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ご免侍 七章 鬼切り(二話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。


 どんな状況でも腹はへる。一馬は板敷いたじきに座ると粗末そまつわんをとって雑穀ざっこくを口にする。白米になれた一馬は、口をゆがめた。

(こんなものを食って力になるのか……)

 隣で水野琴音みずのことねが、食事をしている。女性と一緒に食べていると、なにか心があたたかく感じる。

(俺は琴音ことねに、母の姿を求めているのか……)

 やさしくて、きびしくて、自分を大切に思ってくれる異性。なぜか琴音ことねに、欲情を感じないのは母として見ているためか。

「あたしも食べるよ」

 どんっと、月華げっかが空いている隣に座ると箱膳はこぜんを引き寄せて、真横で食べ始めた。

「一馬、たべさしてあげようか」

 ほとんどくつきそうな近い位置から、月華げっかが漬物の大根を差し出す。

「うん、いや自分で食べる」
「いいじゃん、あーんして」

 断る事も考えたが騒がしくなるのは目に見えている。黙って口をあけると乱暴につっこまれた。

「げっほげっほ」
「大丈夫ですか、一馬」

 琴音ことねが、湯飲みの白湯さゆをさしだす。そっと手に取り飲み干した。月華げっかが、対抗意識むきだしで湯飲みを一馬のほおにくっつける。

「白湯なら私のも飲んで」
「カンベンしてくれ」
「本当に仲がよいですな、わはははははっ」
 
 さわがしくなると、さっきまのでざわつきがおさまってきた。

(俺は本当に弱い、母の死はどこかで覚悟していたはずだ……)

 しばらくすれば忘れる、母が死んだ事は悲しいが……しかし殺されたと聞いた。敵討ちはしたのだろうか、殺された理由もわからない。

「一馬殿、よろしいですか」
「なんですか」

 ぬっと立ち上がると、六尺をこえる雄呂血丸おろちまるは、やはり熊のようにでかい。ちょいちょいと手まねきすると外に出た。一馬は飯の残りをかっこむと立ち上がるが、月華げっかが甘えるように腕にしがみついていた。

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