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ご免侍 六章 馬に蹴られて(一話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。


「それで……どんな相談だい」
「別に相談したいわけじゃない……」

 お仙が、けふとんを一馬の首にもってくる。ひさしぶりのお仙の肌のぬくもりは、何も変わっていない。同じ体温を共有する喜びは、どんな快楽よりも最上のものに感じる。

 一馬は、女に甘えたい心はあるのだが、それに抵抗する壁のような気持ちが強い。

(溺れては、ダメだ)

 母親のぬくもりを知らない一馬は、無条件に人に甘えられない。その安心感が油断になると警戒していた。

「じゃあ、単に抱きたいから来たのかい」

 お仙は怒ってるようには見えないが、それでも気分を害しているように感じる。

「そんな事はない、ただ……」

 一馬が、お仙に会ったのは父親の事と露命月華ろめいげっかの事で話をしたいだけで、お仙と寝るためではなかった。しかしひさしぶりに会うといつしか酒を飲んで抱いていた。

(なにもかも忘れそうになるくらいに良い思いをした)

 上半身を布団から出すと起き上がるが、お仙が一馬の体に腕をからめてくる。

「なにか聞きたいんだろ」
「親父は何を考えているのか判らない」
「……他人の考えている事なんぞ、わからないのが普通さ」
「それでもなんとなく判るものじゃないのか」

 親子ならば父親の藤原左衛門ふじわらさえもんが、やるべき道を自然と理解できると思っていた。

「あの人は悲しいだけさ、だから仕事に逃げている」
「悲しい……、何が悲しいんだ」
「嫁さんが死んだからだよ」
「……」

 母親は死んだのか……、薄々は知っていた。ただそれを聞くのがはばかれるように思えた。

「お仙は、死んだ理由を知っているのか」
「……それは親父に聞けば」

 一馬から腕を離すと横を向いた。白い肩を見ているとまた欲情を感じる。

「なんだい、まだ何か言いたいのかい」
月華げっかの事だ、親父との関係は判るか」
「それは……私も知らない」

 お仙は、むっくりと起き上がると浴衣をなおしはじめた。さっさと帰れと言わんばかりに冷たい態度だ。一馬は、これもよく判らない。お仙が気分を害した理由を知りたかった。

新しい章になります、よろしくです。

#ご免侍
#時代劇
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#小説


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