ご免侍　九章　届かぬ想い（十七話／二十五話）

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あらすじ　
　ご免侍の一馬かずまの父が、散華衆さんげしゅうの隠形鬼おんぎょうきだと暴露された。一馬かずまは、連れさられた琴音ことねを助けられるのか。大烏元目おおがらすがんめに会う一馬は、琴音ことねそっくりの城主と対面する。天照僧正あまてらすそうじょうを倒すために城へ乗り込む準備が始まる。

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十七

　暗い無表情な男は、一馬を見ていない。妹の月華げっかを見つめている。

「戻れ」
「……」

　露命月華ろめいげっかは、兄を前にして無言だ。海賊の娘の村上栄むらかみさかえは、部屋の隅で槍をかまえている。

「露命臥竜ろめいがりゅう」
「……」

　一馬が部屋に入らずに名を呼んだ。

「なぜ、ここにいる」
「妹を迎むかえにきただけだ」

　露命臥竜ろめいがりゅうと、まともに話をしたのは初めてだ。一馬は廊下で腰をおろして立て膝ひざになる。

「少し話していいか」
「何の話だ」
「月華げっかを連れ戻してどうする」
「……散華衆さんげしゅうは終わりだ」
「元から始まってもいない、お前達は道具と同じだ」
「月華げっかもイケニエの娘だ」

　安徳天皇あんとくてんのうを蘇らすために、どれほどの子供をイケニエにするつもりだったのかはわからない。何十人も海に沈めるつもりだったのか。

「月華げっかを、どうするつもりだ」
「逃がす」

　予想外の答えでとまどった。だが露命臥竜ろめいがりゅうは、思想信条しそうしんじょうに縛られる男には見えない。嘘なのか本当なのかわからない死者復活を信じていなかった。理にかなった考え方だ。

「悪いが月華げっかは渡さない。俺が妻にすると誓った」
「……」

　露命臥竜ろめいがりゅうが刀を抜いて突きつける。しかし大刀に殺気がない。切っ先をつきつけただけで止まっていた。

「なぁ、お前は月華げっかが好きだろ」
「……」
「なら妹がしたいように生きさせろ」
「お前と結ばれると幸せになるのか」

　少しだけ感情が顔にでる。愛してやまない女が幸せになる。それだけで十分に満足したようなほころび。

（ああ、こいつは本当に月華げっかを愛しているのか）

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