ご免侍 三章 熊の敵討ち(二話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をする。
二
「某藩の納戸方か」
「弱そうね」
「理由は、……父親を殺されているな」
「まぁ、かわいそう」
「どうやら父親が納戸方で、殺されて金蔵から小判を盗まれている」
「犯人は逃げていたのを見つけられたのかな」
金蔵の話で思いだす。お月と争っていた男の事だ。岡っ引きが襲われていた。岡っ引きを殺さない理由は、捜索を本気にさせないためだろうと一馬は考えている。本気で調べられると支障が出る。
「お月、あの男とはどんな仲なんだ」
「男って誰」
「体のいかつい男だよ、俺と戦っていた」
「大瀑水竜ね、あれは……私の頭よ」
「そこから抜けたんだったな」
「そうね」
お月は、自分の身の上話はしたくないようで、一馬も積極的には聞かないようにしている。
「どちらにせよ金蔵が襲われた事件の被害者が殺されている」
一馬はお月の顔を横目で見る。むすっとしている彼女は私は知らないとでも言うように顔を背けた。
「殺された武士も、水竜が殺したんじゃないのかな」
一馬は、この事件も一連の流れに関係しているように感じる。
「知らないよ」
お月は、ふいっと立ち上がるとさっさと部屋を出て行く。女の良い匂いを残して、一馬は一抹のさみしさを感じる。近寄られると抱きしめたくなるが、今は我慢をしていた。父親からかくまうように頼まれている。下手に手出しは出来ない。
(少し調べてみるか)
いつもの癖だ、疑問を感じると調べたくなる、猫がネズミを見つけたようい好奇心で動きたくなる。
立ち上がろうとすると、また下女のお徳ばあさんが部屋に来た。なにかあわてているような雰囲気だ。
「一馬さん、熊が居ます」
(熊?)
江戸のど真ん中に熊が出るとは思えない。
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