ご免侍　九章　届かぬ想い（十八話／二十五話）

2024年8月21日 19:15

あらすじ　
　ご免侍の一馬かずまの父が、散華衆さんげしゅうの隠形鬼おんぎょうきだと暴露された。一馬かずまは、連れさられた琴音ことねを助けられるのか。大烏元目おおがらすがんめに会う一馬は、琴音ことねそっくりの城主と対面する。天照僧正あまてらすそうじょうを倒すために城へ乗り込む準備が始まる。

十八

「私は戻らないよ」

　月華げっかが兄の臥竜がりゅうに、やさしくさとすように声をかける。露命臥竜ろめいがりゅうは、刀を鞘さやにおさめると立ち上がった。

「まて、どこに行く」
「隠形鬼おんぎょうきの所に戻るだけだ」
「話を聞け」
「聞いてどうする、今度お前と会うときは殺す」

　歩き出す姿はぎこちない、足の怪我は完治していない。

（そうか金鬼こがねおにとの戦いの時に、権三郎ごんさぶろうの弾にあたったか）

　彼はもう前のようには戦えないのだろう。ただ妹が心配で会いにきただけの兄。廊下を進み階段を降りるところを見届けると部屋に入る。

「栄さかえ、怪我はないか」
「大丈夫だよ、酒を飲んでたら、いきなり入ってきて驚いたよ」
「月華げっかも大丈夫か」
「私の心配を先にしないんだ」
「う……、そんな順番とかいいだろ」
「ああ、兄貴のところに戻ろうかな」

　ちらちらとこちらを見る月華げっかは、笑っている。

「なぁ月華げっか、散華衆さんげしゅうとは一体なんだ」
「私もよく知らないよ」

　荼枳尼天だきにてんを本尊として、生と死をつかさどる神を信仰対象にして不老不死を目指していた。

「そんなことが可能なのか」
「ないと思うよ、ただ子供を使ってやたらと蘇りの儀式をしていたかな」

　性行為は、そのまま生きるための力になる。すればするほど寿命が延びると考えて大名の家来達と結ばれていたという。

「なるほど、それで城の侍達を懐柔かいじゅうしていたのか」
「そうだろうね、男女で登城していたよ」
「男も……」
「そりゃ稚児ちご趣味のヤツもいるからね」

　一馬は、絶句しながらもやり方の汚さに深い闇を感じる。

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