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イニシェリン島の精霊

正直、映画が終わった時の頭ん中は『???』だった。上映中は結構楽しく観ていたんだけれど、終わってみると…はてさてどう消化したらよいものかと。なので、いつも以上に沢山の方の考察やレビューを見たり聞いたりした。やはり、と言うのも変な話だけど、実に様々な考察がみられた。

本作には様々なメタファーが含まれていて、一度観ただけでは到底理解が及ばない。拾いきれている方々は口を揃えて傑作!とおっしゃっていますね。私も傑作!と言えるほどの頭が欲しかった…。でも、そういったメタファーやモチーフに気付けなくても楽しめる作りにはなっていると思う。

物語はパードリック(コリン・ファレル)がコルム(ブレンダン・グリーソン)に突然絶縁を告げられるところから始まる。まず、コルムがパードリックと関係を断ち切りたいと思った理由に私は深く納得してしまった。私のこの先の人生はコルムほど短くないと思うが、もう若いわけではない。薄っすら人生の終わりみたいなものが見え始めたというか、リアルになりつつあるこの歳だからこそ分かる事なのかもしれない。

同時にパードリックみたいな知人の事を思い出し、この映画を観たら何か気付くことはあるのだろうか…なんて考えたり。でもパードリックは悪人なわけではないし、あれが彼の日常生活であり人生なのであって、他人がどうこう言うのは余計なお世話だしそう簡単に変えられるものでもないし、と結論付けて知人について考えるのはやめた。

もう一つ感じたのは田舎感。本作の舞台はアイルランドの孤島、イニシェリン島(架空の島)。島民皆んなが顔見知りの小さな島。私は東北の田舎町出身なので、田舎独特の狭いコミュニティあるあるにとても共感した。

イニシェリン島からは本土の内戦が見える。生まれ育った土地と唯一の家族である兄パードリックから離れ、本土で暮らすことを決めた妹シボーン。やはり彼女にも共感してしまった。誰かに依存せず、自分の人生を生きたい、生きようと決めたコルムとシボーンとは対象的にパードリックは人に依存している。人に依存する人って、1人でいる事が寂しいと感じてしまう人に多い気がする。さっきの知人がまさにそうだ。

パードリックは自宅でロバを飼っている。人懐っこくて大人しくてとても愛らしい。パブにも一緒に連れて行くし、妹に家の中に入れるなと注意されても言うこと聞かないくらいパードリックは可愛がっている。それがまた依存しあっているようにも見える。ロバは愚か者や怠け者の象徴として描かれる一方で、平穏や平和を表す動物でもあるらしい(対象的に馬は戦争を表す)ことから、2人は似たもの同士である事が描かれていると思う。顔まで似ちゃってるし(笑)
対岸から爆撃音が聞こえてもこちらには関係なくて「せいぜい戦え、なんの争いか知らんが」と他人事。変化を求めない(変化が怖い)し、刺激なんて要らないし、誰かがそばにいてくれる平穏な日々が続くことを何より求めているんだろうなぁ。

自分は完全にコルム(&シボーン)派だと思っていたけど、これを書いていたら変化のない平穏な日々を望むパードリックにも感情移入してしまっている事に気付く…私の中にはコルム的な面もパードリック的な面も確実にあるなぁと。人間の二面性を表した映画でもあるのかもしれない。

後味あっけなかった割にだらだらとこんなに(まとまりの無い文章を)書いてしまった。考えを巡らせたりして結局楽しんでいる自分がいる。映画って面白い。

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