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(完結)とおまど、M-1に出る。 ひなザーストーリー編

総目次

前話(True End編) あらすじ
M-1優勝直後の『とおまど』解散宣言で全国をどよめかせた浅倉と樋口は、福丸と市川を伴ってテレビ朝日本社を脱走し、臨海都心へと逃避行する。出演予定番組を全放棄した咎は何者かの権力によって赦免されたが、しかし一連のシナリオには芸能界の深い闇と思惑が介在していた──


──────㉗ 他人のためなんて自己陶酔


○IN NOTO 2024/01/01/16:05
●IN NOTO 2024/01/01/16:06
────(Foreshock M5.5 Intensity 5+)────
●IN NOTO 2024/01/01/16:10
────(Main shock M7.6 Intensity 7)────
●IN NOTO 2024/01/01/16:18
────(Aftershock M6.1 Intensity 5+)────
●IN NOTO 2024/01/01/16:56
────(Aftershock M5.8 Intensity 5+)────
●IN NOTO 2024/01/01/17:22
────(Aftershock M4.9 Intensity 5-)────
●OFF THE COAST OF NOTO 2024/01/01/18:03
────(Aftershock M5.5 Intensity 5-)────
●OFF THE COAST OF NOTO 2024/01/01/18:08
────(Aftershock M5.8 Intensity 5-)────
●OFF THE COAST OF NOTO 2024/01/01/18:39
────(Aftershock M4.8 Intensity 5-)────
●IN NOTO 2024/01/01/20:35
────(Aftershock M4.5 Intensity 5-)────

 2024年の元日。
 能登半島を、巨大地震が襲った──

* * *

 ニュースを見た。
 この1月は年の初めにして色々なことが起こりすぎた。激甚災害に始まり、大規模な航空機事故、列車内での刺傷事件、政治資金を巡る議員の逮捕と会派の解散、放火事件の被告の死刑判決、半世紀前の指名手配犯の発見──昨今の世情の答え合わせみたいな大事件の釣瓶打ちは、今一つ陽気さを欠いた硬い報道をもって私たちの気分を暗くさせた。かといって表舞台に繰り出してまで明るさを振り撒こうとはカケラも思いませんけど。

 ところで『とおまど』フィーバーは正月を境に終わった。それはもちろん災害によるメディア自粛が一つの理由で、もう一つの理由がいくら突けどもうんともすんとも言わないこちらサイドの露出方針によるもの。遠慮を知らないテレビ屋根性もトピックの消費期限に関してはシビアで、災害で潮目が変わったのを境にそのしつこさは忽ち息を潜めた。今後どう漫才師としての露出を断っていこうか考えあぐねいていた私たちにとっては正直好都合であった。
 とはいえM-1チャンピオンの箔はそう簡単に剥がれるものではなく、13日放送の『M-1アナザーストーリー』改め『ひなザーストーリー』はしっかり好評を博した。なんでも褒めればいいと思っているプロデューサーの薄っぺらい激賞なんてまるで参考にならないが、聞くところによると絶賛一色とのことらしい。それはまあ、男臭い漫才師たちの漫才に賭ける熱い想いよりかは瑞々しいアイドルのオフショットの方がヒキがあろうものだ。雛菜がスマホでずっと撮影していた優勝直後の一部始終も、お笑い史上かつてないティーンムービーの煌めきとして無事消費されたみたいだし、総じてファン層の拡大に一役買ったのでは? どうでもいいけど。

 ニュースを見た。
 『とおまど』フィーバーで辛うじて覆い隠されていたM-1審査員長の醜聞もいよいよ露わとなり、活動休止の報によってその話題の存在感は無視できないものとなった。一昔前のお笑い界の権化ともいえるマッチョが誰かを泣かせていたなんて想像に易く、そういう圧倒的トップダウンな集権構造が私にお笑いを見限らせたともいえる。決勝の舞台で嗅ぎ取ったどうしようもない空々しさを思い返してみても、私の感性はあながち間違っていなかったと裏付けるばかりだ。
 彼がいなくなったところで次の彼が出てきてまた強権を振るうだけ。この構造はおいそれと変わらない。昔も今も、そしてこれからも、強きは弱きを喰らい肥え太っていく。搾取に脅かされる弱者は実力主義を歪な形で内面化していく。そしてそれをより下の者に振るう、その繰り返し。最悪な食物連鎖。生簀の魚には逃げ場がない。

 そんな生簀としての吉本興業の底も今や抜けつつある。此度の醜聞に対する初動の悪さは闇営業問題の頃から何一つ変わっていないコンプライアンス意識の低さを露呈したし、自社劇場から吉本以外の芸人を締め出す方針も多くのお笑いファンを失望させた。自前の権益を必死に囲い込まんとする愚策としての『鎖国』は、時代に取り残されゆく老舗の稚拙な醜態として映った。加えて、捨て鉢になった芸人による内幕暴露を握り潰す上層部のあからさまな火消しも話題を集めた。
 人の心を、魂のこもった表現を軽視する者たちに向けられる世間の目は冷たい。そんな企業、潰れるなら潰れるでいい。喜ぶ人だって多いでしょ、多分。なんなら次の大阪万博という泥舟と一連托生で大阪湾に沈んでくれればいい。

 大阪湾といえば丸一年前、淀川河口付近にマッコウクジラが迷い込んだニュースなんてのもあった。廃水に汚染され、水深も浅く、餌もない、どう考えてもクジラにとって劣悪な環境なのにね。
 その後どうなったのか、なんとなくそういうことを知ってそうな透に聞いてみたら、その迷いクジラは──ほどなく衰弱して、死んだ、らしい。
 遺骸は船で湾外に連れ出された。そしてどこかの沖合で、重りをつけて海底へと沈められた。訥々と語る透の表情には遠い外洋を思い描く感傷が浮かべられていて、たまには透からも物事を教わることもあるのかという驚きの傍ら、彼女の明らかな感情移入が少しばかり私の琴線に触れた。

 広い海からなぜ大阪に来たのか。なぜ息苦しいそこを死地に選んだのか。
 それは誰にもわからない。当のクジラにもきっとわからない。
 あのクジラは、あり得たはずの私たちの姿、なのかもしれない。

 …………
 ニュースを見た。
 ──今年1月、大阪湾ではまたも、迷いクジラの目撃情報が複数寄せられている、らしい。

* * *

「嫌」

「え〜〜〜
 円香先輩、冷たくない〜……?」

「なんとでも言って」

「いいじゃん
 やろうよ」

「無理」

「だ、ダメかな…………」

「ダメ」

 松の内の終わりと共に、私たちのアイドルとしての『いつも通り』も再び幕が開けようとしていた。
 しかしながら小糸がおずおずと持ちかけてきた提案はそれに水を差すものであり、私の眉を顰めさせた。
 気持ちはわかる。気持ちこそわかるものの、凡そ受け入れ難い。

「『地震』って聞いて、わたし
 被災地の人たちに何ができるかなって思って
 ……『寄席』って、思いついて」

「…………はぁ
 だから演れって?」

「…………う、うん」

 なんで被災地支援が『寄席』になる。芸能界への呪詛を振り撒いてチャンプを奪ったアイドル崩れが、そんなセンシティブな現場で人々の支えになれるわけがないでしょ。だいたい既に解散してしまった私たちコンビを再び引き摺り出すという他力本願が気に食わない。

「忘れないで欲しいのは
 あんたたちの悪ノリの後始末でM-1に出たんだってこと
 キツいこと言うようだけど、あたふたしてただけの小糸も同罪
 私は最大限責任を果たした 優勝という形でね
 その上でまた私に頼ろうとするのは筋が通らない」

「…………」

「それに、『被災地のために』って
 そう思ってるんだったらやめた方がいい
 その善意が現地に負担をかけるし、復旧活動の妨げになる
 他人のためなんて自己陶酔
 そんな奉仕的な気持ちがあるなら何もしない方がまし」

 NHKアナウンサーの絶叫に近い鬼気迫った避難指示は、正月の雰囲気で弛緩した私たちにことの大きさを知らしめるものであった。ツイスタを開いてみれば人間味のない有象無象の投稿が蛆虫のように湧いており、反面最も被害が大きかろう地域の情報がまるで見えてこないといった不気味な状態が続いた。険しい傾斜地が大半である能登半島の道路事情の悪さもあり、キー局による報道映像は地震発生から幾日か待つこととなった。

 そうして入ってきた惨憺たる現場の状況。土砂で寸断された道路。焼き尽くされた街。倒壊した建物。言葉を失ったし、酷く心を痛めた。何か、何かをしなければと、そう思わせる風景。
 年始休み明けに見かけた大崎姉妹──彼女らは北陸出身なのだという──の表情も浮かず、適切な慰めの言葉に悩んで私はついぞ声を掛けかねた。心配するアイドルたちに対して姉の方が『にへへ…… 富山には、「立山ブロック」があるから……!』と辛うじて虚勢を張っていたのもどこか痛ましかった。

 私たちに何ができるか。どんな行動が適切で、どんな行動がふさわしくないか。ネット上のあちこちではそういったリテラシーの踏み絵のような問いが交わされ続け、『及第解』を逸脱した者たちの勇み足がしばしば顰蹙を買った。
 個人の義援物資は選別にあたる行政職員を疲弊させ、直接搬入は渋滞を引き起こし緊急車両を足止める。自己承認の欲に衝き動かされた売名ボランティアは得てして助けにならない。何かを壊したり、失ったりさせてしまう……『偽善』は、『悪』そのものであると──

「ん〜〜〜……?
 ──でもみんなはそうして欲しいかな?」

「…………」

「雛菜、災害にあった人でもないし
 知らないけど〜〜〜
 助けてあげたくても無理して我慢して
 やめなさい〜ってこと〜?
 ……正しくて適切じゃないと、
 支援したってことにはならないの〜?」

「そんなの──……」

「…………
 雛菜もずっと災害にあった人のこと考えてた〜」

「……うん」

「だけどやっぱり他の誰かの気持ちにはなれない〜
 雛菜は雛菜で、みんなじゃないもん
 雛菜、警察にも消防にもなれない
 ……救助の人みたいに頑張れない」

「…………」

「知らないけどね〜?
 雛菜は雛菜の気持ちしか知らないよ〜……
 他の誰かにはなれないし
 雛菜はずっと雛菜でしかいられないでしょ〜〜〜
 だから雛菜は、雛菜がしあわせ〜って
 思える方を選ぶんだよ
 ……それじゃだめなの〜?」

「いや……それが、
 『当事者のしあわせ』な方なら反対しない
 そういうやり方が必要な時もあるかもだけど
 でも、きっとそれは今じゃない
 ──だって雛菜の『楽しい』って
 『苦しませる』ことじゃないでしょ?」

「…………なんだ〜〜〜
 そういうことか〜……
 円香先輩が言いたかったこと
 雛菜、勘違いしてたみたい
 意味がない〜とか、みんなと一緒に自粛しろ〜とか
 そういうことが言いたいのかと思ってた〜〜〜」

「……そうじゃない」

「…………
 ……い、『今』じゃなければいいんだよね……?」

「そうかもね
 ……でも、やるとは言ってない
 さっき言ったように、筋が通らない」

「そうだよね……
 …………
 ……だったら…………!」

「雛菜たちが漫才やる〜〜〜〜♡♡」

「…………!!!!」

「おー 『ひなこい』漫才だ
 いいね
 グーを差し上げます」

「これならいいよね……!
 円香ちゃん!」

「────
 ──…………
 ……いいんじゃない」

 確かにそれなら筋が通る。悪くない。何より、『ひなこい』の漫才を見てみたい。
 ……『とおまど』漫才の不安定すぎる輪郭に比して、その『あるべきかたち』はすぐにも浮かんできそうに思えた。小糸のありのままと、雛菜のありのままで、きっとひとりでに漫才となる────

「じゃあ円香先輩は
 雛菜たちを頑張ってプロデュースしてください〜〜〜!」

「…………は?」

「えへへ……
 プロデューサーさん……!」

「!!??」

「ふふ、プロデューサー
 元気出して」

「ぅぐおあああぁ………………………………」

 その…………
 その不愉快な呼び方をやめろ! 夢に出る!!

* * *

「…………
 自分は…………
 …………何に縛られることもなしに
 自由なものばかり作らせてもらってるって……感じます」

「……」

「彼女たちの気持ちに向かい合えるように……
 自由な形で、見守っていただいて……
 自分も……そのつもりで──────
 ────こんなこと
 何かひとつでも、彼女たちの力になれてから
 言うべきことだと、重々承知しているのですが────
 ──────ご相談があるんです」

「─────なるほど」

「……その
 どうでしょうか…………」

「────商談なら譲るつもりで持ってくるな
 それとも、相談と言ったか」

「……商談です
 これは……譲りません」

「───目は通した
 ……
 何を想像しているのかは知らんが──────
 ──────あれはラストステージだ」

「……
 そうかもしれないです。でも────
 ──────終わってないものが……あるように思うんです」

「……
 それで、始めようというのか」

(──────新たなキャンバスに描く、1本めを)

「……はい」

「…………始められるのか」

(描ききる覚悟はあるのか)

「………………
 ─────
 この提案が……何かを壊したり、失ったりさせてしまう
 そんなふうに思われるかもしれません
 覚悟は……できています
 これからみんなと作っていくのは、あのステージじゃない
 ────新しい『お笑い』だと思ってます
 新しい笑いが、たくさんの笑いをもっと眩しくしてくれて……
 ……たくさんの笑いが、新しい笑いとあたたかく溶け合っていく
 そんなふうになると、信じています
 ……提案資料をブラッシュアップしてきます」

「……」

* * *

 私と透は、『M-1グランプリ優勝賞金全額』を自主企画『被災地チャリティ寄席巡業』にぶっ込んだ。
 そしてその覚悟を担保に283プロダクションから同額を追加で引っ張り、総額2000万円規模のプロジェクトとする。

 内訳、その最たるもの。
 283アイドルを、買う──

 アイドルたちの数日を買い切り、各被災地域を巡業。学校などの指定避難所を高座とし、『演芸』と『炊き出し』を振る舞う。時期は主な交通系インフラの復旧と仮設公営住宅の配備完了が見込まれる春。私と透が自ら旗を揚げ、立案から実施まで公演ツアーをフルプロデュースするのだ。
 プロジェクトに必要な、移動バスチャーターから飲食宿泊までのアゴアシ・マクラ、美術資材・音響機材・調理器具・食料品・配布物といった諸々の物品手配及び管理、各自治体との調整、広報活動、進行プログラムの策定、現地手配什器のリスト化、動画配信、配信プラットフォームを中継するドネーションシステムのエンジニアリング、会場係、誘導係、受付係、進行係、機材係、記録係……気が遠くなる。考えなければならないことの多さは学校の委員会活動の比じゃない。しかし手は抜けない。プロデュースの瑕疵は『矢面に立つアイドル』にそのまま跳ね返ってくるからだ。

 イベントにはお金がかかる。人手も手間暇もかかる。人心を最大限尊重した繊細な指揮が求められる。ただの演者として割合気楽に踊るだけだった立場から一転、やらせる側という立場がまさかこんなに大変だとは思わなかったけど、頼りになる有志──283バラエティ三銃士──たちと七転八倒しながら企画書をなんとかまとめ上げ、プロデューサーに稟議を託した。

 社長の認可を待たず、演目監修の一環として『ひなこい』の漫才指導も進める。老若男女が対象であることやオリジナル台本の困難さを考慮し、結華さんの熱い布教によって押し売られた既存の傑作を原案として、ノクチル総出で現代風のリライトを施した。
 その原案とは上方漫才の最高峰と称される今亡き巨匠漫才師によるもの。教科書のように研ぎ澄まされた無駄のないネタに結華さんの確かな選球眼をみる。それでいてかつ、彼らのネタにはどことなく『ひなこい』の関係性を思わせるものがあった。いけると感じた。許諾がどうのとツッコまれそうではあるけど、芥川賞作品にも注釈なく引用されてるくらいなんだし、パブリックドメインでしょ。
 実践の面では、発声力・安定感・表現力・集中力・団結力……『とおまど』の戦歴の中で濃縮したノウハウを二人に継承していく。無論ネタ合わせにも立ち合い、ノウハウの発現を意識した『育成周回』を繰り返すことで『成長』と『振り返り』によるステータス向上をはかる。
 『ひなこい』だけじゃなく、他の283アイドルユニットのコントや漫才に対してもコメントを求められたり、大喜利の採点とかさせられたりなんかして。養成所の作家ネタ見せじゃないんだから……

 こういう慣れない立場をこなしてみて、強く再認識したことがある。
 プロデューサーとは、アイドルを思いのまま采配し育成する権能を持つ、責任者であり導き手なのであると。
 ……言うなれば、そう────

 ────『アイドルマスター』。

 その偉そうな肩書きには、アイドルが如何にして輝くかを左右する重責が伴う。それも一人ではない、全担当のそれが幾重にもなって肩にのしかかる。仮にこういう育成シミュレーションゲームがあったとしても、私はやりたくない。そんなの何が面白いわけ?


(陸でいたい)


 アイドルが失敗しないように、失敗したとて自らが防波堤となれるように、プロデューサーたるものは挺身せねばならない。アイドルを波から守らなければならない。


《「相対的に津波が低く」
 “海底隆起”で“津波軽減”か》


 けれども全てが好影響につながるとは限らない。采配がある側面を解決しても、また別の側面において致命的な打撃を加えることは往々にしてある。


《地盤隆起や津波で漁港・漁船被害甚大
 「被害の大きさが桁違い」》


 全ては手探りだ。それでも何もわからない未来に向かって、ただ自分の道を信じて進むしかない。担当アイドルの信頼と希望を一身に預かって。
 ……身に染みてわかった。プロデューサーって、楽じゃない商売。

 ともあれ──これが、私たちの『プロデュース』。
 私たちがここまでやったんだから、漢、見せてください。……『ミスター・アイドルマスター』。 


──────㉘ ひなこい、寄席に出る。



《……もう、50年は経っとろう
 ありゃいつやったか、万博の年やから》

《昭和の45やね》

《ほうか
 まんで甘いことなかったな、金沢出るがにも
 北鉄のバスやったろけ》

《今時分でもなん、そうやちゃ
 七尾線でなかったけ? なんよう憶えとらんがん》

《七尾線やったら津幡行っとらんなん》

《そうけ》

《ま、どっちでもいいちゃ
 ほいて、やっとこさい金沢出て
 金沢から『白鳥』乗って──────》


* * *

緋田「続いての演目
   いよいよ本日の『トリ』を務めます」
七草「──『夢路ひなな・喜味こいと』のご登場です!!
   どうぞ!!」

○ON STAGE 00:00:00
────(♪わたしの主人公はわたしだから! / 福丸小糸) ────
●ON STAGE 00:00:01

市川「雛菜はね〜」
福丸「うん」
市川「雛菜がしあわせ〜って思える食べものだけでいいの〜」
福丸「雛菜ちゃんは意外と食にうるさいんだね?」
市川「ん〜……
   確かに雛菜、すきなものしか見えなくなっちゃうとこある〜」
福丸「それなら、すきなもの食べたらいいんじゃないかな」
市川「すきなものっていっても、おんなじのずっとはやだな〜……」
福丸「そうかな?
   わたしなら、すきなものは一年中食べてられるかなぁ」
市川「へ〜〜〜〜?
   小糸ちゃんはすきなもの一年中食べるの〜〜?」
福丸「うん、食べるよ」
市川「小糸ちゃん、一体何がすきなの〜?」
福丸「お鍋」
市川「へ〜〜〜〜?」
福丸「お鍋!」
市川「………?」
福丸「お鍋が好きなんだ! えへへ……!
   もう一年中お鍋ばっかり食べてるの」
市川「……小糸ちゃん、お鍋食べてるの〜〜?」
福丸「わたしの好物はお鍋だから!」
市川「……じょうぶな歯だね〜〜
   鉄のお鍋、土鍋、どっちがおいしい〜?」
福丸「あ……!
   あのね、お鍋そのものじゃなくて……!」
市川「お鍋食べてるって言った〜〜」
福丸「だ、だから
   お鍋の中に入れて食べなきゃ……!」
市川「お鍋の中に、お鍋入れて食べるの〜〜?」

●ON STAGE 00:01:00

福丸「お鍋は食べないの!」
市川「お鍋食べるって言った〜〜!」
福丸「あ、あのね
   つまり鍋料理が好きなの……!」
市川「鍋料理……」
福丸「鍋料理」
市川「なんだ〜〜、鍋料理は有名だね〜」
福丸「うん、有名だからね」


《──大阪着いたら日い暮れかかっとったわいね》

《若い時分やからそんでよかったんげん
 泊まった宿も梁やか柱やか傾がっとったわ
 まんで安いもんやから安普請で》

《なん、家と変わらんねか言うてな》

《しまいに潰れっしもうたねか、家は》

《………………》

《だら、こうして居んがいからいいねか
 万々や、神様仏様やちが》

《普段よう参らんくせに何を言っとらっさるがやろけ──》


市川「鍋料理っていうのは種類があるんでしょ〜?」
福丸「たくさんあるよ」
市川「代表的なのは〜?」
福丸「う〜ん……
   いちばん簡単にやれるのは鳥鍋かな……!」
市川「鳥鍋っていうのは、お鍋の中へ鳥が入ってるの〜?」
福丸「と、鳥を入れるから鳥鍋なんじゃないかな……?」
市川「どんな鳥が入ってるの〜?」
福丸「一応、鳥を入れれば……」
市川「オウムなんかは〜?」
福丸「ぴぇっ……」
市川「ハトとか〜」
福丸「た、食べられる鳥を入れなきゃ……」
市川「食べられる鳥って〜〜?」
福丸「と、鳥鍋に入れる鳥なんて決まってるよ!?
   西日本では、カシワなんていうらしいけど……」
市川「……鳥鍋に入ってる鳥はカシワ〜?」
福丸「そういう呼び方もするみたいだね」
市川「カシワって、どういう鳥なの〜〜?」

●ON STAGE 00:02:00

福丸「……赤いトサカが生えててね、コッコッコッコって、
   卵を生んで、卵が孵って、ひよこになって、育って、
   赤いトサカが生えて、コッコッコ、ポトン、
   卵を生んで、た…………止めて……!!」
市川「これ、聞かなくていいやつだった〜」
福丸「……もう!!」
市川「雛菜、小さな子どもじゃないのに〜」
福丸「わかってるよ!」
市川「雛菜は大人だよ〜?」
福丸「大人……でもないかな……?
   背は高いけど……」
市川「小糸ちゃんも高校生っぽくないよね〜」
福丸「えっ そ……そう? えへへ……
   わたししっかりしてるからかなぁ!
市川「あは〜〜……?
   小糸ちゃんが今やったのは、コケコッコーでしょ〜?」
福丸「う、うん、ニワトリだよ……!」
市川「ニワトリくらいわかる〜〜!」
福丸「わかってたら言ってよ!?」
市川「カシワがわかんないから聞いてるの〜!
   カシワってどんな鳥〜?」
福丸「カシワもニワトリもいっしょ!」
市川「へ〜〜〜?」
福丸「カシワもニワトリもいっしょ!!」
市川「カシワとニワトリ、ふたつも名前があるの〜〜?」
福丸「デビュー前の本名がニワトリで、デビュー後の芸名がカシワ!
   ニワトリの芸名はカシワだから!」

●ON STAGE 00:03:00

市川「小糸ちゃん……
   芸能界のことおっきいお肉屋だと思ってる〜?
   雛菜そういう業界鍋きらい〜」
福丸「ぴぇ……!? ぎ、業界鍋……!?」


《──……ははは
 心掛けようないがや、そうや
 やから万博見らりんかったがよ》

《あんたが行っとられん言うたがいねか》

《ええ?》

《5時間待ち、6時間待ちやいの
 ほんなワヤクソなことあるかー言うて
 なん待っとられん言うて
 じら捏ねとったがはあんたや》

《そんな童びしいことなん言わん》

《んふふふ、言うとったわ
 ほんで『寄席』行ったがやったね
 おいそから大阪まで出て来て
 何も見んで帰るがはおとましいげん》

《ほうや
 梅田寄ったがや
 東宝の『コマ・モダン寄席』──》


市川「他はどんなお鍋が好き〜?」
福丸「鳥鍋の他には、すき鍋とか……」
市川「雛菜はすきなお鍋の種類を聞いてるの〜〜!!」
福丸「すき鍋のすきって好き嫌いのことじゃなくてね……!?
   あとはあれかなぁ、ボタン鍋とか……」
市川「へ〜〜〜??
   ボタンちぎって食べるの〜〜?」
福丸「イノシシのこと!!」
市川「ボタンがイノシシなの〜〜?」
福丸「デビュー前はイノシシ、デビューしたら芸名がボタン!
   イノシシの芸名はボタンだから!」
市川「また業界鍋〜〜……
   他はないの〜?」
福丸「え〜っと…… う〜ん……」
市川「あ、サクラ鍋は〜?」
福丸「……! 食べたことない……!」
市川「それはそうだよね〜〜」
福丸「どうして?」
市川「透先輩の名前だもん〜」
福丸「あさくら鍋ってこと!? 人間入れちゃダメ!!
   サクラ鍋は馬肉のお鍋のことだからね?!」
市川「やっぱり雛菜、お肉なら焼くのが好き〜〜」
福丸「あ、焼くのがいいんだね……! いいのがあるよ!」
市川「何〜?」
福丸「ジンギスカン! おいしいよ」
市川「へ〜〜〜?」

●ON STAGE 00:04:00

福丸「ジンギスカン!」
市川「小糸ちゃんは雛菜に好かんもん食え言うとる〜〜?」
福丸「なななんで急に訛ったの!?
   月岡さんみたいになってるよ……!
   じ、ジンギスカンっていう料理があるの!」
市川「なんのお肉〜?」
福丸「ヒツジ」
市川「ヒツジって?」
福丸「ヒツジはヒツジだから!」
市川「だからヒツジって〜〜!」
福丸「ヒゲを生やしてメーメー鳴いてるいきもの!」
市川「ヒツジはヒゲを生やしてメーメー鳴かないよ〜〜?」
福丸「鳴くよ!?」
市川「メーメー鳴いてるのはヤギでしょ〜〜?」
福丸「……あ」
市川「ヒツジはメーメー鳴かない〜〜」
福丸「…………っ
   じ、じゃあ、ヒツジはどう鳴くの……?」
市川「ヒ〜ツジ、ヒ〜ツジ……」
福丸「い、いい加減なこと言わないでっ!?」


《──なんやしてそんなとこ
 行くがなら『花月』とかにせんけ思たけど》

《殿様商売には品ちゅうもんがないわ
 胡座かいとる》

《ちゃべちゃべと偉そうに
 そんかしあんた、貼ったる名前らち
 なんもかんも知っとったったちゃ
 あれが誰やこれが誰や言うて》

《あれや、あのー……
 エネーチケーのラヂオの
 ……『上方演芸会』や
 よう聞いとった》

《このっさんなんちゅう詳しいがやろけ思た》

《聞いとったらわかろうがい》

《なーんよ
 あんただけや
 でも『いとこいさん』はわかった──》


市川「そしたら〜〜、ヒツジの芸名がジンギスカン」
福丸「ううん、ヒツジの芸名はマトンかラムだから……!」
市川「ん〜〜……
   じゃあ、お店屋さんに行かないと食べられないのか〜〜」
福丸「お家でやれるよ!
   わたしの家でもしょっちゅうやってるし……!」
市川「雛菜でもやれる〜〜?」
福丸「うん、誰でもできると思うよ!」
市川「へ〜? ん〜……
   雛菜、普段あんまりお料理ってしないけど〜」
福丸「……!」
市川「でも、レシピ聞けば大体できると思うな〜!」

●ON STAGE 00:05:00

福丸「ええと……
   雛菜ちゃんち、ジンギスカン鍋ある?」
市川「へ〜〜〜〜?」
福丸「あの……
   ジンギスカン鍋、お家にあるかな……?」
市川「ジンギスカン料理を知らないのに、
   どうしてお鍋があるの〜〜?」
福丸「あ…… そ、そっか……!」
市川「ちゃんと常識で考えて〜〜」
福丸「し、辛辣だね……! ごめんね……!
   えと……、お鍋がなかったら、なにか鉄板ない?」
市川「あは〜〜、お好み焼きのこういう鉄板がある〜」
福丸「あ、それで大丈夫!」
市川「これでいいの〜?」
福丸「その上にヒツジを乗せたらジンギスカンだよ」
市川「雛菜乗らないと思う〜……
   こんな小さな鉄板にどうやって乗せるの〜〜?」
福丸「い、一匹丸ごとじゃなくて!
   ヒツジの芸名を買ってくるの!」
市川「また業界〜……」
福丸「マトンかラム!」


《──『いとこいさん』なあ
 思いがけんかったな、ツキが良かったちゃ
 ちょうど上部の演目で出とらっさったげん》

《後はなん、知らん
 落語も漫才もよけ知らん》

《ほんなが言うて
 あとあとでよう聞くようなったねか》

《なん『いとこいさん』出とるがだけや、わたしゃらちは
 ほっでないがやったらピンと来ん
 あんたもそうやろ
 後にも先にもあんな面白いが、なーん聞かん》

《そうかもしれん──》


市川「わかったからやり方教えて〜?」
福丸「う、うん……
   えと、油を使うから……」
市川「油〜」
福丸「食卓が汚れないように、まず準備として新聞を敷くの」
市川「新聞〜?」
福丸「新聞」
市川「雛菜のうちの新聞、電子版だよ〜?」
福丸「そしたら古雑誌とかでもいいから……」
市川「どんな雑誌敷いたらいい〜?」
福丸「どれでもいいと思うよ……!?」

●ON STAGE 00:06:00

市川「小糸ちゃんはしょっちゅうやってるからそう言うけど、
   雛菜初めてだから〜〜〜〜!!!」
福丸「ぴゃ!?」
市川「Vocal流行雑誌がいいよとか、
   Dance流行雑誌がいいよとか、
   Visual流行雑誌がいいよとか、
   ちゃんと言ってもらえたらやりやすいかも〜〜〜〜!!!」
福丸「そ、そんなに大きい声出すことかなぁ……
   そしたら指名したらいいの……?」
市川「うん〜〜〜〜!!!」
福丸「えと……
   そしたら、Dance流行雑誌を敷いて」
市川「Dance流行雑誌〜?」
福丸「Dance流行雑誌」
市川「雛菜、歌がそんなにだから
   Vocal流行雑誌のほうがいいかな〜」
福丸「じゃあそれ敷いて!!!」
市川「あは〜〜〜」
福丸「そしたらそこへ今度はガスコンロを持ってきて置くの」
市川「雛菜のうち、ガスない〜〜」
福丸「ガスないの!?」
市川「うちね〜?」
福丸「う、うん」
市川「IHなんだ〜〜」
福丸「あ、オール電化なんだ……」
市川「ガスがないの〜」
福丸「ど、どうしよう、コンロがないと……」
市川「火がつけばいいの〜?」
福丸「うん、一応……」
市川「テンションアロマ(3個入り)ならある〜〜」
福丸「火力足りないね……
   ホタルイカ炙るぐらいしかできないかな……」
市川「発想が北陸の呑んだくれみたいでやだ〜〜……」

●ON STAGE 00:07:00

福丸「そ、そしたらIHの上でいいから……」
市川「──IHの上にホットプレートを置いて〜」
福丸「ぴぇ!?
   ホットプレートあったの!? 言ってったら!!」
市川「お好み焼きの鉄板って普通それのことでしょ〜〜?
   常識で考えて〜〜!!」
福丸「ま、また辛辣だね……! ごめんね……!」


《──……『青春』やちゃ、あれがわたしゃらちの》

《だらくさ
 な〜〜にをげっさなこと言うとんがい……
 ──『30過ぎた男をつかまえて』》

《──『君、30過ぎけ?』》

《──『ほな君は僕がまだ30過ぎとらんちゅうんか』》

《──『なん、そんなことない
 もう80やねか、わたしゃらちは』》

《……はははは
 よう覚えとるもんや》

《んふふふ》

《…………》

《……また聞きに行ってもいいがかもしれんね
 ────『漫才』を》

《……ああ、逝かんうちにの──》


市川「続きは〜?」
福丸「そ、そうだね……!
   ホットプレートを食卓の上に置いて、熱くなったら」
市川「熱くなったら〜」
福丸「油をじゅうじゅうじゅうって塗る……!」
市川「え〜〜…… いや〜〜〜〜」
福丸「どうして!?」
市川「この料理でこれが一番難しい〜〜……」
福丸「難しいことないよ……?
   ホットプレートの上へ油をじゅうじゅう塗るだけだよ?」
市川「小糸ちゃんは簡単に言うけど〜、
   焼けた鉄板の上へ指の先で油じゅうじゅうじゅう……
   ……熱すぎて無理〜〜〜!!」
福丸「誰も指で塗れって言ってないよ!?」
市川「やったでしょ〜〜?」
福丸「格好だけだよ!?」
市川「ちゃんと教えて〜?」
福丸「……油引きに油を付けて」
市川「何〜? その油引きって〜」
福丸「えっと……
   関西では『ぼんぼらさん』ともいう……?
   ……??……?」
市川「ますます何〜〜〜〜????」
福丸「う、うん、ごめんね!?
   これはわたしもよくわかんないや……」

●ON STAGE 00:08:00

市川「お好み焼きの油ひくやつ〜?」
福丸「知ってたら言って!?
   油を付けて」
市川「付けて〜」
福丸「鉄板の上へじゅうじゅうじゅうと塗るの」
市川「じゅうじゅうじゅうじゃないとだめ〜?」
福丸「ぴぇ?」
市川「にーちゅにーちゅでも」
福丸「なんでもいいと思うけど……」
市川「あは〜〜
   ──『塗りたて♡にーちゅ』!!」
福丸「お、怒られても知らないからね……!?
   ……塗ったんだね?」
市川「塗った〜〜」
福丸「しばらくするとこの油が踊るから」
市川「へ〜〜〜〜???」
福丸「しばらくしたら油が踊るから!」
市川「雛菜が歌うたえばいいの〜〜?」
福丸「ちがうの、油が跳ねるのを踊るっていうの!」
市川「あ〜
   だからDance流行雑誌のほうがよかったんだ〜?」


《──ほいたら行ってみますけ
 今度来たってや『チャリティー寄席』》

《……やれやれ
 お手並拝見といかんまいか
 ……『夢路ひなな・喜味こいと』
 『ひなこいさん』の────》


福丸「それでいいよもう……
   そして、油が踊りだしたら」
市川「踊りだしたら〜」
福丸「ヒツジの芸名、マトンを乗せて
   表が焼けたら裏を焼いて、裏が焼けたら表を焼いて」
市川「お肉の裏表はどう見分けるの〜?」
福丸「知らないよ!!
   すきに焼いてタレつけて食べて!」
市川「すき焼き〜?」
福丸「ジンギスカン!!」
市川「あは〜〜♡
   ゆうべ食べた〜〜〜〜♡」
福丸「もういいよ!!」

●ON STAGE 00:08:58
○ON STAGE 00:08:59
──終了。

* * *

「…………
 …………っ……!!」

 万雷の拍手の中、客席に紛れる私たちの近くに座っていた老爺が、ネタを聞き届けたあと堰を切ったような嗚咽を漏らした。その傍らに寄り添う伴侶とみられる老婆が宥めるように彼の背中をさする。拭われずに彼の腿あたりへと落ちた二人の涙滴は喝采の轟音に紛れてぱたぱたと鳴り、もう随分くたびれて水を弾かなくなったナイロン地の染みとなった。

──────終 笑っておけばなんとかなる


「……『いとこいさん』出とられとったがいね」

「……ええ、まんで笑うた、面白かったぎ」

「……それを、あんな」

「…………」

「あんな、えじゃけない子らが
 ……いっしょ懸命に
 …………っ」

「────
 ……ええ、あんながもう
 泣いていいがか笑うていいがかわからん」

 漫才は人を泣かせることもある。人を傷つけることもある。災禍に見舞われたこの地においてはなおさらだ。少なくとも老夫婦の涙が悲しみのそれでなかったことに安堵し、歓声轟く体育館の会場を見渡す。
 漫才師というにはあまりにも幼い『ひなこい』の敢闘は、私たちを含め来場者の心を強く打った。くるくると表情を変えながら展開する息の合った二人のやりとりは、他のどんなコンビのネタよりも優しく、温かく、まさしく映像で観た往年の『いとこい漫才』を思わせた。ネタはほとんどそのままだけど、もちろん技術なんて到底及ばないけど、二人は見事に至芸のニュアンスを継承してみせた。それは一つの……『あるべきかたち』だ。
 なんて、……なんて誇らしいのだろう! 目を瞑り、周囲に遅れてゆっくりと噛み締めるように柏手を打つ。まだ喝采は止まない。

七草「ありがとうございましたー!!
   いやー素晴らしかったですねー
   なんだか私もお鍋食べたくなってきちゃいましたよー」
緋田「そうだね
   ちなみに今、校庭ではネタになぞらえて
   『鍋』の炊き出しを用意しています」
七草「えっ……!?
   それって……『寄席鍋』ってことですか!?」
緋田「??
   ええと
   献立は『寄せ鍋』じゃなくて、『鳥鍋』みたいだね」
七草「あ…… あの、その
   『寄席』で『鍋』を出すことと
   『寄せ鍋』が掛かってて……
   ……誰か助けてください!!!!」

三峰「ちょーっと待ったー!!」
七草「うわっ本当に来た」
園田「皆さんもお腹すいてるだろうけど……
   まだ『鳥鍋』、もうチョコっとだけ
   中まで火が通ってないんじゃないですかー?」
三峰「ねー
   『鳥』はカンピロバクターの心配があるので
   じっくり加熱しておかないとですから!」
七草「なんでちょっと不安にさせるんですか」
三峰「安心してください!
   うちのこがたんがしっかり毒味してくれてます!」
七草「せめて味見って言ってください」
三峰「あとはこう、時間稼ぎをね……!」
七草「身も蓋もないなー」
園田「でも、もう『トリ』が終わっちゃったし……」
三峰「……『嬉シーズ』にもっかい漫才演ってもらっちゃう!?」
緋田「いいよ」
七草「ちょちょちょちょちょやめてください!!
   助けに入ってくれたんじゃないんですか!?
   あと『トリ』と『鳥』ややこしいんで!」
三峰「あっはは
   2回目スベるのはちょっと助けらんないぞー?」
七草「あの!!
   そう言うとそういう風になるので!!」
園田「でも皆さん……
   実は……
   さっきの漫才、『トリ』じゃないんです!」
緋田「そうだね
   ……『ジンギスカン』だったからね」
七草「ほら!
   弊害が発生してるじゃないですか!?」
三峰「ごめんって!
   ──ええと、そう、つまり実は……
   ラストにもう1組!
   シークレットゲストが控えているのです!!」
園田「控えおろう控えおろう!!」
七草「意味違いますって
   まんま武士じゃないですかもう」

三峰「やいやい言うとりますけども!!
   さあ────
   最後の一組を発表させていただきます!!
   本日の『大トリ』はこちら!!」

 ほんの一瞬だけ結華さんがいたずらな視線をこちらに投げかけてきたことで、私は全てを悟った。
 高座の下手脇に置いてあるメクリ。本来トリだったはずの『夢路ひなな・喜味こいと』の紙札が音を立てて剥かれると、そこには紙幅から躍り出んばかりの堂々たる『とおまど』の寄席文字が筆書されていた。出囃子として私たちの曲までかかってくる。
 今回において私たちは『プロデューサー』という立場で客席後方に引っ込んでるんだから、空気読んでそのまま放っておいてよ。ていうかこんなしっかり準備が整ってるんだから、さっきの茶番も初めから仕組まれてたってことでしょ。さすが『283バラエティ三銃士』というべきか、ベタベタでありながらまるで台本を感じさせない完璧な演芸話術が余計腹立つ。
 …………はぁ、真打登場は外せないってわけ?

 厚ぼったいベンチコートに身を包んでいることで、周囲はまだ私たちのことに気付かず高座に注目を集める。思わぬサプライズゲスト発表で色めき立つ会場の片隅で、例の老夫婦はこちらに聞こえるか聞こえないかぐらいの囁き声をもって言葉を交わした。

「えらい詳しい人居るがみたいね」

「……ニクいな、ようわかっとるわ」

「トリ断ってやもんねえ、『いとこいさん』は
 あんときの寄席もそうやったね
 ……真打は確か────」

「「──────『海原お浜・小浜』や」」

(………………!
 ────
 ──……ふうん?)

 老夫婦が声を合わせて放ったその名は海原一門の開祖。私たちのコンビ結成時から何かとちらつく『海原』の亭号にどこか因縁めいたものを感じずにおれない。しかもまさか『いとこい』と劇場被りしてたとは思いがけない巡り合わせだ。
 まさかこれも結華さんの計算? あの人の方がよっぽどプロデューサーに向いているのではと半ば呆れつつ舌を巻いていたら、隣で聞いていた透が水入らずの会話に突然割り込む。

「ねえ
 おじいちゃん、おばあちゃん」

「ちょ、あんた」

「知ってるよ、それ
 ラスボスでしょ 『海原』の」

「やめなって 引っ込んでろ
 すいませんね本当にもうこいつは
 ていうか何、言い方
 海賊王みたいな」

「倒すから うちらが」

「おい」

「見ててよ」

 透、そういうとこだからね。
 完全に演らなきゃいけなくなっちゃったでしょ。

「──…………!
 ……うん、うん
 …………いってこられ」

「────おう
 ここで見とるから
 二人で」

「…………はぁ
 ……
 では……
 ──いってきます」

 立ち上がり、颯爽とベンチコートを脱ぐ。
 折り目正しいスーツ姿の私たちが客席から突如立ち現れたことで、一帯が悲鳴にも近い熱狂でどよめく。

「ふふっ
 やる気満々だったんじゃん、樋口も」

「違う
 これは『正装』だから──
 ……『プロデューサー』としてのね」

* * *

○ON STAGE 00:00:00
────(♪いつだって僕らは / ノクチル)────
●ON STAGE 00:00:01

両者「「どうも〜〜」」
浅倉「浅倉透と」
樋口「樋口円香で」
両者「「とおまどです、よろしくお願いしまーす」」

 白昼の体育館という高座からは、客席一人一人の顔がよく見える。
 大規模ステージや収録スタジオの煌々としたスポットは確かに『私たち』を照らしてきたけど、反対に観客の顔を暗がりに押し込んで覆い隠した。その分『寄席』はある意味ちょっとフェアだ。観客に向かい合うことについて『こっちが見てたって感じだったから』と述べていた透の真意も、ここならばなんとなくわかる。
 5、6限目の特別公演に目を輝かす在校生や、平日にも関わらず興行初回を目掛けて足を運んでくれた地域の人々。目の前の一人一人に生活があり、人生があり、それぞれの苦労があるということ。笑いに綻びる表情の中にも、苦しい日々の中で蓄積された悲しみや疲れが滲み出る。それがよく見える。私たちのしていることは、皆々にとって直接の支えにならない……そう強く感じる。

 ──この傾きかけた国の、度重なる災禍で荒廃しつつある社会の前途は決して明るくない。絶望と諦念が支配する世に輝きを届け、鬱屈した世界を切り拓いていこうと立ち上がったとしても、現実は甘くない。それは非常に困難で、しばしば無力感や痛みを伴う。そして時に他者を傷つけうる。
 だからといって、戦える力を備えた者の使命はやはり戦うことなのだ、それが恵まれた私たちの責任なのだ──だなんて、そんな悲壮な覚悟を振り翳すのは好きじゃない。『誰かのために』と持てる人々が声高らかに鬨をあげて戦えども、やっぱりこの社会はちっとも良くならない。

(他人のためなんて自己陶酔
 そんな奉仕的な気持ちはない
 もちろん自己承認の欲もない
 ──特に飢えてはいなかったから)

 そしていくら恵まれていたとて、結局私たちにできることは少ない。
 確かに誰かの涙は拭えるかもしれない。でもその涙の根源に踏み込むことは難しい。所詮他人に過ぎないのだから、『わかってあげられる』と思ってしまうことこそが傲慢だ。
 暖かい場所でぬくぬく過ごす、飢えも渇きも世間も知らない私たちが、何かした気になって自尊感情を満たすことほど空々しいものはない。大きな悲しみに際しては尚のことそうでしょ。そもそも漫才なんて腹の足しや傷の手当てになるわけじゃなし、衣食住を支える生活再建支援を前にせいぜいエンタメは後塵を拝するしかない。被災地に何かできるなんて、勘違いするな。

(でも、そうしたことより
 体が演りたいと言っている
 私はその衝動で演る
 誰のためでもない)

 もちろん私たちの漫才はハナから自分本位のものだし、他者に捧ぐものだと偽る気はさらさらない。誰かを励ますためでもない、癒すためでもない、まして皆さんの悲しみに寄り添った漫才です、なんて、口が裂けても言えない。それこそ自己陶酔ってもんでしょ。

浅倉「私たち、アイドルやってて」
樋口「幼なじみの4人でね」
浅倉「ずっと一緒でさ」
樋口「小さい頃からね」

 ただどうやら不思議なことに──
 私たちのネタを聞きたい人がいる。
 私たちのネタで心の底から笑いたい人がいる。
 私たちのネタで立ち直ろうとする人がいる。
 なぜか、ね。
 ずいぶんな物好きですね──
 私たちが戯れ合っている様を見て励まされるようなことがあれば……まあそれでいいんじゃない? 知らないけど。

(そういう誰のためでもないネタだから────
 それを聞く『ひとりひとり』のネタになれ)

浅倉「すごいあった 色んなことが」
樋口「うん」
浅倉「ねっ」
樋口「袖に話しかけんな」

 じゃあ何のため?
 強いていうなら──

 透と笑うために。
 小糸と、雛菜と笑うために。
 283プロのみんなと笑うために。
 集まった全ての人と笑うために。
 私たちが生きていく、少しでも明るい未来のために。
 ずっと、ずっと笑っていられるように。

 ……ついでに、桜が綻ぶ春の校庭で、美味しい鍋料理をつつくために。

市川「あは〜〜♡
   雛菜もそっちでしゃべる〜〜!!」
福丸「ぴぇ!?」
市川「行こ! 小糸ちゃんも〜!」
福丸「……う、うん!!」
浅倉「ウェルカム」

(そして、それを聞きたいと集まった人がいることを)

 殊更意識するでもない、つもりだけど。
 幼なじみだけのちっぽけな世界から始まった物語が……
 誰のためでもない笑いが、こんな風に勝手に少しずつ広がっていって。
 そうして、いつの間にか……誰をも包み込む笑いの輪になれ。

樋口「何この漫才 自由すぎる」

(私は)

 こう思う。
 こんなどうしようもない世界でも、きっと。

浅倉「しゃー いくか」

 きっと──────

浅倉「浅倉透と」
樋口「樋口円香と」
福丸「福丸小糸と……!」
市川「市川雛菜で〜〜!

(私たちは)

全員「「「「ノクチルです、よろしくお願いしまーす!!」」」」

 ────笑っておけばなんとかなる。

終 


──────● ピックアップコンテンツ(7)


【夢路ひなな・喜味こいと】
チャリティ寄席ネタ
タイトル: 『わたしの好物はお鍋だから!』
ネタ時間: 08:59
開催日程: 2024/04/12
開演時間: 13:30
開催会場: 詳細非公開

○ON STAGE 00:00:00

市川「雛菜はね〜」
福丸「うん」
市川「雛菜がしあわせ〜って思える食べものだけでいいの〜」
福丸「雛菜ちゃんは意外と食にうるさいんだね?」
市川「ん〜……
   確かに雛菜、すきなものしか見えなくなっちゃうとこある〜」
福丸「それなら、すきなもの食べたらいいんじゃないかな」
市川「すきなものっていっても、おんなじのずっとはやだな〜……」
福丸「そうかな?
   わたしなら、すきなものは一年中食べてられるかなぁ」
市川「へ〜〜〜〜?
   小糸ちゃんはすきなもの一年中食べるの〜〜?」
福丸「うん、食べるよ」
市川「小糸ちゃん、一体何がすきなの〜?」
福丸「お鍋」
市川「へ〜〜〜〜?」
福丸「お鍋!」
市川「………?」
福丸「お鍋が好きなんだ! えへへ……!
   もう一年中お鍋ばっかり食べてるの」
市川「……小糸ちゃん、お鍋食べてるの〜〜?」
福丸「わたしの好物はお鍋だから!」
市川「……じょうぶな歯だね〜〜
   鉄のお鍋、土鍋、どっちがおいしい〜?」
福丸「あ……!
   あのね、お鍋そのものじゃなくて……!」
市川「お鍋食べてるって言った〜〜」
福丸「だ、だから
   お鍋の中に入れて食べなきゃ……!」
市川「お鍋の中に、お鍋入れて食べるの〜〜?」
福丸「お鍋は食べないの!」
市川「お鍋食べるって言った〜〜!」
福丸「あ、あのね
   つまり鍋料理が好きなの……!」
市川「鍋料理……」
福丸「鍋料理」
市川「なんだ〜〜、鍋料理は有名だね〜」
福丸「うん、有名だからね」
市川「鍋料理っていうのは種類があるんでしょ〜?」
福丸「たくさんあるよ」
市川「代表的なのは〜?」
福丸「う〜ん……
   いちばん簡単にやれるのは鳥鍋かな……!」
市川「鳥鍋っていうのは、お鍋の中へ鳥が入ってるの〜?」
福丸「と、鳥を入れるから鳥鍋なんじゃないかな……?」
市川「どんな鳥が入ってるの〜?」
福丸「一応、鳥を入れれば……」
市川「オウムなんかは〜?」
福丸「ぴぇっ……」
市川「ハトとか〜」
福丸「た、食べられる鳥を入れなきゃ……」
市川「食べられる鳥って〜〜?」
福丸「と、鳥鍋に入れる鳥なんて決まってるよ!?
   西日本では、カシワなんていうらしいけど……」
市川「……鳥鍋に入ってる鳥はカシワ〜?」
福丸「そういう呼び方もするみたいだね」
市川「カシワって、どういう鳥なの〜〜?」
福丸「……赤いトサカが生えててね、コッコッコッコって、
   卵を生んで、卵が孵って、ひよこになって、育って、
   赤いトサカが生えて、コッコッコ、ポトン、
   卵を生んで、た…………止めて……!!」
市川「これ、聞かなくていいやつだった〜」
福丸「……もう!!」
市川「雛菜、小さな子どもじゃないのに〜」
福丸「わかってるよ!」
市川「雛菜は大人だよ〜?」
福丸「大人……でもないかな……?
   背は高いけど……」
市川「小糸ちゃんも高校生っぽくないよね〜」
福丸「えっ そ……そう? えへへ……
   わたししっかりしてるからかなぁ!
市川「あは〜〜……?
   小糸ちゃんが今やったのは、コケコッコーでしょ〜?」
福丸「う、うん、ニワトリだよ……!」
市川「ニワトリくらいわかる〜〜!」
福丸「わかってたら言ってよ!?」
市川「カシワがわかんないから聞いてるの〜!
   カシワってどんな鳥〜?」
福丸「カシワもニワトリもいっしょ!」
市川「へ〜〜〜?」
福丸「カシワもニワトリもいっしょ!!」
市川「カシワとニワトリ、ふたつも名前があるの〜〜?」
福丸「デビュー前の本名がニワトリで、デビュー後の芸名がカシワ!
   ニワトリの芸名はカシワだから!」
市川「小糸ちゃん……
   芸能界のことおっきいお肉屋だと思ってる〜?
   雛菜そういう業界鍋きらい〜」
福丸「ぴぇ……!? ぎ、業界鍋……!?」
市川「他はどんなお鍋が好き〜?」
福丸「鳥鍋の他には、すき鍋とか……」
市川「雛菜はすきなお鍋の種類を聞いてるの〜〜!!」
福丸「すき鍋のすきって好き嫌いのことじゃなくてね……!?
   あとはあれかなぁ、ボタン鍋とか……」
市川「へ〜〜〜??
   ボタンちぎって食べるの〜〜?」
福丸「イノシシのこと!!」
市川「ボタンがイノシシなの〜〜?」
福丸「デビュー前はイノシシ、デビューしたら芸名がボタン!
   イノシシの芸名はボタンだから!」
市川「また業界鍋〜〜……
   他はないの〜?」
福丸「え〜っと…… う〜ん……」
市川「あ、サクラ鍋は〜?」
福丸「……! 食べたことない……!」
市川「それはそうだよね〜〜」
福丸「どうして?」
市川「透先輩の名前だもん〜」
福丸「あさくら鍋ってこと!? 人間入れちゃダメ!!
   サクラ鍋は馬肉のお鍋のことだからね?!」
市川「やっぱり雛菜、お肉なら焼くのが好き〜〜」
福丸「あ、焼くのがいいんだね……! いいのがあるよ!」
市川「何〜?」
福丸「ジンギスカン! おいしいよ」
市川「へ〜〜〜?」
福丸「ジンギスカン!」
市川「小糸ちゃんは雛菜に好かんもん食え言うとる〜〜?」
福丸「なななんで急に訛ったの!?
   月岡さんみたいになってるよ……!
   じ、ジンギスカンっていう料理があるの!」
市川「なんのお肉〜?」
福丸「ヒツジ」
市川「ヒツジって?」
福丸「ヒツジはヒツジだから!」
市川「だからヒツジって〜〜!」
福丸「ヒゲを生やしてメーメー鳴いてるいきもの!」
市川「ヒツジはヒゲを生やしてメーメー鳴かないよ〜〜?」
福丸「鳴くよ!?」
市川「メーメー鳴いてるのはヤギでしょ〜〜?」
福丸「……あ」
市川「ヒツジはメーメー鳴かない〜〜」
福丸「…………っ
   じ、じゃあ、ヒツジはどう鳴くの……?」
市川「ヒ〜ツジ、ヒ〜ツジ……」
福丸「い、いい加減なこと言わないでっ!?」
市川「そしたら〜〜、ヒツジの芸名がジンギスカン」
福丸「ううん、ヒツジの芸名はマトンかラムだから……!」
市川「ん〜〜……
   じゃあ、お店屋さんに行かないと食べられないのか〜〜」
福丸「お家でやれるよ!
   わたしの家でもしょっちゅうやってるし……!」
市川「雛菜でもやれる〜〜?」
福丸「うん、誰でもできると思うよ!」
市川「へ〜? ん〜……
   雛菜、普段あんまりお料理ってしないけど〜」
福丸「……!」
市川「でも、レシピ聞けば大体できると思うな〜!」
福丸「ええと……
   雛菜ちゃんち、ジンギスカン鍋ある?」
市川「へ〜〜〜〜?」
福丸「あの……
   ジンギスカン鍋、お家にあるかな……?」
市川「ジンギスカン料理を知らないのに、
   どうしてお鍋があるの〜〜?」
福丸「あ…… そ、そっか……!」
市川「ちゃんと常識で考えて〜〜」
福丸「し、辛辣だね……! ごめんね……!
   えと……、お鍋がなかったら、なにか鉄板ない?」
市川「あは〜〜、お好み焼きのこういう鉄板がある〜」
福丸「あ、それで大丈夫!」
市川「これでいいの〜?」
福丸「その上にヒツジを乗せたらジンギスカンだよ」
市川「雛菜乗らないと思う〜……
   こんな小さな鉄板にどうやって乗せるの〜〜?」
福丸「い、一匹丸ごとじゃなくて!
   ヒツジの芸名を買ってくるの!」
市川「また業界〜……」
福丸「マトンかラム!」
市川「わかったからやり方教えて〜?」
福丸「う、うん……
   えと、油を使うから……」
市川「油〜」
福丸「食卓が汚れないように、まず準備として新聞を敷くの」
市川「新聞〜?」
福丸「新聞」
市川「雛菜のうちの新聞、電子版だよ〜?」
福丸「そしたら古雑誌とかでもいいから……」
市川「どんな雑誌敷いたらいい〜?」
福丸「どれでもいいと思うよ……!?」
市川「小糸ちゃんはしょっちゅうやってるからそう言うけど、
   雛菜初めてだから〜〜〜〜!!!」
福丸「ぴゃ!?」
市川「Vocal流行雑誌がいいよとか、
   Dance流行雑誌がいいよとか、
   Visual流行雑誌がいいよとか、
   ちゃんと言ってもらえたらやりやすいかも〜〜〜〜!!!」
福丸「そ、そんなに大きい声出すことかなぁ……
   そしたら指名したらいいの……?」
市川「うん〜〜〜〜!!!」
福丸「えと……
   そしたら、Dance流行雑誌を敷いて」
市川「Dance流行雑誌〜?」
福丸「Dance流行雑誌」
市川「雛菜、歌がそんなにだから
   Vocal流行雑誌のほうがいいかな〜」
福丸「じゃあそれ敷いて!!!」
市川「あは〜〜〜」
福丸「そしたらそこへ今度はガスコンロを持ってきて置くの」
市川「雛菜のうち、ガスない〜〜」
福丸「ガスないの!?」
市川「うちね〜?」
福丸「う、うん」
市川「IHなんだ〜〜」
福丸「あ、オール電化なんだ……」
市川「ガスがないの〜」
福丸「ど、どうしよう、コンロがないと……」
市川「火がつけばいいの〜?」
福丸「うん、一応……」
市川「テンションアロマ(3個入り)ならある〜〜」
福丸「火力足りないね……
   ホタルイカ炙るぐらいしかできないかな……」
市川「発想が北陸の呑んだくれみたいでやだ〜〜……」
福丸「そ、そしたらIHの上でいいから……」
市川「──IHの上にホットプレートを置いて〜」
福丸「ぴぇ!?
   ホットプレートあったの!? 言ってったら!!」
市川「お好み焼きの鉄板って普通それのことでしょ〜〜?
   常識で考えて〜〜!!」
福丸「ま、また辛辣だね……! ごめんね……!」
市川「続きは〜?」
福丸「そ、そうだね……!
   ホットプレートを食卓の上に置いて、熱くなったら」
市川「熱くなったら〜」
福丸「油をじゅうじゅうじゅうって塗る……!」
市川「え〜〜…… いや〜〜〜〜」
福丸「どうして!?」
市川「この料理でこれが一番難しい〜〜……」
福丸「難しいことないよ……?
   ホットプレートの上へ油をじゅうじゅう塗るだけだよ?」
市川「小糸ちゃんは簡単に言うけど〜、
   焼けた鉄板の上へ指の先で油じゅうじゅうじゅう……
   ……熱すぎて無理〜〜〜!!」
福丸「誰も指で塗れって言ってないよ!?」
市川「やったでしょ〜〜?」
福丸「格好だけだよ!?」
市川「ちゃんと教えて〜?」
福丸「……油引きに油を付けて」
市川「何〜? その油引きって〜」
福丸「えっと……
   関西では『ぼんぼらさん』ともいう……?
   ……??……?」
市川「ますます何〜〜〜〜????」
福丸「う、うん、ごめんね!?
   これはわたしもよくわかんないや……」
市川「お好み焼きの油ひくやつ〜?」
福丸「知ってたら言って!?
   油を付けて」
市川「付けて〜」
福丸「鉄板の上へじゅうじゅうじゅうと塗るの」
市川「じゅうじゅうじゅうじゃないとだめ〜?」
福丸「ぴぇ?」
市川「にーちゅにーちゅでも」
福丸「なんでもいいと思うけど……」
市川「あは〜〜
   ──『塗りたて♡にーちゅ』!!」
福丸「お、怒られても知らないからね……!?
   ……塗ったんだね?」
市川「塗った〜〜」
福丸「しばらくするとこの油が踊るから」
市川「へ〜〜〜〜???」
福丸「しばらくしたら油が踊るから!」
市川「雛菜が歌うたえばいいの〜〜?」
福丸「ちがうの、油が跳ねるのを踊るっていうの!」
市川「あ〜
   だからDance流行雑誌のほうがよかったんだ〜?」
福丸「それでいいよもう……
   そして、油が踊りだしたら」
市川「踊りだしたら〜」
福丸「ヒツジの芸名、マトンを乗せて
   表が焼けたら裏を焼いて、裏が焼けたら表を焼いて」
市川「お肉の裏表はどう見分けるの〜?」
福丸「知らないよ!!
   すきに焼いてタレつけて食べて!」
市川「すき焼き〜?」
福丸「ジンギスカン!!」
市川「あは〜〜♡
   ゆうべ食べた〜〜〜〜♡」
福丸「もういいよ!!」

○ON STAGE 00:08:59

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