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学習の5段階、あるいはSOLO分類法 SOLO Taxonomy

以前の記事(関連記事参照)では、ブルームの分類 Bloom's Taxonomy を参照して単なる反復暗記は下策であること、それは暗記から始めると忘却曲線とひたすら戦う羽目になるからであるという助言を紹介した。


戦略転換:要素の逐次反復学習を後回しにして、先につながりや方向づけを学んでいく

ではどうすべきかというと、学習すべき科目の要素をひとつずつ暗記するところからスタートしてそれらをつなげるのではなく、つながりがわかっているところ、あるいはどういう方向付けあるいは価値づけで要素を評価すべきかを先取りして学んでから、後から必要な要素を拾って学ぶべきである。なぜならば、そうすることで、要素同士をどうつなぐべきか、どの要素を重要視すべきかが先にわかるからであり、高品質な encodingの可能性、すなわち、ワーキングメモリ(=短期記憶+α)から長期記憶に内容を移すときにバラバラの要素を放り込むのではなく、相互に関連した構造をインプットする可能性が開けるからである。

これは例えば、教科書に書いてある事項を最初からひとつずつ学ぶのではなく、章末の問題演習をまず読んで、問題を解決するために必要な知識は何か、それらを構成する観念はどのように相互につながっているかをページを後戻りして調べていくような作業となる。

SOLO Taxonomy

一方、学習の段階・進行度には幾つものモデルが提案されているようで、上述のBloom's Taxonomyだけでなく、SOLO Taxonomyというのもある。このSOLOとは、観察された習得成果の構造 Structure of Observed Learning Outcome の略である。このSOLO Taxonomyを参照して自分が特定の科目でどこまでの進度を持っているか考えることもできるし、あるいはSOLO Taxonomy の各段階に対応する質問(課題、問題)は、自分が今取り組んでいる科目に当てはめるとどんな質問になるのかを考えて、自分自身でそれに答えられるほど科目を習得しているかどうかを検討することもできる。

なお、SOLO Taxonomyを具体的にどうやって学習に応用したらよいかについて、2024年現在、日本語資料がインターネット上にはほとんどアップロードされておらず、残念である。

このSOLO Taxonomy では達成度 Competence を5段階に区別する。すなわち、前構造(構造なし)・単一構造(一個の構造)・多数構造(同じ科目の中の何個かの構造)・関係性(関係づけられた構造)・拡張抽象構造(関係づけられた構造の抽象化or記号化)の5段階である。例えば教師からみて、特定の科目における生徒の学習進度がどの程度なのかを測る指標としてこれを利用することができるだろう。

(0)前構造 Pre structural / Ready

Pre structural の段階では、生徒は学ぶべき科目についてひとつの構造も知らないとされる。この段階は学習の準備段階 Ready でもあり、何を学ぶべきなのかを探索している段階とも解釈できる。

この段階の学生はどれかの科目について質問を受けても答えられないか、無関係な回答を返すことしか出来ないと思われる。

(1)単一構造 Uni structural / One

Uni structural の段階では、生徒は一対一のつながり(構造)しか理解していない。言い換えれば、例えば一問一答式であったり、外国語の単語と母語の単語との単純な対応しか理解していない。そのため、単語や観念について説明を求められても、それに紐づけた一面的な説明や別の単語を回答することしかできない。

この段階の生徒は、例えば「今日の天気は何? What is the weather today?」といった質問であれば回答可能である。それは「雨です」といった単純な回答になるだろう。

(2)多数構造 Multi structural / Many

Multi structural の段階では、生徒は多数のつながり(構造)を理解し憶えている。しかし、つながり同士はただ同じ科目の中にあるという程度の薄い関係付けしかなされておらず、そのため、つながりはそれぞれバラバラに置かれている。

この段階の生徒は、例えば「今日の天気にふさわしい服装をいくつか教えてくれますか? Tell me some of the clothes suited for today's weather?」といった質問であれば回答可能である。それは「例えばパーカーやブルゾンです」といった回答になるだろう。どの天気にどの服装が対応するのか、対応する服装を複数挙げられるかどうかを生徒は理解している。

(3)構造関係 Relational / Connect + Relate

Relationalの段階では、複数の構造同士が関係づけられていて、科目の中に存在する構造が他の構造から相互に参照できるようになっている。ここでは、ひとつの構造が別の構造の根拠あるいは正当化の役割を担っているといった推論関係、あるいは、ひとつの構造を別の構造によって評価(比較的重要な構造か否か判定、ランク付け)した結果を生徒は理解している。

この段階の生徒は、例えば「どうしてこれらの服が年間のこの時期に最良の選択になるのですか? Why are these clothes the best choices for this time of the year?」といった質問であれば回答可能である。それは「なぜならば、この時期は降水量が多く、雨が降っても身体が濡れるのを防げるからです」といった回答になるだろう。ここで生徒は天候と服装の対応を理解しているだけではなく、なぜその天候に対してその服装が必要なのかという根拠、さらに、それぞれの天候に対して服装の価値づけをおこなうことができる。

(4)拡張抽象構造 Extended Abstract / Extend + Transform

Extended Abstractの段階では、ひとつの科目の中で関係づけられた構造のまとまりを、新たな一つの要素(専門用語または概念)として、他の科目で扱われる構造の中に組み込む部品として扱えるようになる。

生徒は他の科目からみて、すなわち、別の角度・方向性からみて、関係づけられた構造を再編成・再配列して説明し直すことができる。この段階では生徒は習得した概念を自分の個別の生活に適用することができるようにもなる。

この段階の生徒は、例えば「一年の異なる時期に対して、服の選択以外でどのようにして我々の行動を適応させることができますか? How else do we adept our behavior to different times of the year?」といった質問に回答できる。  季節・天候と服装の関係から延長して、服の選択以外の他の行動でもどのように年間の環境変化への適応が生じるのかを、生徒は仮説立てて、あるいは想像・予想して回答することができる。


さて、冒頭に述べたような、要素をひとつずつ憶えては忘れ憶えては忘れを繰り返して忘却曲線とひたすら戦うやり方よりも、先に要素の重要度や要素同士の関係性において何が問われているのかを知っていくやり方をこのSOLO taxonomyと組合せて考えてみると、(1)単一構造や(2)多数構造の段階から初めて同じ科目の中に散らばった構造を次々に憶えていく(=次々に忘れていく)のではなく、(3)構造関係における質問をまず立ててみて、それに答えるために(1)単一構造や(2)多数構造の段階の学びを必要かつ重要なものから学ぶといった順序立てが必要だという戦略になるであろう。

参考動画:SOLO分類で教え方をパワーアップする5つの方法 / 5 Ways To Power-up Your Teaching With The SOLO Taxonomy

関連記事:想起中心学習への批判

(3,309字、2024.07.14)

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