ご免侍 三章 熊の敵討ち(一話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をする。
一
「一馬いるか」
蝮和尚が、玄関先に来ていると下女のお徳が知らせに来る。投げ込み寺に住んでいる蝮和尚は、身元が判らない死体を埋葬していた。
部屋に通すように伝えると、蝮和尚は、白だか黒だか判らない汚れた僧衣で、部屋にずかずかと入ってくる。元から貧乏なので、僧衣も洗わないのだろう。
「一心和尚(蝮の本名)殿、何かありましたか」
「切られた男が、かつぎこまれた」
「町人ですか」
「武家だな、仇討ち免状をもっていた」
「同心に知らせましたか」
「面倒がってやらんよ、だからお前から知らせてくれ」
和尚は免状と大小の刀を畳の上に置く、一馬は一分銀を二枚(十万くらい)を、紙に包むと和尚の前に置いた。嬉しそうに、紙をおしいただいて帰って行く。和尚は一馬に厄介ごと押しつければ、金ももらえるし得だ。
「無名の刀か……」
刀を抜いて見ていると抜け忍の露命月華が、部屋に入ってくる、すっかり馴染んでいる彼女は自由に部屋を使っている。
「なまくら刀を見てどうしたの」
「男が殺された、遺品だよ」
一馬の背中に自分の胸を当てる。よりかかるように背後から刀を見ている。いや見ているように見せかけて、一馬の反応を楽しんでいる。
「重いな」
「思いとか嬉しい」
「そんな事は言ってない」
「私が好きだよね、見ていれば判る」
姉御肌で威勢がいい台詞がポンポン飛び出すが、見た目はそこらの少女にしか見えない。幼い顔立ちは年相応に感じる。しかし芸者姿になると、いっぱしに見えるから不思議だ。
「仇討ちのつもりが返り討ちで殺された男の刀だ」
「かわいそうに、武士って大変だね」
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