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 眠れぬ真珠 著:石田衣良

 285ページ読了。内田咲世子と言う45歳の銅版画家が主人公だ。画商の三宅卓治の愛人だった。ところが28歳で17歳年下の映像作家の徳永素樹に恋をしてしまう。そんな話しだった。人生の秋に訪れた幸福な時間。決して永遠には続かないと自覚しながらその幸せに浸っていた咲世子。三宅の愛人はもう一人居て福崎亜由美と言う若い美術館のキュレーターだった。

 咲世子は仕事で素樹のドキュメンタリーに協力する。そして三宅も振り、亜由美に苦しめられる。亜由美は山陰地方の裕福な家庭で育ち、金が唸るくらいあるそうだった。亜由美は三宅から愛を受け取れないとわかると郵便ではなく自分で書いた手紙をポストに入れると言う手法で三宅も離婚に追い込んだし、咲世子にも八つ当たりして来るのだ。

 舞台は葉山と湘南でリキッドカフェと言う咲世子の行きつけの飲食店で、そこで働いてたのが素樹だった。素樹は映画監督になるのが夢な映像作家だ。そのモチーフに咲世子は選ばれて、逢瀬を重ねる事となる。素樹は清太郎とノアと言う兄妹と3人で良く映画を見て過ごして、CFなどの細かな仕事をしながら長編映画を撮る所だったがお金のトラブルが原因で湘南のリキッドカフェで給士の仕事をしていた。ノアは女優で清太郎はプロデューサーだ。素樹の初恋はノアだったし、いずれは映像の仕事をする為に東京に帰るはずだった。

 冬から始まって春を迎える頃に終わった情事だったしお互いにとって大事な時間を過ごした二人だったが、素樹は東京に帰らなければならない。咲世子は断腸の思いで素樹を振ったのだ。

 亜由美は高層ホテルから飛び降りて死んでしまうし、三宅は咲世子に未練がある。でも、咲世子は三宅の巣に帰るような事はしない。人生最後の恋を心に留めて、素樹が東京へ旅立つ手助けをした。

 素樹は最後に咲世子の自宅に手紙と咲世子に迫ったドキュメンタリーフィルムを届けて東京に旅立った。素樹と出会う事で咲世子の作品にも変化が現れ、新しい連作を三宅の画廊で展示したのだ。

 アーティストと恋。恋はアーティストの閃きや表現手段をも変える力を持っている。無事に素樹は長編映画の監督としてデヴューし、咲世子も新聞の連載と新しいシリーズ作を作り終え、タヒチに向かった。そこで素樹が作った咲世子のドキュメンタリーを見るのだ。

 大人の恋の甘いだけじゃないハッピーエンド。凄く濃密に描かれていたのは海と空と雲の色。その後のエピソードは読んだ人にだけで十分だ。

 島清恋愛文学賞受賞作のこの作品。山本文緒さんも最後『自転しながら公転する』でこの文学賞を受賞したのを喜んでいたっけ。島清恋愛文学賞はまだ日が浅い文学賞だ。島清恋愛文学賞縛りで色んな作家さんを見つけるのも有りだなと思った。

 今回は読むのに時間がかかったし、濃密な読書体験だった。しかも読後に引っ掛かるものも無い。全て語り尽くしてくれた石田衣良さんに感謝を送ろう。最後の終わり方が胸をすくように素敵だった。正月休み読む本が無いのが一番心配だ。

 以上

今日もコンビニにコーヒーとタバコを買いに行きます。私の唯一の楽みです。奢ってくれた方はフォローしてイイねしてコメント入れさせて頂きます。それくらいのお返ししかできませんが、ご支援して頂けると幸いです。