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突破口を開いたのは"ネコ"!? 段ボールを生かしたアイデア商品が生み出された舞台裏とは

【Create New Market】Episode.11

日頃表舞台に立つ機会が少ない製造業が、知恵と技術を凝縮して生み出した商品やサービスによって思いがけず注目の的となることがあります。
どんなきっかけで作り出し、どんな思いで世の中に送り出したのか。
1つ1つの商品が世に出るまでの舞台裏を覗くと、かけがえのないストーリーが隠されています。

今回は、大国段ボール工業(株)が手がけるユニークな段ボール製品にまつわるエピソードをお届けします。
私たちの生活に身近な段ボールを生かし、次々とアイデア商品を生み出すまでに至った背景には、長年の業界構造に対する葛藤と紆余曲折の取り組みが隠されてました。



【Introduction】身近なシーンに欠かせない社会の黒子役

生活のさまざまなシーンで見かける段ボール製品。
モノの輸送や保管に欠かせない梱包材は、私たちの身近な存在として産業や生活を支え続けています。

福岡県行橋市に本社を置く大国段ボール工業は、社名通り段ボール製品の製造を主力とする会社です。
1962年の設立以来、製造業や農業が盛んな地域であることを背景に、主に近隣のメーカーや農家などに向けて製品を納めてきました。
自社の製品自体が注目を集める機会は少ないものの、長らく地域の産業を支える「黒子役」としての役割を果たしています。


【STEP.1】独特の業界構造から抜け出すために始めた商品企画

一般消費者向けの商品は手作業によって段ボールを貼り合わせながら組み立てる

黒子役として世の中を支える段ボール製品ですが、差別化の図りにくさによって他社との価格競争に陥りやすい商材でもあります。
会長である寺澤一光さんは、そんな業界の特性について「いいものを作るのが当たり前で、1円でも安くすることが求められる世界」と語ります。

そうした中、リーマン・ショックによる世界的な不況によって会社を取り巻く環境が大きく変化します。
それまでにも景気の波を受ける時期はありましたが、取引先であるメーカーや農家の影響を受ける形で一気に受注量が落ち込むことに。
今では「リーマン・ショックで文字通りショックを受けた」と笑う寺澤さんですが、会社には先行きが見通せない暗雲が立ち込めました。

一方で業界構造を踏まえると、受注量を元に戻せたとしても価格勝負を繰り広げる状況に変わりはありません。
全国規模の大手企業と小規模な事業者が同じ土俵の上で消耗戦を繰り広げる状況に対し、寺澤さんは「自分たちで価格を付けられるモノを作りたい」とこの時期から自社商品の企画を考えるようになります。


【STEP.2】ネコの習性を生かした唯一無二の商品

ネコの習性を生かしたキャットタワー型爪とぎ「SNOOZE」(大国段ボール工業提供)

危機感に端を発した自社商品の企画ですが、当初は「何もアイデアが思い浮かばなかった」と寺澤さんは振り返ります。
知っているのは段ボールのことだけ。
漠然としたアイデアから商品を試作しますが、周囲からは「こんなモノを作っても売れるはずがない」と言われる始末。
段ボールの特性をどう生かせばいいのかわからず模索する日々が続きました。

それでもいいアイデアはないかと色んな人に聞き回っていると、知人から「ホームセンターでネコの爪とぎを売っているが、まな板のようなものしかない」との話を耳にします。
ただ、店に足を運んで実物を目にすると、粗悪な材質のものばかり。
寺澤さんは「段ボールの知識もあるし、設備もあるから自分たちにもできるのでは」と試作に乗り出します。

「どうせ作るならカッコよくて品質のいいものを」とネコ好きな人たちに話を聞き、書籍などで情報を集める中、ある習性が商品に生かせるのではないかと感じるようになります。
その習性は、ネコが「高い」「狭い」「丸い」を好んでいること。
この3つの習性を組み合わせた構造を組み込んで試作を繰り返した結果、キャットタワー型の爪とぎ「SNOOZE(スヌーズ)」が完成します。


【STEP.3】ある表彰制度によって変わった風向き

材質にもこだわり、長期間の使用にも耐えうる(大国段ボール工業提供)

段ボールの材質にこだわり、約40枚の段ボール板を貼り合わせた約90cmの巨大な爪とぎ。
構想開始から約1年をかけて他社には真似できないユニークな商品を完成させましたが、寺澤さんは「前例がないので正直言って半分自信がなかった」と語ります。

自信がなかった理由として、商品の広め方が分からないことがありました。
当時、既に世の中でネット通販による販売スタイルは確立していましたが、大国段ボール工業が一般消費者向けの商品を展開するのはこの時が初めて。
売ることよりも「どうやったら知ってもらえるか」と考えていたある時、インターネットである表彰制度が偶然に目に留まります。

それは、製品や建築、ソフトウェア、サービスなどあらゆるものを対象にデザインの観点から評価する「グッドデザイン賞」でした。
締め切りが迫っていたこともあり、「ダメでもともと」と思いながら応募してすると予想外に受賞することになります。

思わぬ形で「お墨付き」をもらったことを機に、寺澤さんは「ここぞとばかりに周囲に言いまくった」と口コミでスヌーズの存在を広げていきます。
すると、自治体やメディアの耳にも入り、取材を受けることでSNOOZEは認知度を高めてコンスタントに注文が入るようになっていきました。


【STEP.4】次々と生み出されるアイデアの数々

動く仕掛けを施した玩具をはじめ、レパートリーは次々と増えていった

SNOOZEの存在によって大国段ボール工業の存在が一般の人にも知られるようになると、次第に「こういったものも作れないか」と新たな商品のリクエストを耳にする機会も増えていきました。
そうした声に対し、寺澤さんは「頼まれたものは必ず作る」をモットーに次々と商品を広げていくことになります。

キャットハウスなどネコ関連の商品だけでなく、耐久性を生かしたデスクやチェア、ワークショップ向けの玩具などレパートリーは約50種類に及んでいます。
その間に自社でのデザイナーの採用やネットショップの立ち上げなど、商品の企画、販売の体制も整い、この10年間でグッドデザイン賞は計3回受賞するまでになっていました。

業界の構造課題に対する疑問から始めた動きは、いつしか「大国段ボール工業だからこそできる」とニーズを軸とした商品づくりへ変化してきました。
寺澤さんたちはそうしたニーズを拾い上げ、段ボールの可能性を広げながら今後もさまざまな商品を送り出そうとしています。


【まとめ】段ボールのイメージを変えるための終わりなき挑戦

プラスチックハンガーの代替で開発した「段ボールハンガー」(大国段ボール工業提供)

段ボールの特性を生かして次々と商品を送り出すようになった大国段ボール工業ですが、その根底には「段ボールに対する世の中のイメージを変えていきたい」と考える寺澤さんの想いがあります。

消費材である段ボールは時に粗暴に扱われ、寺澤さんは「取引先から冷たくあしらわれることもあった」と語ります。
一般消費者にとっても段ボールでどんなものができるか分からないからこそ、頼まれた依頼を断らず可能性を広げることにこだわり続けました。

そうした取り組みは徐々に浸透し、2022年にはクリーニング用のプラスチックハンガーの代替となる「段ボールハンガー」を手がけるなど他社との共同による商品企画の取り組みも広がってきました。

「『作ってくれ』と相手が欲しているものに対し、一工夫によって期待感を少し上回るもので驚いてもらえたら」と語る寺澤さん。
段ボールのイメージを変えるための挑戦は、これからも続いていきます。



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