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ご免侍 七章 鬼切り(三話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。


 月華げっかは、腕にぶらさがりながら

「今日は、どっちと寝るんだい?」
「ちょっ、何を馬鹿な。琴音ことねに、そんな事が」

 横で琴音ことねが、立ち上がると台所のすみの方に逃げていく。月華げっかは、目を丸くして笑い出した。

「違うだろ、寝たいのは」

 横目で老人達の相手しているお仙を見た。自分の勘違いで怒りを感じたが、月華げっかを見ていると怒りも消える。あの時の口吸いの記憶が蘇るからだ。じっと見つめていると月華げっかが、腕から手を離して飯を食い始めた。なにか恥じらいがあるかのようにほおが赤い。

 一馬がこの村では一軒しかない宿屋から外にでる。宿屋とは名ばかりで土間しかない。たまに来る村の外からの湯治客とうじきゃくを泊めていた。

雄呂血丸おろちまる殿、どうしました」
「これから、どうするおつもりで」

 妙に真剣な雄呂血丸おろちまるを見ていると、ただの大道芸人には見えない。体が大きいのでそれだけ自信があるせいだと思っていたが……

「お爺々様じじさまは、ここで逗留とうりゅうしていただき。私と琴音ことねで山を抜けます」
「西国でしたか」
「岡山城だと思いますが……」

 岡山城は、別名で烏城からすじょう。黒い城壁から鳥の名前で呼ばれる。

「場所はしかとは聞いておりませんか」
「そういえば……城までいけば判ると思っていました」

 琴音ことねは、謎が多い。大烏おおからす城を詳しく知らない。会ったときは、なにもかも根掘り葉掘り聞かなかった。特に最初に出会った頃は、付き人は殺された事もあって、そっと触れないでいた。

(敵の襲来で、ひたすら送り届ける事だけを考えていた……)

「もしよろしければ、私も同行させていただきますぞ」
「それは、かまいませんが命がけになるやも」

 雄呂血丸おろちまるも謎が多い。一馬は助けてもらった事もあり、いつのまにか一緒に居るのが当たり前に感じていた。

(なぜだ、ここまで俺に……いや、琴音ことねの事が心配なのか……)

 ぼんやりと違和感があった。

#ご免侍
#時代劇
#鬼切り
#小説


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