ご免侍　九章　届かぬ想い（九話／二十五話）

2024年8月8日 20:00

あらすじ　
　ご免侍の一馬かずまの父が、散華衆さんげしゅうの隠形鬼おんぎょうきだと暴露された。一馬かずまは、連れさられた琴音ことねを助けられるのか。

九

「月華げっか、俺と夫婦になるか」
「……そのつもりだよ」
「仕事はどうする」
「それは……私が芸者やるよ」
「江戸に住みたいんだな」
「別にどこでもいいけど」

　目をふせる月華げっかは、こうしてみると歳なりの子供にも感じる。目の前の男と一緒に居たい。

「栄さかえは、俺を婿むこにしたいのか」
「そのつもりだ」
「俺は、藤原家を……そうか捨てるのか」

　父親の藤原左衛門ふじわらさえもんは、幕府を裏切った男だ。元の家に戻れるとは思えない。家を守ってくれる伊藤伝八いとうでんぱちやドブ板平助の事を思いだす。

（俺は覚悟を決めないといけない）

「俺は江戸にも戻れぬし、幕府から切腹を言い渡されるかもしれぬ」

　少女達は黙り込む。

「村上主水むらかみもんどの家に婿むこ養子として入るならば、生き延びる可能性は高い」

　自分で説明しても欺瞞ぎまんだらけに感じる。ただ今だけは少女達がいがみ合う事は避けなくてはいけない。

「月華げっか、俺に仕えてくれるか」

　少女の顔は悲しそうに見えるし、嬉しそうにも見える。複雑な心境がからみあいながらも、納得した顔になる。

「判った、あんたに命をあげる」

　その誓いの言葉は、何よりも崇高に感じた。自然と眼から涙が流れ落ちる。

「男が泣くな」

　村上栄むらかみさかえが、たもとから布をとりだすと顔をごしごしとこすりはじめた。なんか痛い。でもその痛さが嬉しいと感じる。

　どたどたと廊下から足音が聞こえる。わざと音を立てているのだろう、元山賊の権三郎ごんさぶろうが、部屋に顔を出す。

「一馬様、文が届いています」
「島に文が……」

　島にも飛脚から届けられた書状が来る場合もある。先の鉄甲船てっこうせんの攻撃で忘れ去られていた。

「これは……」

　書状は水野琴音みずのことねへの手紙だった。送り主は大烏元目おおがらすがんめと書かれていた。

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