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福岡県福岡市|23億件のビックデータを分析し健康先進都市を実現、36億円の経済効果

福岡市は福岡県の県庁所在地で、九州の北岸に位置し、観光地としてだけでなく大きな都市としても有名で、人口は約150万人にも達しています。
(福岡市はもはや地方ではないのではないか・・・という点は大目にみてください。。)

少々余談になりますが、福岡市で創業したベンチャー・スタートアップは多く(GMOペパボ、CAMPFIREなどの創業者である家入一真さんも地元福岡で起業されました)、福岡市では法人設立時の登録免許税を免除する「福岡市新規創業促進補助金」などでスタートアップの支援を行っています。

ベンチャー・スタートアップが盛んな福岡市で取り組んだ、ICTを活用した健康先進都市の実現についてご紹介します。


高齢者が健康上の問題で日常生活の制限がないように

高齢化は全国どこの地域でも直面している課題です。ただ、高齢化によって発生する課題の内容は場所によって異なります。農業や漁業が盛んな地域では後継ぎがいないという課題が大きいのですが、福岡市のような都市部においては、高齢者の人口が非常に多くなるため、介護が必要な家庭が増え、在宅医療・看護・介護といった生活インフラにおける整備が必要です。

健康上の問題で日常生活が制限されてしまわないように、ICTを活用した情報基盤福岡市地域包括ケア情報プラットフォームを構築しました。

多様なサービスを断片的に使うのではなく、全体最適の視点で高齢者が必要な仕組みを全て提供するというものです。
このプラットフォームは大きく4つのシステムで構成されています。

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1.データ集約システム(careBASE)

これまで行政内で断片的に管理されていた医療、介護、健康(予防)、生活支援、住まいなどの情報を集約し、高いセキュリティ環境の中で一元管理するシステムです。管理するデータは約23億件です。

これらのデータを住民情報に紐付けて管理しているため、個人ごとの医療・介護・健康に関する情報をすぐに確認することが可能になりました。

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2.データ分析システム(careVISION)

1のシステムで蓄積した膨大なデータをもとに分析し、地域が抱える特有の課題を明確化し、最適な施策を立案できるようになりました。

人口構成、出生数、地域(場所)、健康状態、医療費・介護費、死因、といった様々な情報を分析することで、例えば、地域別に個人の出生から死亡までにかかる医療費・介護費の推計を行うことができます。介護認定状況なども分かるため、実際のデータに基づいた施策を講じることができます。


3.在宅連携支援システム(careNOTE/ケアノート)

行政が持つ介護情報や健診結果の情報を、関係者へ展開・共有するシステムです。(ご本人やご家族の同意を得られた上で共有します)

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※出展:ケアノートポータルサイトより

家族、福岡市、医療・介護機関、訪問介護士、ヘルパー、ケアマネジャーなど、様々な関係者と情報を共有することで安心した暮らしを実現しています。医療・介護機関との連携だけでなく、行政とも連携しているため、行政へ提出しなければならない書類なども簡単に提出することが可能です。

情報が共有され、従来や独自にアナログに管理していた情報へすぐアクセスできるようになったため、医療・介護関係者の負担が軽減されました。負荷が軽減されれば、ケアサービスへより多くの時間を費やすことができるため、ケアサービスの質も向上しつつあります。

実際の「careNOTE/ケアノート」システムはこちらです。

→ https://carenote.city.fukuoka.lg.jp/index.html


4.情報提供システム(careINFO/ケアインフォ)

各地域における医療機関や介護施設の状況、民間企業や団体が提供する生活支援サービスなど、生活する上で必要となるサービスなどWebサイトで公開し、誰でも簡単に検索できるシステムです。

民間企業や団体が提供するサービスまで入れると、行政だけで全て把握することは難しいため、そういった見つけにくいけれど優良なサービスを探せるようになりました。

実際のシステムはこちらです。


福岡市が中心となり資金を補助

システムの開発費は約 9,000 万円でした。そのうち、3/4 を福岡県の地域医療介護総合確保基⾦、1/4 を福岡市が⽀出しました。

また、年間約3,600万円の運⽤費⽤は福岡市が⽀出しています。


年間36億円の経済効果を生み出す見込み

定性的な効果は既に出ており、定量的な目標としては以下の数字が挙げられています。

◯ 在宅ケアの充実(介護離職減少・健康寿命延伸)
→高齢者の就業率を1%増加(2020年度目標)
→36億円/年の経済効果

◯ データ分析結果に基づく医療・介護予防の推進
→医療費(後期)の増加を5%改善(2020年度目標)
→4億円/年の医療費負担軽減


ポイント

この取り組みはシステム構築までに約2年かかった大規模なプロジェクトです。1年目にシステムのコアとなるデータ基盤を構築、2年目にテスト運用してシステム機能の改修と強化を実施、3年目に運用を開始しました。

基盤構築→テスト運用→本番運用というロードマップを描いて計画的にプロジェクトを推進したことは重要なポイントです。システムの規模が大きくなればなるほど、一気に構築して運用もまわるということは難しいため、時間をかけてテスト運用を経て本番運用へたどり着いたのだと思います。

もう1つのポイントは情報セキュリティです。
システムで取り扱う情報が、住民情報や医療情報など、非常にパーソナルな情報が多いため、高いセキュリティレベルが求められます。

技術的な面では、銀行が提供しているインターネットバンキングと同程度以上のセキュリティレベルで対応を行っています。また、4つのシステムはすべて⼀つの筐体の中で稼働しており、4システム同士の連携は行っていますが、外部のネットワークは一切経由しないようなクローズドな環境になっています。

技術面以外では、クリアすべき点が大きく2つありました。

1つ目は、元々データを保有している組織から了承を得ることです。この点は、今回の取り組みによるメリットやセキュリティ対策について丁寧に関係者へ説明することで理解を得られることができました。2つ目は、情報開示にあたって本人の同意を前提とした仕組みにしたことです。

地道な対応が必要になる情報セキュリティですが、セキュリティの課題をクリアしないと運用開始することができないため、ICT活用する上でのセキュリティ対策という面でも参考になる事例でした。

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