もそれ位になるまで使い続けたいです。靴職人としては、まだゴールが見えていない状況でずっと理想を追い続けています。1つずつの靴に対し、『ま、いっか…』と妥協せず大切に扱うことを心がけたいですね」


《今回紹介した後藤さんが働く店舗はコチラ》
【店名】修理工房古革
【住所】福岡県北九州市小倉北区室町2丁目6-14
【オープン】2021年
【営業内容】靴の修理、鞄の修理、合鍵作成、時計の電池交換
【HP】https://koubou-furukawa.com/


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